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先駆者 ~ 天翔けるYAMATO-Ⅲ  作者: サクラ近衛将監
第四章 事業展開
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4ー7 事業の開始 その七

 更に二日の研修を受けて、新人研修は終わった。

 嘉子の頭には、膨大な知識が入り込んでいた。


 嘉子は、坂崎親子の開発した重力制御装置、高次空間転移装置、高次空間通信装置、動力炉、エルニット鋼材をはじめとする新たな建造材料などの理論と技術的知識の双方を理解できるようになっていた。

 そうした一方で、誠一が言うように新入社員の全てにそうした知識が与えられたわけではないことも知っていた。


 一定レベル以上の資質のある者以外には一部の情報しか与えられていないのである。

 嘉子を含め事前に招請された者40名はその知識を与えられたが、一般公募と高校新卒者の中で当該知識を与えられた者は、山内昭二と北条早苗の二人だけ、どちらも高校新卒者であった。


 この二人は、いずれ、社内でも相応の職に就くことになるだろう。

 因みに、山内昭二は宇部広工業高校卒で製造部に属する工員、北条早苗は隣町の斗割志御津高校卒で秘書室所属の秘書として辞令をもらっている。


 従って、北条早苗は、嘉子の部下である。

 嘉子のもう一方の肩書である広報室長は、目下のところ部下の配属はない。


 誠一の話では、10月に再度の募集を行うとのことなので、少なくともそれまでは一人二役をこなさなければならないようだ。

 8日からは、製造部の者は作業機械や設備の制作に掛かり始めていた。


 最も重要な機材である組成構造変換装置は、既に6台ほど完成していたが、OJTを兼ねて同装置を最初から作り上げるのが今週及び来週の仕事である。

 組成構造変換装置はComposition Structural Converting Equipmentの略でCoSCEq:コセック又はC&C装置と呼ばれているが、簡単に言うと物質の原子構造そのものを変えてしまう装置である。


 有る力場を与えてその中で特定の電磁波を照射すると物質の中の特定元素が抽出される。

 その抽出過程では、特定物質を形成する空間に溜めこまれたクォークが吐き出されることにより、化合物質又は混合物質からクォークが飛び出してくるのだが、クォーク自体は極めて短命である。


 何となればすぐに空間にとりこまれてしまうからである。

 そうしたクォークを取り込んだ空間は、一定の性状をもつ物質として認識されることになる。


 だが、そのクォークを制御してやると同じ陽子、中性子、電子を有する元素であっても全く異なる性状の物質に変化するのである。

 例えば、酸素は物質を酸化しなくなるし、不活性元素と呼ばれる元素もカルシウムやナトリウム以上に活性化することができる。


 一般的にアルカリ性状を示すカルシウムは同じ強度のアルカリであるナトリウムとは反応しないが、この装置で造られたカルシウムは、ナトリウム化カルシウムを形成してしまうことができる。

 エルニット鋼材は土壌中に含まれるシリコンを抽出し、それを別の性状に置き換えたものである。


 全ては32個のクォーク種と真空から構成される物質の組成理論から導き出された成果である。

 その過程で真空空間には負の空間が有ることもわかり、負の空間にクォークを取り込ませることで反重力を得ることができ、逆に負の空間からクォークを吐き出させることで重力を得ているのである。


 このCoSCEqの理論を本当にわかっているのはSZ指数で80以上の者である。

 因みに嘉子は124で坂崎親子と東山直哉を除けば社員の中でも最高位である。


 それはともかく、製品の生産を開始するにはまだもう少しかかるものの、会社が順調に動き出したことには間違いない。

 第一工場内の一部に3階構造で併設された事務所内で、嘉子達総務部の職員も働きだしている。


 総務部長は坂崎喜代美が担当している。

 総務課長は欠員で、総務課長代行はいるが、嘉子の上司は喜代美夫人となる。


 一方、秘書室勤務は嘉子と、北条早苗だけであるが、幸い、北条早苗は覚えの早い娘で、言われたことはきちんとこなしている。

 そうして、入社式のあった1日から盛んに問い合わせが来ているのだが、この8日までは守衛室で一切をキャンセルしていた。


 8日からは、総務部総務課で対応し、広報、秘書室、経理、厚生、営業などにそれぞれ振り分けている。

 尤も、総務課で対応するのは午前8時半から午後5時半までの間であり、時間外は守衛室が対応することになっている。


 8日は特にマスコミからの取材要請が盛んに来ているのだが、全て断っている。

 節目、節目で、記者会見などの広報は行うことにしているが、工場内への取材は今後とも全て断ることになるだろう。


 無論、広報だけでなく視察についても原則的に断ることになっている。

 部外の者で工場内に立ち入りを許されるのは関係省庁の検査官だけになる筈である。


 その断りの対応だけで嘉子は殆ど丸1日を潰していたので、秘書業務はほとんど早苗に任せ切りである。

 尤も、秘書の対象である社長と専務取締役が、工場で製造部の職員を相手に殆ど出ずっぱりであるから、秘書の仕事も電話の受け答えがほとんどである。


「ただ今社長は現場の方へ出向いております。

 御用の向きを御伺いして後日改めてお電話したいと存じます。」


 そのような受け答えが繰り返されることになる。

 これは、相手が大会社の社長であろうが国会議員であろうが全て同じである。


 事前に坂崎から指示を受けている者に限り、構内だけのPHS電話を使って、坂崎なり誠一なりに回すことになる。

 そうした電話応対に関する限り、喜代美夫人は一切表面には出て来なかった。


 無論、総務部として対外的に対応すべき案件は喜代美が対応するのだが、今のところ、それは福利厚生分野に限られることになるようだ。

 人事については今のところ要員すらも置いていない。


 福利厚生課も、年金保険担当、福祉担当の各1名に課長代理が1名だけ、総務課は、法務、内規、契約、調査室に分かれているが、法務には若手弁護士が二名、内規には公務員経験者、契約は司法書士の有資格者が割り振られていた。

 調査室は今のところ配属が無い。


 経理部門は経理課と補給課が有るが、どちらも課長代理までで、部長は欠員である。

 経理課3名、補給課2名である。


 経理部の課長代理二人は、銀行での勤務経験がある。

 いずれも4年前のサラ金の法改正により大手銀行のサラ金がかなり縮減された際、それまでサラ金に配属されていた職員が大量解雇された。


 二人はサラ金職員では無かったのだが、サラ金に出向していた有能な社員を呼び戻すために本体の銀行内部でも様々な人員整理を行い、そのあおりを食らって解雇されたのである。

 いずれにせよSAKAZAKI製作所の歯車が回り始めていた。


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