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先駆者 ~ 天翔けるYAMATO-Ⅲ  作者: サクラ近衛将監
第四章 事業展開
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4ー4 事業の開始 その四

 ホテルのレストランに左程客はいなかった。

 4月に入ってスキー客も一段落し、客足が遠のく時期でもある。


 薄暗い間接照明の中で案内された席に座ってすぐに誠一が中華国語で聞いてきた。


「このお店どうだい。」


 嘉子も中華国語で返す。


「ええ、とても雰囲気がいいわね。

 落ち着いて食事が出来る雰囲気だわ。」


 そのまま中華国語で会話をしていると、間もなくウェイトレスがやってきたが、少し離れたところでもじもじしている。

 誠一と嘉子が会話を中断してそちらを見ると、ようやくおずおずと近づいてきて英語でたどたどしく聞いた。


「英語はお分かりでしょうか?」


 誠一も英語で答えた。


「ええ、英語はわかりますが、君は日本人では無いのですか?」


「日本人ですが、あの・・・。

 貴方がたは中華国から来られた方なのでしょうか?」


 誠一は微笑んで日本語で言った。


「いいえ、日本人ですよ。

 ですから日本語でどうぞ。」


 途端にそのウェイトレスは緊張が抜けたようだった。


「ありがとうございます。

 英語は余り得意な方じゃないものですから・・・。」


 そう言ってから、突然何かに気付いたようにまじまじと誠一の顔を見て、更に嘉子の顔を見た。


「あーっ、坂崎さん。

 それに篠塚さんでは無いですか?」


 甲高い声は店内によく響いた。

 嘉子と誠一は苦笑して、それから頷いた。


 ウェイトレスは漸く自分の立場に気付いた。


「あっ、あっ、申し訳ありません。

 お客様にお名前をお尋ねするなんて、それに大声でお名前を呼ぶなんて・・・。

 チーフに叱られます。

 本当にごめんなさい。

 メニューをお持ちしましたので、どうぞご覧ください。

 ご注文が決まりましたらお呼びください。」


 メニューを置くとすぐにウェイトレスは離れて、奥まったところで、誠一の見える位置に佇んだ。

 呼ばれたらすぐに来るためであろう。


 二人でメニューを見て、結局、シェフのお勧め料理を頼んだ。

 内容はわからないが、季節の野菜、スープ、肉料理にデザートとコーヒー又は紅茶がついているものである。


 ウェイトレスに向かって手を上げると、ウェイトレスはすぐにやってきた。

 注文を済ませると、すぐにウェイトレスが立ち去ったが、その5分くらい後には、入れ替わり立ち替わり、厨房の方から色々な顔が見え隠れする。


 誠一が今度はギリシャ語で話しかけてきた。


「どうやら、ここでも人目を引いちゃったみたいだね。」


「仕方が無いわね。

 私も誠一さんもタレントでは無いけれど、タレント以上に知れ渡っているもの。

 有名税と思って諦めるしかないでしょうね。」


 料理が来る前にそうした騒ぎを聞きつけたのか、蝶ネクタイの男がやってきた。

 白人男性である。


 一礼をしてから、その男が英語で言った。


「失礼を申し上げます。

 私、マルケス・サレンドと申しまして当ホテルの支配人をしております。

 坂崎さまと篠塚さまがいらしているとお聞きしましたのでご挨拶に参りました。」


 綺麗な発音であるがややラテン系の訛りが有るようだ。

 男は名刺を差し出した。


 誠一は名刺を受取りながら返事をした。


「わざわざ恐れ入ります。

 マルケスさんはお名前から察するにスペインかポルトガルの方でしょうか?」


「はい、私はスペイン人です。」


 誠一は、スペイン語に切り替えて言った。


「それは、それは、遠いところからようこそ日本へ。

 日本の印象は如何ですか。」


 支配人はちょっと目を大きくしながらスペイン語で言った。


「うーん、本当に久しぶりに母国の言葉を聞きました。

 それにスペイン語が大変御上手でいらっしゃる。

 ご質問にお答えしなければなりませんね。

 日本全体は必ずしも知りません。

 でもこの北❆道はとてもいいところですね。

 スペインにもピレネーがあって雪が降りますが、ここほど多くは無いのですよ。

 そうして何より自然が一杯ですし、住んでいる人たちも素朴でいい人ばかりです。

 こちらに来るときは随分と不安を感じていましたが、今ではここに骨を埋めてもいいとさえ思っています。」


「それは良かった。

 折角日本にいらして、悪いところばかりが目については困ります。

 是非、御国の方にも日本の良いところをご紹介ください。」


「何だか、役回りが逆のようですね。

 私がゲストになったようです。」


 それを聞いて誠一と嘉子が同時に声を上げて笑った。

 それを見てマルケスが更にスペイン語で質問する。


「失礼ですが、篠塚様もスペイン語がお分かりになられるのですか?」


「はい、難しい話は出来ないかもしれませんが、普通の会話でしたら十分に理解できると思います。

 マルケスさんの発音からすると、アンダルシアのグラナダ付近のご出身ですか?」


 こんどこそ、支配人は明確に驚いたジェスチャーを見せた。


「これは凄いですねぇ。

 私のスペイン語を聞いて私の出身地が分かる日本人にお会いしたのは始めてです。

 篠塚様はまだお若いようですがスペインに滞在したことがございますか?」


「いいえ、実は外国に一度も言ったことが無いんですの。」


「うーん、本当に驚きです。

 貴方も凄く綺麗なスペイン語を話される方だ。

 今日はいろいろと素晴らしいことが重なりました。

 篠塚さまと坂崎さまがいらしていただいたこと、そうしてお二人ともスペイン語を実によく知っていらっしゃること。

 これほど嬉しいことはございません。

 今日はようこそいらして下さいました。

 シェフの自慢の料理を是非堪能していただければ幸いでございます。

 少々お願いの筋もございますので、お食事の後でまた参ります。」


 支配人は、本当ににこにこ顔で去って行った。

 支配人が立ち去るとすぐに料理がやってきた。


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