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先駆者 ~ 天翔けるYAMATO-Ⅲ  作者: サクラ近衛将監
第三章 地上にて
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3ー19 事業の開始に向けて その六

 誠一に聞くと、全て分子にまで分解して地下車庫の倉庫に納めてあるのだと言う。

 つまりは元々のオー❆Ⅱが存在した証拠は全くなくなり、今ここに有るオー❆Ⅱが本物と言うことになる。


 誠一に言われて恐る恐るハンマーでボンネットを叩いたが、凹みもせずにただ跳ね返っただけである。

釘で傷をつけるように車体を擦ったが、塗膜すらも傷つけられなかった。

 正しく鉄壁の車体である。


 しかも気密度は非常に高い。

 車体自体の容積が持つ浮力のためにこの車は水に沈まないから、実際にそう言うことは無いらしいが、仮に海の中に沈めても車内に海水は入らない。


 勿論エンジンは止まってしまうが内臓の空気清浄機はそのままでも5日間ほどは間違いなく作動すると言う。

 それに重力推進装置も独立していて急場には24時間ほど全力運転も可能である。


 全速で飛べば、間違いなく時速1200キロ以上は出るだろうと言う。

 注意すべきは車検に出した際に、余計なところはいじらせないようにすることが大事らしい。


 特に床の内装材をはがすことは絶対に御法度である。

 床下に隠した装置はそのままでは用途不明ではあるが、少なくとも不法改造にはなってしまうだろう。


 本来ないものがそこに有るのだから。

 それに、車体に多用されているパッキン類も特殊な物で交換不要の物である。


 仮に元々のものに替えてしまうと気密性は無くなるし、砲弾などに対する耐久性が著しく低下してしまうからこれも避けなければならないことである。

 タイヤも特殊なものである。


 ゴムでは無く形状記憶合金の一種で、タイヤのゴムと同様の柔らかさを保ちながら、絶対に摩滅しないものである。

 タイヤホイールと一体型であり、ホイールはエルニット鋼でできている。


 そのホイールからタイヤ状の金属が離れるようなことは無いし、変形しても元に戻る性質を持っている。

 しかもその変形量が大きくなればなるほど強靭性が増す性質であり、実際に500キロの力で圧着されるとほぼゴムのタイヤと同様の変形になるが、実はそこからさらに倍の1トンの力をかけても変形量はゴムの半分もないだろう。


 ゴムタイヤ一本に1トンの重量を掛けた際の同じ変形量を起こさせようとすれば、この新型タイヤには少なくとも4トンをかけなければならない。

 そうしてその違いは0.5トンを1とした場合の三乗ぐらいの違いがある。


 力がかかれば掛かるほど変形量は徐々に少なくなる。

 その分衝撃はダイレクトに伝達されてしまうが、重量調整装置という究極のショックアブソーバーがあるので、このオー❆Ⅱの車内で衝撃を感じるのは酷く難しいと思われる。


 但し、走行中に気付いたことだが、そうした衝撃力は感じられないのに、路面の凹凸には非常に敏感であり、従来以上に体感できてしまう。

 座席にセンサーからの情報を増幅する装置がつけられているために起きるのだが、機能を停止することもできる。


 助手席や後部座席にはそれがなく、運転席だけに装備されている。

 タイヤの空気はチューブが無いから入らない。


 一応空気中入孔のダミーは有るのだが、一定圧を保っていて、計測しても一定の圧力を返すだけになるそうである。

 車庫に入ってから新たに装備された燃費計算機を作動させてみたが、地上走行の分だけでリッター当たり42.5キロを出していた。


 元々リッター当たり20キロ前後のハイブリッドカーである。

 しかし、それが一気に倍になってしまったのには驚いた。


 エンジンの材質をエルニット鋼に替え、しかも精密に仕上げたことと、エンジンに殆ど冷却の必要性が無いほどの耐熱性能が熱効率を押し上げた。

 同時に使用されているモーターも効率の良いものに置き換えられているために起きた現象のようである。


 オー❆Ⅱにはそんな燃費を計算するシステムは無かったが、改造車にはそうした細かなデーターも見ることのできるモニター装置が装着されているのである。

 前後左右のカメラもその一つであった。


 これは駐車の際に非常に便利である。

 1センチ単位での近接駐車も可能になるだろう。


 車庫でその実用性を大いに堪能した。

 エンジンを切って、ドアを閉めた際に、フロントにおいてあるマスコットのピエロがこれまでは微動だにしなかったのに、さよならをするように揺れていた。


 ◇◇◇◇


 11日は津久井良平こと順平とその妻邦子、それに東山一家の引っ越しである。

 午前中に東山一家の荷が届く。


 東山一家の荷はかなり多い。

 保冷車のような大型の引っ越し専用車両で荷物が運ばれてきた。


 来宇部くうべから津留狩つるかへ抜け、そこからフェリーで大津留おおつる、大津留から仁十久じんとくまで輸送されたものである。

 そもそも収納されていた家財は、机、本箱、食器棚等元々あった家具に収納してくれるので、具体的な収納家具の落ち着き先さえ指示を出してやれば、業者が全てを元通りに復旧することになっている。


 そのため、運搬手伝いは不要なのだが、嘉子は、入居する前の掃除手伝いに喜代美夫人とともに朝早くから来ていた。

 邸は大きくて広い。


 完全な二世代を意識した作りの住宅である。

 居間、台所、食堂などが二カ所にある。


 寝室は全部で12室、それぞれにバストイレがついているし、温泉の大浴場もついている。

 地下千m近くまで掘った井戸から噴出しているかなり温度の高い源泉である。


 それやこれやでちょっとした温泉旅館のような佇まいを見せている邸である。

 周囲を塀で囲まれているのだが、これが瓦屋根の低い土塀(北❆道では極めて珍しい造り)であり、広い和風庭園と相まって極めて落ち着いた雰囲気を漂わせている。


 ❆8号線からは少し離れた位置に有り、防風林の陰になっているので道路から邸は見えない。

 その津久井邸と敷地を隣り合わせて10階建ての棟が4つ並んでいる。


 周囲をフェンスが囲い、広い駐車場があるようだ。

 遊具を備えた公園まで造られているようだが、雪が覆い隠し始めていた。


 東山家の荷入れは午前中には終わらず、午後まで掛かっていた。

 荷入れ中に、順平達の荷も到着した。


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