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先駆者 ~ 天翔けるYAMATO-Ⅲ  作者: サクラ近衛将監
第三章 地上にて
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3ー18 事業の開始に向けて その五

 直してくれるとは言うが、本当に直るのだろうかと嘉子は凄く心配である。

 オー❆Ⅱは、掘り出し物ですよといって店員が勧めてくれた5年ものの中古車である。


 走行距離が僅かに2万キロであった。

 運転席に座ってとてもしっくりと来たので選んだ車である。


 買ってまだ2カ月である。

 ローンも本当に80万ほど残っている。


 月に定額の5万ずつ払ってもまだ1年と少し払わねばならないのである。

 少なくとも宇部広に駐在する3年間は大事に使うつもりであった。


 実のところ最初の2週間で、あちらこちらにぶつけて結構(きず)ものである。

 修理代だけでもう15万ほども使っているのである。


 漸く運転にも慣れてきたので愛着が湧いてきた車である。

 ため息をついている嘉子に誠一が声をかける。


「心配しなさんな。

 明後日には元通りに乗れるから。

 僕が保障する。

 さぁ、もう遅い。

 寝ようぜ。」


 坂崎が電気ファンヒーターの暖房を止めた地下の車庫は急速に冷えてきていた。

 今日は、もう日が変わって11月の10日である。


 北❆道の冬は早い。

 寒いはずである。


 止むなく、嘉子は駐車場を後にした。


 ◇◇◇◇


 11月10日午前9時から邸の地下駐車場で自動車工場でも行われないような凄い作業が開始された。

 オー❆Ⅱの持ち主の嘉子が不安げに眺めている。


 最初に行われたのは、シャーシだけになったオー❆Ⅱの計測である。

 別段メジャーで測るわけではない。


 オー❆Ⅱを中央にして、周囲を細い棒で組み合わせた立方体を形作り、それで空間的に測ってしまうのだ。

 どうしてなのか理由はよくわからないがセンサーが三次元的な構造を解析し、ノートパソコンに詳細な三次元画像を描いてしまう。


 同時に剥がした内装材やエンジン部品などの質量から重量と重心を割り出し、それに見合う幾つかの装置を組み込むスペースと、それらを固定するためのボルト穴がパソコンの図面上に描かれた。

 その図面が出来てしまうと、その横に同じような直方体の枠組みを作るのだが、先ほどのセンサーと異なり、こちらは棒自体が少し厚みも幅も大きめの枠組みである。


 そうして、車庫の奥に有る倉庫から何やらポリタンクに入れた水色の液状の物を幾つか用意すると、その枠組みの中に注ぎ込む。

 じょうろを使っているわけでもなく、むしろどぼどぼと無造作に注ぎ込んでいるような感じである。


 どういう力が働いているのかわからないが、液体はすぐ横に有るオー❆Ⅱの骨組みになって宙に浮いている。

 そうして枠組みについていた何かのスイッチを入れると途端に透き通った水色が瞬時に白い金属光沢を呈した。


 同じような作業で、ガラスを造り、それを組み込んで行く。

 ガラスの場合は同じ液でも薄いピンク色の液体であった。


 3人でやる作業は驚くほど進行が早かった。

 エンジンが造られ、ドアが造られ、排気管や軸系が造られ、ミッションまで造られてゆく。


 部品の数だけでも大変な数だが、あれよあれよと言う間に造られてゆく部品は壮観である。

 そうしてその夕刻から造った部品の組み立てが慎重に始まった。


 何でも余り遊びが無いために少しでも位置が異なると組み合わせられないのだと言う。

 それでも夕食を挟んで、午後8時過ぎにはとうとうオー❆Ⅱが完成していた。


 外見上はまるで新車であるが、内装はそのまま古いものを使っているので新車にはとても見えない。

 バッテリーを搭載し、タイヤをつけ、幾つかのオイルと燃料を積み込むとそれで完成だった。 


 坂崎に言われて、嘉子が運転席に座り、エンジンをかけると見事にかかった。

 まるで何事もなかったようである。


 三人の男たちが肩をたたき合って笑顔で完成を祝っていたが、やがて助手席に誠一が乗って、言った。


「少し慣らし運転をして来よう。」


 助手席で誠一がリモコンを操作すると地下駐車場へ入るシャッターが開き始めた。

 アクセルを踏んで前進すると驚くほどスムーズに車が動いた。


 随分軽いし、音も静かである。

 敷地から外に出ると、外には警官が簡易派出所にいるのが見えた。


 2名の警官が常駐する臨時派出所である。

 嘉子が坂崎邸に来て二日後にはプレハブの駐在所が家の前に出来たのである。


 現在は検問まではしていないが、かなり重要視された警護対象になっているらしい。

 道道❆5号線を東に向かい、空田利くうたり方面に車を走らせる。


 真っ暗な道であるが、車は実に快調である。

 Uターンして邸に戻るまでの間に誠一が色々な新しい機能の説明をしてくれた。


 ダッシュボードには小さなキーボードが収められており、USB端子でカーナビとつながっている。

 同じくラジコンで使うようなリモコンの小型装置も入っており、この二つで空も飛べるのだそうだ。


 誠一は、キーボードを操作して、カーナビの画面で日本上空の静止衛星からの情報を確認し、周囲5キロほどの範囲に誰もいないことを確認してから実際に車を飛翔させて見せた。

 車のエンジンはかけっぱなしであるがアイドリング状態で、地上30mの高度を実に100キロ以上の速力で飛んだのである。


 僅かに2秒ほどで100キロの加速度は凄いものだが、重力制御装置が車体に取り付けられているので全く加速度は感じさせない。

 車内にある様々な機器も前と全く同じに見えるのだが、実は相当に改造されてしまっているのである。


 無論、外見上は中古で買った時の装備のままであり、ダッシュボードに有るキーボードやリモコンは取り外してしまえばダッシュボードにUSB端子がある(もちろん本来のオー❆Ⅱには無いものである。)だけの何の変哲もないオー❆Ⅱである。

 そうして坂崎の登録車両であるバンやセダンのように、このオー❆Ⅱも戦車並みの、いや戦車以上の頑丈な車体になっていて、いずれの国の軍隊でも破壊できない代物になっているのである。


 嘉子は、以前と変わらない座り心地に満足し、夜半の誠一とのドライブにも満足して坂崎邸に戻ったのである。

 戻った車庫に既に以前のオー❆Ⅱの残骸は無かった。


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