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先駆者 ~ 天翔けるYAMATO-Ⅲ  作者: サクラ近衛将監
第三章 地上にて
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3ー17 事業の開始に向けて その四

 それから約1時間、放送では絶対に流せないような言葉とともに、順平(おう)と邦子(おうな)のきわどい昔話が延々と続き、嘉子は運転しながら終始赤面していた。

 その日の夕食は居間で10人もの会食であり、犬も猫も家の中を駆け回っていたが、嘉子も喜代美、由紀とともに大車輪であった。


 特に、何かと言えば、順平翁と邦子媼が「嘉子」、「嘉子さん」と声をかける。

 台所で後片付けをしているときに由紀が微笑みながら言った。


「嘉子さん、よっぽど気に入られたのね。

 御爺さま達が初めて会った人にこんなに話しかけるのは本当に珍しいのよ。」


「ええ、でも何処が気に入られたのでしょう。

 さして話もしていないのに・・・。」


「そうねぇ。

 御爺さま達は80年以上もの経験というものがあるわ。

 貴方がどんな方なのかすぐに見抜いてもおかしくは無いわね。

 人は、一挙手一投足にその人の性格や能力が滲み出るんですって。

 御爺さまがいつも言う言葉よ。」


 由紀は、嘉子と一回り歳が違い、嘉子の兄に比べても大分年上である。

 それでも由紀と嘉子はすぐに意気投合していた。


 何せ一番年の近い同性であり、その次は佳代子の7歳である。

 幾らなんでも佳代子とは離れすぎであるし、話は合わない。


 夕食後、嘉子と誠一は、残り13名への電話をかけ始めた。

 一方、坂崎と娘婿の直哉が地下の駐車場で何やら作業始めると言っていた。


 居間では、坂崎の両親、喜代美夫人、邦子とその子供たちがトランプに興じている。

 嘉子と誠一が13人に連絡をつけてようやく解放されたのは、真夜中の12時過ぎであった。


 既に、順平翁と邦子媼、それに二人の小学生はそれぞれの部屋に入って就寝していた。

 居間には喜代美夫人と、由紀がまだ起きていた。


 誠一が声をかける。


「あれ、まだ起きていたの。」


「ええ、御父さんと直哉さんが、まだ何かやってるみたいだから・・・。」


「ふーん、そんなに急ぐ様な事があったかなぁ。」


「自動車がどうのこうのって、・・・。

 確か、三台では足りないだろうからって言っていたわ。」


「そう言えばそうだけど・・・。

 あーっ。」


 突然誠一が大きな声を出した。

 それから、嘉子に顔を向けるとにやりと微笑んでからおもむろに言った。


「篠塚君、君の車が今頃はばらばらになっていると思うよ。」


「えーっ、それってどういうことですか?」


「君の車では安全上問題があるからね。

 いずれは改造しようとは思っていたんだけれど、多分、それを少し早めて始めたのじゃないかな。

 見に行ってみるかい?」


「勿論です。」


 地下駐車場と言っても半地下のようなところにある。

 平地にも二台収容が可能なガレージがあるのだが、地下に4台分ほどの広い駐車場が併設されており、玄関脇のドアから戸外に出ずに駐車場に降りられるのである。


 嘉子の車は、当面使わないと言うことで今朝がた地下駐車場に入れたばかりである。

 誠一に続いて螺旋階段を降りて行った嘉子の見た物は、内装がはぎとられ、エンジン部分も殆どの部品が外されて、本当にシャーシだけになっているオー❆Ⅱである。


 夕食が終ってからまだ4時間も経っていないのだが、その時間でこれほどまでに分解できるのだろうかと思われるほど徹底的に分解されていた。

 その残骸は駐車場の片隅に山盛りになっている。


 嘉子は唖然として声も出なかった。

 茫然としている嘉子に坂崎が汗を拭きながら言った。


「よお、持ち主が来たな。

 済まんがばらしたよ。」


「ばらしたって・・・。

 あのまだローンが残っているんですよ。」


「ああ、心配ないよ。

 見てくれはさほど変わらないし、車検も普通どおり受けなければならんが、新車よりも余程いい車になるから。

 手入れは殆ど要らないし、燃費もかなり上がる筈だ。

 空も飛べるようになる。」


「あの、それって、こちらの車と同じ仕様にしてしまうと言うことですか?」


「ああ、その通りだ。

 直哉君達も町から離れたところに住むことになるからな。

 どうしても車がいる。

 あともう一台はいるだろうが、取りあえず篠塚君の車を改造しておけば、こっちのバン一台は貸し出せるからな。

 直之と佳代子は明後日から小学校に行かねばならんが、ここからにせよ、新居にせよ学校までは少し遠い。

 由紀が送り迎えする車が必要になる。

 明日中には、元のオー❆Ⅱが見られるよ。

 但し、あちらこちらに付いていた傷は無くなる。

 内装は、前と同じ古いものを使う。

 直哉君達の荷物が二日後には到着するからな。

 いや日付が変わったから明日か。

 それまでに片付けておきたいんだ。

 ところで、誠一、連絡はついたか。」


「ええ、さっき最後の40人目が終わりました。」


「そうか、一番早いのは今週末だったかな。

 その時には、駅から例のアパートまで送り迎えの車も必要だ。

 わしは、申請その他で結構車を使うことになる。

 お前たちは、駅前の仮事務所で詰めることになるからやはり車がいる。

 どうしても車が足りない時は、仁十久タクシーを使うが、そうでなければうちの車を使う。

 まだまだ用心は必要だからな。

 それに折角運転手が5人もいるんだ。

 使わない手はない。

 そうだなぁ。

 中古の車を早めに見積もっておこう。

 どうせ改造しなければ使えはせんからな。

 明日の予定はないのだから、誠一お前も手を貸せ。

 今はこれで中断するが、明日9時からまた始める。

 三人でやれば時間も早くなるし、何とか今日の真夜中までには仕上げられるだろう。」


 見るも無残な姿のオー❆Ⅱを置いて坂崎と直哉は階段を上がって行く。

 嘉子は、泣くに泣けなかった。



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