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先駆者 ~ 天翔けるYAMATO-Ⅲ  作者: サクラ近衛将監
第三章 地上にて
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3ー16 事業の開始に向けて その三

 東山家の子供二人の転校届けも既に出しているようである。

 その屋敷のすぐ近くには10階建ての集合住宅4棟が並んでいる。


 これも坂崎の両親の名義であり、1棟80戸、総計320戸の家が既にできているのである。

 但し、入居者は今のところいない。


 坂崎の事業開始に伴い、社宅に転用されることになっているのである。

 実のところ、嘉子もそこに入居することが決まっているのだが、人里離れた場所に女の一人住まいは避けた方が無難ということで、他の入居者が来てから篠塚もそこに入居することになるようだ。


 その日の夕食後から誠一と嘉子が2台の電話を使って全国に散らばる候補者に電話をかけ始めた。

 初日につながった相手は12名であり、説明に一人当たりおよそ30分から45分を要したが、十分な手応えを感じさせるものであった。


 12名全員が坂崎の計画をニュースで知っており、自分がその計画への参画者に選ばれたと知って驚きながらも喜んだ。

 但し、一方で、相手が本当に坂崎の関係者なのかどうかが確認できないので困っている様である。


 誠一の声も、嘉子の声も何度となくテレビで聞いてはいるが、だからと言って声だけで確認するすべがない。

 それでも確認のために折を見て仁十久(じんとく)までやってくると言う者が10名もいたのである。


 電話番号と住所を確認し、仁十久に到着する時間を後日知らせることになっている。

 他の二名も返事は保留しているが、間違いなく参画したいと言う意向はあるようだ。


 二日目に更に15名に連絡がつき残りは13名となった。

 坂崎は仁十久商工会の方に依頼して、仁十久駅前に事務所を借りた。


 元々倒産した某銀行の建物であるが、現在は商工会議所の事務所になっている場所である。

 商工会議所と言っても常駐の職員が一人しかおらず、使っているスペースは僅かである。


 その一角を仮設の壁で仕切って貸してもらうことにしたのである。

 名称はYAMATO-Ⅲ仮事務所である。


 小さな看板を出しているが、目ざとく見つけた歩行者は必ず立ち止まってガラス越しに内部を覗いているが、今のところは無人である。

 1週間後からは誠一、嘉子、それに由紀の夫である東山直哉が、仁十久まではるばるやってくる人材を出迎えることになる。


 嘉子が仁十久に移って来てから三日目、東山親子と坂崎の両親が揃って来宇部(くうべ)空港から稚登勢(ちとせ)、稚登勢から宇部広へと航空機を乗り継いでやってきた。

 坂崎、誠一、それに嘉子の運転する車3台が迎えに出ていた。


 来るのは6人だからバンが2台もあればと嘉子は不思議に思っていたが、降りてきた一行を出迎えて初めて分かった。

 犬が4匹も一緒なのである。


 無論貨物室に入れられての空輸であるが、専用の檻に入れられて運ばれてきたのである。

 どう見ても血統種の犬には見えないが、おそらくは坂崎の御両親が大事にしている犬なのであろう。


 犬4匹は、檻に入れられたまま誠一の運転するバンに載せられた。

 坂崎の車には、東山親子が乗った。


 当然、嘉子の運転するセダンには坂崎の御両親が乗ることになる。

 津久井良平こと本名坂崎順平、江崎順子こと坂崎邦子の二人は、喜代美夫人の言うとおりとても若々しく見えた。


 坂崎とその父が並んで立っている所は、兄弟と言ってもおかしくは無いだろう。

 坂崎は年相応に60ぐらいに見えるが、順平翁は65前後にしか見えないのである。


 但し、坂崎義則がやや肥満型であるのに、順平翁は長身痩躯である。

 一方、邦子媼も細身ではあるが身長はさほどない。


 同じく65歳と言っても十分に通るであろう。

 順平、邦子はどちらも和服姿であり、良く似合っている。


 東山直哉は34歳、来宇部製鋼の課長職に有ったが、それを放り出して仁十久にやってきた。

 妻由紀は、誠一の妹で、33歳。


 大学を出て1年経たずに直哉と結婚。

 翌年長男直之が生まれ、更に2年後長女佳代子が生まれた。


 直之は9歳、佳代子は7歳であるが、どちらも人形のように可愛い子供である。

 小学生として仁十久で学ぶことになる。


 それぞれに分かれて出発をする。

 誠一が先導し、嘉子がそれに続く、どんじりは坂崎である。


 高名な作家二人であり、同時に変人とも聞かされていて、嘉子はこれまで以上に緊張したが、いきなり順平翁からきつい質問が飛び出した。


「嘉子、言うたかのぉ。」


「はい、そうです。」


「ぬしゃ、誠一と恋仲と聞いたが、もう(ちぎり)はかわしたか。」


「は?

 あの、契というと・・・。」


「うん?

 契を知らんのか。

 ほれ、男と女がまぐあうのを契というのだが・・・。

 ばあさん、何と言うたかの?

 近頃の若い者は何でも横文字かカタカナにしよるが・・。」


「え、あぁ、たしかセックスでしたかのぉ。」


 嘉子はその会話を聞いて,

真っ赤になって危うくハンドルを雪道に取られかけた。


「ははぁ、ぬしゃ、まだ()()()じゃな。」


「すみません。

 そのおぼこというのもよくわからないんですが・・・。」


 邦子媼がいかにも楽しそうに笑いながら説明する。


「昔言葉でね。

 初体験を済ませていない若い女をおぼこと言うのです。

 誰もかれもが、節操もなく抱き合うというのに・・・。

 いまどき、珍しい方なのね。

 気に入ったわ。

 ということは、誠一も童貞なのかしら?

 貴方、その辺のことは聞いていないの?」


「なっ、・・・。

 知りません。」


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