1ー5 建築確認 その五
この物語はあくまでフィクションであり、似たような記述があっても、実在する人物もしくは組織とは何の関わりも無いことをご承知おきください。
概ね、一話二千字を目途に、毎週月曜日の午後8時に投稿する予定ですが、第七話までは毎日一話投稿いたします。
坂崎は肩をすくめるような仕草を見せ、それから、アクリル箱の蓋を開けた。
足元に置いてある箱から無造作に蝋燭を掴みあげ、その基部に燭台替わりの金属片を取りつけ、アクリル箱の中に並べてゆく。
かなり太めの蝋燭であり、少なくとも仏壇にともすような蝋燭では無い。
基部の直径は優に4センチは超えているだろうと思われるが、高さは20センチほどである。
あるいは、実験用に切り詰めたものかもしれない。
その蝋燭を内部に20本ほど並べると例の装置の部分を除いて殆ど余裕が無くなった。
それからガスコンロ用に使うガスライターを取り出し、順次火をつけてゆく。
火をつけ終わると単に待つだけだったが、蝋燭の炎は呆気なく消えていった。
開始から3分も立っていないと思われる。
「蓋を開けていてもこの通りだと言うのがわかったでしょう。
理屈では、この蝋燭の芯のところまで二酸化炭素が溢れているわけです。
その確認をしましょうか。
的場さん。
これを持ってくれる?」
坂崎は竹ひごの長い棒を差し出した。
長さが40センチほど、径は1ミリほどの細いものである。
それを的場が持つと、反対側に坂崎は火をつけた。
そうして、その先端に火がついたものをアクリル箱の中に差し込めと言う。
的場が言われた通りすると、蝋燭の芯が残っている高さほどの位置で竹ひご先端の小さな炎はスッと消えた。
間違いなく二酸化炭素が充満しており、余分な酸素が無い状態である。
「さて、二酸化炭素が無い状態で確認はされたわけですが、この状態で蓋をして、装置を動かしましょうか。」
坂崎は蓋の内側についている装置についている突起部に触れてすぐに蓋を閉めた。
「さっきは3分ほどで火が消えましたから、3分待って下さい。
そうすれば中の二酸化炭素は酸素と炭素に分解されてしまいます。
炭素は固形で、酸素は気体で放出されます。」
坂崎は時計を見て3分待った。
そうして装置の蓋を開け、再度蝋燭に火をつけたのである。
こんどは蓋をし、留め金具でしっかりと密封する。
その上で、時計をテーブルの上に置いた。
午後1時6分を指している。
時計が午後1時15分を過ぎても蝋燭の炎は消えなかった。
「この蝋燭は4時間ほど持つはずです。
間違いなく蝋燭が燃え尽きるまで、炎は消えないはずですが・・・。
それまで待ちますか?」
「見たところ、この小さな装置に電源らしきものが見当たりませんけれど一体何処からエネルギーを得ています?」
「あぁ、それならば、双方の装置に小型の電池が入っているんです。
ボタン電池のようなものですが、この二つの装置だけなら連続運転でも多分1週間は持つでしょう。
もともと左程の電力を必要としないものだから。」
「だって、・・・。
二酸化炭素を分解する方はともかく、エアコンの方は・・・。
家電の中でも電子レンジと共に尤も電気を食う機械ですよ。」
「普通のものはね。
ガスの断熱圧縮や断熱膨張の原理を使っているならそうなるかもしれないね。
あれは効率が悪いから。
エネルギーの大半を外に捨てているようなものですよ。
まぁ、そうは言っても、こいつも普通の乾電池で動くような代物じゃない。
24ボルトで10ミリアンペアほどは食うからね。
1.5ボルトの単一乾電池なら16本で1時間と持たないだろう。」
「じゃぁ、ボタン電池並みの大きさで自動車のバッテリー並みの電気を発生するというわけですか?」
「まぁ、そういうことになるかな。」
坂崎と話しているといつもこうである。
世間一般で広く使われている代物が全く使い物にならないように思えてしまう。
少なくとも坂崎が驚異的な天才発明家であることは確かである。
「ところで、水はもうタンクに入れたのですか?」
「ウン?
ああ、ポンプも動くようになったからね、例の井戸水から汲み上げて満タン状態だよ。」
坂崎は、岩盤に穴をあけて伏流水を汲み上げるようにしている。
動力が無い状態では昔ながらの手押しポンプで水をくみ上げることができるし、動力が得られれば電動モーターでこの居住区まで移送できるはずだった。
きちんと保健所で水質検査まで行って飲料水として適しているとのお墨付きをもらってもいる。
一度飲ませてもらったが中々にうまい水である。
配管したばかりでは、水を飲むわけにもいかないはずだが、その点を確認すると、既に48時間ほども全ての配管系で水を流しっぱなしで、綺麗になっているはずだと言う。
この居住区の配管系統では浴室、台所、トイレの水と飲料水用の水とは別になっている。
生活排水は浄化装置を通して循環するが、飲料水は空気からの湿度を水に変える装置を通して得るようになっている。
生活排水用の水が500トン、飲料水用が300トンである。
これらのタンクは角の取れた箱型筒状の居住設備のボイドスペース20カ所ほどに分散されているのである。
坂崎の話では、人間が二人もいれば、実質的に回収される湿度水分の方が飲料水よりも多くなり、生活用水の方に回すことになるだろうということだ。
まして外部から持ち込まれる食糧などの水分が回収されて、いずれタンクに入りきらなくなるから、その場合は外部に排出しなければならないと言う。
ろ過装置をとおした排泄物と同様に定期的に処分しなければならないわけである。
尤も、予備の水タンク200トンが空であり、坂崎の計算では排出しなくても2年程度は十分に持つとしている。
◇◇ 続く ◇◇
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5月2日、一部字句修正を行いました。
By サクラ近衛将監