3ー11 第二の襲撃
嘉子が坂崎邸の玄関脇にオー❆Ⅱを停めると、誠一が荷物を降ろすのを手伝ってくれた。
そのまま、玄関から2階の部屋に運び込む。
警察に検問を受けた際に一時的に雪上に置かれてしまった段ボールの底が若干濡れていたので、喜代美夫人がシートを用意してくれ、その上に重ねて置いた。
段ボール6個が今日の運んだ分であり、明日には更に3個ほどの段ボールが運ばれてくる。
荷物を運び終わって漸く防寒着を脱ぐと、誠一が言った。
「お疲れさん。
大変だったろう。
警察が検問しているからねぇ。
一々荷物を調べられる。」
「ええ、まさかこんなことになっているとは、
でも、本当に誠一さんもご両親も大丈夫だったのですか?
三発も撃たれたって聞いたけれど・・・。」
「ああ、僕らに怪我はないよ。
他の誰かに当たらなかったことが幸いだったけれどね。」
「他の誰かって、他の人の心配より先ず自分のことでしょう。」
「ああ、・・・。
僕らは用心のために一定の速度以上で迫ってくる物体をシールドする機械を持っているからね。
まず大丈夫。
仮に2mの距離から狙撃されても、身体には傷一つないはずだ。
問題は後処理かな。
今、オヤジさんがやってるよ。
えらい剣幕でね。
アームストロングを叱りつけている。」
「アームストロングって・・・。
もしかして、アメリカの大統領?」
誠一は頷いた。
「少なくとも大統領の側近から出た指令で、オヤジが狙撃されたようだ。
その証拠も見つけた。
だから、オヤジが直談判している。
アメリカに自浄機能が無いのなら、大統領の指示でCIAが動いたと暴露するってね。
大統領も本当に知らなかったらしく相当に慌てているけれど、まぁ、もう少しで終わるだろう。
荷物の整理は手伝わなくていいかい。」
「はい、大丈夫です。
お気持ちだけ有りがたくいただきます。
若い男性には見せたくないものもあるので、丁重にお断りします。」
「なるほど、じゃあ、下に降りてる。
手が必要なら呼んで。」
そう言って誠一は部屋を出て行った。
荷物の整理が一段落したのはおよそ二時間後である。
階下に降りて行くと喜代美夫人が声をかけてきた。
「篠塚さん、貴方、お昼は?」
「ええ、途中で食べようと思っていたのですけれど、皆さんが狙われたってラジオで聞いたので何処にも寄らずに来てしまって、食べ損ねてしまいました。」
「あ、じゃぁ、一緒にお昼にしましょう。
我が家はまだ宇宙時間なの。
ちょうど午後1時ぐらいの感じなのかしら。
もう三時を回っているのにね。
おかしいでしょう。
でもちょうどよかったわ。」
YAMATO-Ⅲに比べると格段に狭い居間と食堂であるがそれでも普通の家からすれば十分に大きな広さを持っている。
既に食卓には昼食が用意されていた。
嘉子もそこに加わってご相伴に預かったのである。
御馳走ではないが、家庭のぬくもりが感じられる食事であり、久しぶりに家庭料理を堪能した嘉子である。
食事が終わって後片付けをしている最中に、何かの警報が鳴った。
誠一が眉をひそめて、隣の部屋に入って行き、坂崎もその後に続いた。
「ここはいいから、篠塚さんも行きなさい。」
落ち着いた声で喜代美夫人が言った。
嘉子も手を拭きながら、エプロン姿のまま誠一が入って行った部屋に入った。
中はまるで放送局のプロデューサー室である。
沢山のモニター群と、用途不明の装置が床から天井まで三方を覆っているのである。
誠一と坂崎が椅子に座って、装置を操作していた。
「やっぱり、奴らですね。
どうやら、C7を準備しているようです。」
「C7か、新開発の奴だな。」
嘉子には坂崎と誠一の会話の意味が掴めていない。
「どうやらプレデタータイプを持ち込んでいるようですね。
念のためシールドを張りますよ。
P5でいいと思いますけれど。」
「ああ、それでいいだろう。
TRも準備してくれ。
40mまで接近したら捕獲する。
それと、奴らに追跡マークだ。」
「了解。
マーキングセット完了です。
画像拡大します。」
モニターの一つが地上を映し出しているものであったが、スームアップして二人の男を捉えている。
もみじ台の通りである道々❆6号線から分かれて北に向かう道路があるが、どうやらそちらの方角らしい。
道路脇に車を止めて、二人の男が模型飛行機のようなものを組み立てている。
やがて、男がその模型飛行機を手に持って高く掲げると、急にその模型飛行機が動きだした。
どうやら坂崎の家に向かって飛んでいるらしい。
「大きさからするとC7が4キロと言うところでしょう。
普通の大きさの家を吹き飛ばすには十分な量です。
両隣りの家も先ず半壊でしょうね。」
漸く誠一の話しに合点がいった。
C7は聞いたことが無いが、確かC4は米軍が使うプラスチック爆弾である。
「爆弾なんですか?」
思わず嘉子が叫んだ。
誠一が振り向いて言った。
「うん、そうみたいだね。」
「みたいって・・・。
そんなに落ち着いていていいんですか。
ラジコン機が突っ込んできたら・・。」
「大丈夫。
爆発なんかさせやしない。
あいつらに無駄という意味を教えてやるだけだよ。」
それから5つ数える間もなく、模型のような小型飛行機は坂崎邸の間近に迫ってきた。




