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先駆者 ~ 天翔けるYAMATO-Ⅲ  作者: サクラ近衛将監
第三章 地上にて
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3ー8 坂崎との面談

 だが、坂崎達が用いたのは軽量なエルニット鋼材であり、最初から人力で扱える大きさに製造したものを溶着して行くだけであり、子供が家庭で遊ぶレゴなどのブロックで家を造るようなものだと誠一は説明した。

 坂崎達が用意した大きさは縦横30センチほど、厚さ1センチのエルニット鋼材で重量は、木材よりもやや重いと言う程度である。


 実際に使用した枚数は外壁面だけでも12万5千枚ほどになったと言う。

 1日に1千枚のパネルを組み立てても、約4カ月余りを要する長丁場の工事である。


 だが実際にはその大半を、ロボットを製作して併用したと言う。

 坂崎と誠一は主要部のみを組み立て、後は24時間駆動のロボットが張り付いて行ったというのである。


 尤も、その機械は建築主事には見せていないので内緒にねと言われてしまった。

 船内に置いてある車は、万が一日本に帰還できない場合、オーストラリア等外国に移住するつもりだったので2台積み込んでいたのだと言う。


 ナンバープレートは宇部広ナンバーであるが、向こうに行けば変えることもできたはずである。

 午後の2時間余りをかけて船内を案内してもらい、撮影許可が貰えた場所をカメラで撮った。


 ナレーションは後付けでするしかないが、誠一は寝室に置いてあるパソコンで出来ると請け負った。

 翌日からの予定は特にない。


 11月10日午後6時半過ぎまでは、完全な休養日になったのである。

 今のところ、広報の仕事もないので、嘉子は部屋でVTRの編集とナレーションをやり始め、誠一と過ごす時間を出来るだけとるようにした。


 喜代美夫人の手伝いをしながら坂崎家の家風にも触れていた。

 無論、篠塚の実家とは大分違う雰囲気である。


 篠塚の家は信州利賀串(とがくし)で代々味噌作りをしている。

 家は兄が継ぐことになっているから心配は無い。


 祖父は4年前に亡くなったが、祖母は今も元気である。

 父親は、昔ながらの伝統を頑固一徹に守ってきた。


 ために大量販売には向かないし、利益もさほどは上がらない。

 だが、その伝統的な味が見直され、兄が始めたネット販売で僅かながらも業績を上げているのだと言う。


 職人さんが10人ほどいるので、母はその面倒まで見ている。

 味噌作りは大変だなあと子供ながらに思っていた。


 那賀乃(ながの)の高校に行き、新東京の阿尾山(あおやま)学院に入って親のありがたさが分かった。

 三日以上の休みの時は出来るだけ利賀串に帰るようにもしていたし、たまには家業の手伝いもした。


 そうして、希望のNFKに入り、新東京本局に入社、その時が一番輝いていたと思う。

 それが、半年もたたないうちに妙なことに巻き込まれ、被害者にならずに済んだだけましだが、宇部広に飛ばされた。


 若干腐っているときに、古谷から呼び出しを受け、流れに押し流されるようにここまでやってきた。

 その時々の判断で間違いがあったとは思えないし、今も、間違ったことはしていないと思う。


 自分で選んだ道だから結果がついてこなくても悔むことはしない。

 だが、坂崎さん夫婦と誠一さんをがっかりさせるようなことだけはしたくないと思っている。


 期限である11月10日の朝が来た。

 嘉子はお借りした下着類を洗濯し、洋服類にはアイロンをかけて畳んでおいた。


 ここへ来た時と同じ衣装を身につけ、いつ放り出されてもいいようにだけはしておいた。

 朝食が終わって、後片付けを済ませると、坂崎がソファで手招きした。


 近寄ると座れと言う。


「どうだ。

 今日が約束の5日目だが、NFKの仕事に未練は無いか?」


「未練が無いと言えば嘘になるかもしれません。

 でも、NFKの仕事よりも魅力ある仕事が目の前にあります。

 そうして可能であればそのお仕事に参加させていただきたいと言う気持ちに変わりはありません。」


「ふむ、もう一つの方、誠一と良く話し込んでいたようだが、そちらに見込みはあるかな。」


「わかりません。

 でも、以前より、のめり込んでいる自分がわかります。

 誠一さんがどう思っていらっしゃるかは聞いていません。

 仮にお聞きするにしても、もっと時間が必要ではないかと思っています。」


「色仕掛けがどうこうは別にしても、誠一を君に振り向けさせる自信はあるかな。」


「自信と言われると困りますが、その努力はしたいと思っています。

 仮にライバルが現れても簡単には引き下がらないつもりですが、誠一さんが別の方を選ぶなら引き下がります。」


「何故引き下がるのかね?

 女性はそうすべきだと思うのかね?」


「そうではありません。

 すべきとか、すべきでないとかいう問題ではないと思うのです。

 人が結ばれるにはそれ相応のきっかけがあります。

 私は通常の状態では無い状態で誠一さんと知り合いました。

 映像の中で見出した理想の相手だからと言っても、実際の相手ではありません。

 実際にお会いして、色々な話を聞き、自分の判断が間違っていなかったかどうかを確認する時間がお付き合いなんだと思います。

 その間に、別の女性が現れ、その女性に惹かれてしまうなら、誠一さんは私に無縁の男性だったと言うことになります。

 一方で、迷っている状態なら引き戻すことも可能だと思いますから、その努力はいたします。

 でも既に誠一さんが決めておられるなら、それを引き留める方法はありません。

 そこの見極めができたなら引き下がると言うことです。

 でも、本音で言えば引き下がりたくは無いでしょうね。」



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