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先駆者 ~ 天翔けるYAMATO-Ⅲ  作者: サクラ近衛将監
第三章 地上にて
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3-6 船内見学 その一

「え、でもそんなことをしたら・・・。」


「君は、今のところ雇い入れ候補者、でも同時にNFKの記者でも有るんでしょう。

 古谷さんに辞職願は出したの?」


「いいえ、それはまだですけれど、そんなことをしてもいいのでしょうか?」


「大丈夫、君の立場を理解してなおかつ許可を与えているんだから。

 それに、仮にオヤジさんに雇われたにしても、古谷さんには恩義を返しておかなければいけないんじゃないのかな。

 世話になったんじゃないの。

 古谷さん、いい人だから、・・・。」


「ええ、とてもいい人です。

 だから有る意味で裏切るようになってちょっと嫌なんですけれど・・。

 でも、古谷さんが言ってくれたんです。

 仕事と男とどっちか選ばねばならない時にどうするか良く考えてから行動しろと。

 で、私は男も選べるように仕事を変えることを決めました。

 NFKの仕事もやりがいのある仕事だと思います。

 でも、坂崎さんのしようとしていらっしゃることの方が、意味が大きいと思いました。

 私一人の力なんて微力です。

 それでも何か力になることができたら、私の生きている意味ができます。

 それに、できるだけ、誠一さんの傍にいて私と言う女を知って欲しいと思いました。

 古谷さんに受けた恩義は恩義です。

 でも、これだけは古谷さんに何と言われようと譲れません。」


「古谷さんも文句は言うかもしれないけれど、嫌とは言わないと思う。

 でもそんな古谷さんのためにプレゼントをしてあげてもいいだろう。

 YAMATO-Ⅲの船内はこれまで余り周知していないからね。

 図面も広報用のものしか渡してはいないから概略しかわからなかったはずだ。

 船内の様子は、別に秘密にする必要はないのだけれど、利用方法や詳細構造など、中には秘密にしなければならないものもある。

 そうして臨時雇いの君にはそこまでの秘密は明かせない。

 残念だけれどそれは我慢して欲しい。

 いいかな。」


 嘉子は頷くしかなかった。

 昼食後に誠一は嘉子を伴って、広い船内を案内してくれた。


 YAMATO-Ⅲは、長さ約112.7m、幅約32.9m、高さ約14.2mであり、4層構造になっている。

 最上階が嘉子の部屋もある居住区になっている。


 居住区は広く2000平米を優に超す大きさである。

 最大の居住スペースである居間は幅28m、奥行き24mであり、600平米を超している。


 これだけのスペースでもおそらく平均的な一戸建て住宅の3倍程度になるだろう。

 因みに嘉子に割り当てられている部屋は、幅が5m、奥行きが12mもある特大サイズである。


 60平米もある寝室は先ずないだろうと思われるのに、浴室やウォークインクローゼットの広さも含めると84平米もある。

 宇部広の世帯用マンションで88平米程度が標準であるので、世帯用の住宅に住んでいるようなものである。


 誠一や坂崎夫妻の部屋も同じ造りであり、ほかに空き部屋となっているツインの寝室が5室あるから、少なくとも更に10人の者が寝起きするのに十分な余裕がある。

 さらに非常用として二段ベッドを多数備えた部屋もあり、最大で50名ほどは寝泊まりできるのだと言う。


 但し、その状態では食料が長く持たないだろうと言う。

 一般家庭に50名もの客が来て、宿泊するようなスペースもないだろうが、仮にあったとして三日もすれば家計が破綻(はたん)するだろう。


 食料だけでも半端な量では無い。

 一日に一人二合の米を食べるとしても、50名では、1日で10升、4日で1俵60キロの米が消えることになる。


 仮に10俵600キロの米があったとしても1カ月半で無くなることになる。

 夫婦二人子供二人の一般家庭で、消費する米の量は、平均しておよそ1日に4合程度、年間で200キロ前後のはずである。


 その三倍の量が40日で無くなっては、食糧が枯渇するのは間違いない。

 まして補給のできない状態では餓死するしかないことになる。


 居住区の隣に食料庫があった。

 大きな棚のような沢山の引き出しのついた金属製の装置である。


 誠一曰く、この装置内に入れておけば肉であれ野菜であれ、鮮度をそのまま保つのだそうだ。

 試しにといって開けてくれた引き出しには傷みやすいイチゴが入っていた。


 誠一は三か月前に買ったイチゴだと言うが、見る限り店頭に並んでいる新鮮さをそのまま保っている。

 YAMATO-Ⅲは30日以上も宇宙に行っていたのだから、どんなに譲っても1カ月以上前のものである。


 1カ月もすれば冷蔵庫に入れても傷むか腐っているかのどちらかには間違いない。

 この食料貯蔵庫には20トン程度の食糧が保管されているという。


「四人ぐらいなら十分1年は持つけれど、50人では半年持たないだろうなぁ。」


 誠一はそうつぶやいた。

 食料貯蔵庫の先は、階段とエレベーターホールがあり、その先に倉庫がある。


 倉庫の中までは見せてくれなかったが、図面でかなりの広さがある倉庫とわかった。

 一旦居間に引き返し、居間の奥にある放送室、その先に有る操縦室にも案内された。


 操縦室は広い間取りの半球形構造であり、操縦者は狭い通路を渡って、席に着くと周辺状況が一望できるようになっている。

 無論外部がそのまま見えるわけではなく、カメラ多数からの情報を統合処理したバーチャル映像である。


 少なくとも操縦者からはYAMATOーⅢの前半分の状況が間違いなくわかると言う。

 後方視界については通路手前に有るコンソールで確認できるし、必要があればパネルを切り変えて操縦者も見えるようになっている。


 操縦者の席はコンソールと座席を除いて、まるでガラス張りの空間にいるようなものであり、下方についても十分把握できるようになっている。

 一応のメインは操縦者席であるが、背後のコンソールで操縦することも可能なシステムになっているらしい。


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