3ー5 YAMATOーⅢ基地の全景
嘉子は、背後の大きなパネルを使い、坂崎の計画を説明して行く。
第一に、半年後に地球温暖化対策として、二酸化炭素を酸素と炭素に分離する装置をエアコン室外機用の付属装置として制作する会社を立ち上げること。
第二に、1年後にエルニット鋼材の製造会社を立ち上げること。
第三に、2年後以降にアフ❆カ諸国および太平洋島嶼国のために新型都市のインフラ建設を開始すること。
第四に、2年後に航宙船の造船所を立ち上げ、汎用型の輸送船の建造を開始すること。
第五に、1年後に動力炉の製造工場を立ち上げ、動力炉の生産に当たること。
第六に、時期は未定だが、高次空間通信機を利用した汎用携帯通信装置を製造販売すること。
第七に、来るべき宇宙開発に備え、YAMATO-Ⅲを使って太陽系近傍の恒星系探査を続行すること。
第八に、時期は未定だが、宇宙開発に必要な人材を育てるための教育機関を創設すること。
膨大な資料や図面を駆使して説明する嘉子の発表は、世界中を駆け巡った。
だが、これらに対する質問や取材は一切受け付けられていない。
それらが可能になるのは、その日を入れて五日目の午後七時になる予定である。
その日の午後ちょっとした騒ぎがYAMATO-Ⅲの外で起きていた。
斗夕峠の道路が非常に混雑しているのである。
積雪のせいではない。
帰還したYAMATO-Ⅲを一目見てみようと押し掛けた野次馬が道路の片側を半分占拠してしまっているのである。
坂崎の私道を中心に延々二〇キロ以上にわたってその状態であり、都市部並みの渋滞が起きているのである。
無論、遮断機が下りており、なおかつ、地面から円柱状の金属棒が1m以上の高さにせりあがってきているから、遮断機よりも向こうには侵入できないでいる。
報道関係者も勿論遮断されており、上空にはヘリコプターが早朝から数機旋回している状況である。
NFKの中継車は無論昨日の内に宇部広に引き上げている。
嘉子は初めて、YAMATO-Ⅲの基地全景を見ることができた。
それも他局の放送によってである。
東から南へと大きく緩やかに曲がっている国道❆8号線にほほ直角に交差する私道二車線があり、少し行くと遮断機の場所になる。
そこから方角的には西方向に私道が緩やかに曲がりながらトンネルになる。
トンネルは丸いかまぼこ型でおよそ100m、その先に駐車場があるのだが地下に隠されていてそれは上空からは見えない。
その代わりに大きな空中庭園が見える。
尤も11月で降雪の時期であり、緑はほとんどない。
それでも背丈の低い樹木や花壇を形作るブロックなどで大枠の形状がわかる。
南側に面した部分にはドーム状のものが10基ほども設置されているが、ファイバー繊維を使った集光器で、地下部分の明かり取りに使われているそうだ。
庭園の端は、高さが10m以上の完全に切り立った石壁である。
その庭園の北側に大きなブロックがあり、YAMATO-Ⅲの半分はその建物に埋まっている状況である。
それでも長い筒状の半分が地上に姿を現している。
庭の南側、国道❆8号線の間は急峻な谷になっており、夏場でも下ってから、さらに登るのはかなりしんどい作業になるだろう。
なおかつ、最後の庭園部分には忍び返しのような鉄条網が施されており、そこから侵入するのはかなりの困難が付きまとう。
庭及びYAMATO-Ⅲの収まっている建造物の西側は切り立った崖になっており、同様に侵入防止の鉄条網が備えられている。
北側は山の尾根のようになっているが敷地の境界を示すフェンスがあり簡単には敷地内にも入れないほか、YAMATO-Ⅲの収まっている建造物が10m以上もの垂直な壁となっているのでここからも侵入は無理だろう。
東側はなだらかな斜面になってはいるが、同様に建造物の垂直な壁が露わになっている場所であり、東側の構造物は30m以上の壁になっている。
つまりは、昔ながらの山城を思い起こせばわかりやすい。
南、西、北のいずれも接近は難しく、唯一接近可能な東側はトンネルを使わないと内部に入れない構造になっているのである。
しかもYAMATO-Ⅲ自体が完全な密閉構造であり、如何に敷地に侵入しても、YAMATO-Ⅲに侵入すること自体が不可能である。
嘉子は誠一に尋ねた。
「仮に、道なき道を通って敷地内に入ってきた者はどうします?」
「別に、・・・。
放っておく。
その内に諦めて帰るでしょう。
尤も、ここで行き倒れにでもなったら困るから状況を見て警察か消防を呼びますけれどね。」
「でも、外に有る庭の備品や、集光器、それに光電池パネルなんかを盗み出そうとしたら困るでしょう。」
「うーん、普通の人が集光器や光電池パネルを盗むのは先ず無理だろうね。
エルニット鋼材で完璧に枠の中におさめられているからね。
精々スプレーか何かでいたずらは出来るだろうけれど、機器についているボルト一本でも外せたらそれこそ表彰ものだよ。」
「監視は出来るんですか?」
「そう、できるよ。
篠塚さんにはまだ船内も案内していなかったね。
じゃあ、午後から一通り案内しよう。
カメラを用意しておいた方がいい。」




