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先駆者 ~ 天翔けるYAMATO-Ⅲ  作者: サクラ近衛将監
第三章 地上にて
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3ー4 船内での作業

 お茶と一緒に出された御茶菓子は和菓子であり、喜代美夫人が手ずから作ったものだそうである。

 深みのある煎茶は余程いいものなのであろう。


 とてもおいしいものだし、和菓子も上品な味であった。

 それをいただいている間に、誠一がノートパソコンを持ち出して来て、嘉子の隣に陣取り、明日の計画発表の段取りを説明しだした。


 二人で頬を突き合わせるように画面を覗きながら打ち合わせを行い、幾つかの部分については嘉子の意見が取り入れられた。

 打ち合わせが終わった時には、11時に近い時間であった。


 坂崎夫妻は誠一と嘉子が打ち合わせをしている間、黙って向かいに座っているだけであり、誠一に任せていることが窺えた。

 打ち合わせが終わった時にはさすがに根をつめたのか疲れが感じられた。


 明日の朝食は午前7時と聞いて、嘉子は割り当てられた部屋に戻った。

 嘉子は、すぐに貸し渡された衣類を確かめ、クローゼットの棚に整理して入れた。


 生理用品まで用意されているのには頭が下がる思いがした。

 幸い衣類のサイズは嘉子と同じである。


 若干ウエストが細めであるが、サイドにジッパーで幾分かの余裕の取れるパンツやスカートであり、着るのに問題は無かった。

 但し、ブラは少し小さめである。


 何とか押し込めないこともないが、喜代美夫人が言っていたようにノーブラも止むを得ないかもしれない。

 翌日の発表用には縦縞の入った青いスーツとパンツで、白色のハイネックのセーターを選んだ。


 それから浴室に入り、風呂に湯を満たしている間に、下着とブラウスを洗濯機に放り込んで洗濯をした。

 洗濯が終わる頃には風呂の準備が終わっていた。


 大きなバスの中に身を横たえて久々にゆったりとした気分を味わっていた。

 誠一と初めて仕事をした1時間余り、頬が触れあわんばかりに近づいて、柑橘系の匂いをほのかに感じ取っていた。


 おそらくは整髪料の匂いではないかと思うが、これが誠一さんの匂いと改めて認識したが、すぐに画面に没頭した。

 今、その香りが蘇り、少し身体が(うず)いている。


 これまで、どんな男にも感じたことの無い欲情である。

 本当に私は彼を求めているのかなぁ?


 そう思いながら、冷水のシャワーを浴び、ほてりを取って浴室を出た。

 借り物の下着を身につけ、ネグリジェを上に着てベッドの中に入った。


 嘉子は、本来寝付きは余り良くない方だったが、この日は幸せな気分に浸ったまま、あっという間に眠りについていた。

 翌朝、6時に掛けていたベッド付属の目ざましが鳴り、気持ちのいい目覚めを迎えた。


 消したはずの照明であるが、目覚めの時には点いていた。

 あるいは、目ざましと連動しているのかもしれない。


 ネグリジェを脱いで、下着姿のまま浴室で顔を洗い、歯を磨いてから、寝る前に脱水機に入れた下着類を取りだした。

 綺麗に乾いており、ブラウスは皺もほとんどない。


 それから立派な化粧台に向かい、化粧品を改めた。

 喜代美夫人の言うとおり、化粧台の引き出しの中には様々な化粧品が揃っていた。


 嘉子がいつも使っている化粧品も一揃い丸ごと有ったので、嘉子はそれを使わせてもらった。

 一通りの化粧を済ませ、パンツとハイネックセーターだけで、居間に向かうと、喜代美夫人がキッチンで動いている。


 嘉子もエプロンをかけて、朝食の準備を手伝った。

 朝食は、ハムエッグ、野菜のサラダ、若干の果物、ジュース、ミルク、それにコーヒーとトーストである。


 嘉子は、普段はあまり朝食を食べない。

 出勤途中のコンビニで牛乳かコーヒーで済ませているのである。


 7時少し前には、誠一と坂崎も居間に顔を出した。

 誠一はきちんと衣服をつけているのに、坂崎はパジャマ姿である。


 喜代美夫人が小言を言った。


「何です。

 お父さん。

 お客様がいるのに、パジャマ姿なんて。」


「うん、ああ、篠塚君だよな。

 その格好は由紀の若い頃、そのままだな。

 いいんだよ。母さん。

 同居しているなら家族同然、裸で出てきちゃ拙いが、パジャマなら上等だ。」


「うん、昨日のブラウスにビジネススーツも悪くないけれど、それも似合っているよ。

 サイズが合って良かったね。」


 誠一がフォローしてくれたのが嬉しかった。

 四人での食事が終わるとすぐに、嘉子は10時までに間に合わせるために原稿を読み始めた。


 短い時間で原稿を暗記するのには慣れたが、今回は分量が多い。

 2時間かかっても中々に覚えられなかった。


 焦っていると、誠一がイヤーピースを渡してくれた。


「カンニングペーパーも準備するけれど、必要な場合には僕がバックアップするから耳につけていて。

 間違っても構わないから気楽にやったらいい。

 それにこれはプレゼンだ。

 相手に如何にわかってもらうかが大事で、正確に説明することが必要なわけじゃない。

 君は、計画の概要を知っている。

 それを話してもらえればいいだけだ。

 だから、原稿通りに話す必要はないよ。」


 その言葉で焦燥感がスッと消えたのは確かである。

 その後の10時までの30分に嘉子は何とか準備をやり遂げていた。


 5分前に嘉子が案内されたのは、いつも見慣れた背景のあるYAMATO-Ⅲの放送室である。

 正面にガラス窓を隔てて誠一が座っているし、カンニング用のモニターも準備されていた。


 予定では1時間前からテロップが流されており、NFKでも準備が終わっているはずである。

 10時ちょうど、嘉子はYAMATO-Ⅲ船内からの初めての放送を始めた。



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