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先駆者 ~ 天翔けるYAMATO-Ⅲ  作者: サクラ近衛将監
第三章 地上にて
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3ー3 YAMATOのソバ

「狙いというか、目的は二つあります。

 一つは坂崎さんの御考えに共鳴していますので、私も坂崎さんのお手伝いをすることで何か社会に貢献できるのではないかと思ったからです。

 そうしてもう一つは、・・・。

 誠一さんです。

 何度となく、誠一さんの映像と向き合い、仕事の上でのお話をするうちに、私、誠一さんに惹かれてしまったんです。

 支局に勤めていても、或いはお付き合いをしていただけるかもしれません。

 でも、それでは多分誠一さんの方に余裕が無くなってお付き合いも難しくなると思います。

 私が惹かれているのが本当に男性としての誠一さんを求めているのかどうか今はまだ確信が持てません。

 でも、すぐ近くでいつでもお会いできる環境に有れば、私の本当の気持ちも見いだせるような気がします。

 ですから、ここに、いいえ、ここでなくても結構です。

 どうか、お(そば)に置いていただけませんか?」


「ふむ、篠塚君はそう言っているが、誠一はどうなのかな?」


 誠一は照れながら言った。


「篠塚さんのような美人に思われて、幸せ者ですね。

 僕も篠塚さんに興味は有りますよ。

 ですからどんな人なのか付き合って確かめたいと思っています。」


「誠一の方はそれで良いと言うことだな。

 で、肝心のリクルートの方だが、・・・。

 事業で広報担当が不要な場合、君には何ができるかね?」


「正直なところ、何も・・・。

 でも、何にでも挑戦する気概はあります。

 決して、坂崎さんに失望を与えないように頑張ります。」


「ふむ、それはそれでいいことだ。

 若い人には柔軟性があるからね。

 さてどうしようか?」


 坂崎はしばし考え込んだ。


「あの、もうひとつお話ししておかねばならないことが有ります。

 私は10月まで、新東京のNFK本局に勤務していました。

 或ることが有って、私は新東京から宇部広に赴任してきたのです。

 そうしてその或る事のために、私は上司を色仕掛けで(たら)し込んだ女と噂されています。

 そうした噂のある女であると言うことも正直に申し上げておきます。」


「その噂と言うのは真実かね?」


「いいえ、真実ではありませんが、そのような噂に反論することも禁じられました。」


「ふむ、真実でないのならそれでよろしい。

 だが、普通、君の雇い主になるかもしれない相手にそのようなことを言えば不利になるでしょう。

 何故、言わなければならないと思ったのかな?」


「噂と言うものは独り歩きします。

 いついかなる状態でそのような噂が坂崎さんやその周囲に届くかわかりませんし、そのような者を雇っていると言うことだけで信用を落とし、あるいはご迷惑をおかけすることになるかもしれません。

 最初からその状況が分かっているのにそれを言わないでいるなら、それは卑怯だと思います。

 特に、坂崎さんがお迷いの様子ですので敢えて申し上げました。」


「君は、雇って欲しいのかね。

 それとも断って欲しいのかね。」


「勿論、雇って欲しいと真底思っています。」


「わかった。

 では、君を雇ってあげよう。

 但し、この5日間は試験的に仮採用だ。

 試験期間の間は、給料も無いが、宿泊と3度の飯は保証する。

 この間に、広報担当としてこちらの眼鏡にかなうかどうか見て、それから最終判断をしよう。

 それでいいかね?」


「はい、結構です。」


 時間は8時半に僅かの時間を残していた。

 喜代美夫人と一緒に篠塚はキッチンに立ち、夕食準備の手伝いをした。


 夫人は篠塚にエプロンを貸してくれた。

 これもお嬢さんの由紀さんのものだという。


 大きな寸胴鍋に湯を入れ、電磁調理器で湯を沸かし、予め寝かせておいた蕎麦を入れる。

 吹きあがる寸前に火力を落とし、そのまま少し待って、大きな鍋からざるに移し、冷水で蕎麦のあら熱を奪ったうえで、細かい氷の敷き詰めた平ざるに再度移動し、そこで再度の水洗い。


 驚くほど腰の強い麺であることを、その作業の手触りで篠塚は感じていた。

 その間に、喜代美夫人は、冷蔵庫から天麩羅を取り出し、二つの電子レンジ様の機械に入れていた。


 次に、つゆである。

 喜代美夫人が分量を量りながら調合するのを黙って見ていた。


 かえしは醤油色なのだが、とても澄んでいるように嘉子には思えた。

 出汁はカツオ出汁で、荒削りの鰹節を大量に入れてとるのだそうだ。


 この次に蕎麦を作る機会があれば教えてくれると喜代美夫人は約束してくれた。

 9時少し前には大きな食卓に、これまた大きなまな・・状の特大ざるに蕎麦が盛られ、美味しそうな天麩羅が盛られている。


 また綺麗な小ぶりの器には、わさび、小葱など薬味4種が載っていた。

 坂崎の「いただきます」の発声で一斉にいただきますと発声して、食事が始まった。


 嘉子は一口食べて驚いた。

 時期としては11月であるから、既に新蕎麦の時期は過ぎているはずだが、蕎麦の香りが口の中に充満するほどのいい蕎麦である。


 しかも手触りでわかるほどの麺の腰であり、つゆもとても美味しいものだった。

 甘さは控えめであるが、蕎麦の甘さがそれを補っている。


 薬味が有っても不要なぐらい蕎麦本来の味が出ている。

 嘉子はその感想をそのまま口にした。


「ほう、美味かったかね。

 それは良かった。

 篠塚君は世辞もうまいのかな?」


「いいえ、私はお世辞は苦手です。

 でも、この蕎麦は私が今まで食べた中で最高の味です。」


 坂崎はにこやかに笑っていた。

 食後に後片付けをしてソファに移り、御茶菓子と煎茶が出された。


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