表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先駆者 ~ 天翔けるYAMATO-Ⅲ  作者: サクラ近衛将監
第二章 飛翔
28/74

2ー22 ワープ実験 その一

 篠塚が訪ねた。


「危険が伴うのでしょうか?」


「私も父も危険は無いと考えていますが、念のために必要な安全措置を講じておくことはいつの場合でも大切なことです。」


 それを聞いて篠塚の不安げな顔が幾分和らいだ。


「わかりました。

 その実験はいつ開始されるのですか。」


「今から約五分後の日本時間午前8時10分に開始します。」


「5分後、そんなに早く・・・・。」


 瞬時、篠塚が無言で間が空いたが、すぐに気を取り直して言った。


「あの、・・・誠一さんもご両親も、必ず地球に戻ってくださいますよね?」


 すがるような目つきの篠塚の眼差しであった。


「ええ、必ず戻りますよ。

 じゃぁ、これで一応交信を中断します。

 通信回線はそのままで結構ですが、或いは、一時的に通信が途絶するかもしれません。

 連絡できる状態になったらまた御話ししましょう。」


 そうして画面が宇宙空間の映像に変わった。

 篠塚は相手不在のままで中継を始めた。


「今お聞きした通り、YAMATO-Ⅲはこれから新たな実験を開始する模様です。

 ただ今、8時7分を少し回ったところですが、間もなく、第二段階の実験が始められることになります。

 繰り返しますが、YAMATO-Ⅲはワープ航法の実験を開始します。

 どのような理論、どのような装置で行われるのかは不明ですが、坂崎さんご一家のご無事と実験の成功を祈りたいと思います。

 画面に、今、8時10分までのカウントダウン表示が出ました。

 あと2分少々です。」


 一旦、篠塚はマイクを切って、大きくため息をついた。

 随分と、緊張しているようだ。


 アナウンサー振りが板についてきた最近では珍しいことである。

 それから再度、マイクを握る。


「途中から放送をご覧の方に、繰り返しお知らせします。

 YAMATO-Ⅲは、日本時間8時10分からワープ航法の実験を開始します。

 坂崎誠一さんの御話では、安全を確保するために、太陽系外の宙域に進出し、ここから実験を行うと説明されました。

 坂崎誠一さんは必ず地球に戻ると約束されています。

 数々の未知の技術を生み出し、太陽系の膨大な観測データを地球にもたらしたYAMATO-Ⅲは、またさらに一歩新たな道を踏み出します。

 アポロが月面に足跡を残して以来50年余り、人類はまた大きな一歩を踏み出そうとしています。

 この歴史的瞬間に立ち会える私たちは何と幸せかと幾度どなく思います。

 地上では環境問題、貧困問題など多くの問題が山積みとなっていますが、YAMATO-Ⅲの生み出した新技術は、それらの問題にも解決策をもたらすものと聞いております。

 YAMATO-Ⅲの空気浄化装置は、温暖化現象の決定的な歯止めになるそうです。

 YAMATO-Ⅲの推進装置は、航空機エンジンの無公害化を図れるでしょう。

 YAMATO-Ⅲの動力炉は、石油に依存し、原子力に依存するエネルギー産業を変えるでしょう。

 YAMATO-Ⅲが地球に帰還すれば、必ずや革新が起こります。

 その革新は一時的には混乱を引き起こすかもしれませんが、人類は必ずやその混乱を乗り越えられるはずです。

 実験開始まで後1分。

 繰り返しお伝えしますが、8時10分からYAMATO-Ⅲはワープ航法の実験を開始します。

 私たちは同じ日本人としてその成功を心から祈りたいと思います。

 YAMATO-Ⅲが新たな駆動装置でワープ航法を実験開始するまであと40秒です。

 繰り返し、お伝えします。

 日本時間8時10分から、YAMATO-Ⅲがワープ航法を実験します。

 実験開始まであと30秒余りです。」


 篠塚は20秒まで無言で待った。

 既に画面にはテロップも流されている。


「実験開始まで20秒を切りました。

 繰り返しお伝えしますが、YAMATO-Ⅲはワープ航法の実験を間もなく開始します。」


 そうして10秒前からは篠塚がカウントダウンを始めた。


「10、9、・・・3、2、1、0」


 篠塚が0を告げたとたん、YAMATO-Ⅲの船外画像の4画面が一斉に揺らいだ。

 その瞬間、古谷は篠塚の血の気が引いて真っ青になったのを見た。


 ほんの一瞬であったはずだが随分と長い時間に思われた。

 最初に気付いたのは篠塚である。


 そうして血の気の無い顔で、震えるような声を出しながら言った。


「8時10分、YAMATO-Ⅲは実験を行った模様です。

 画面が一時的に揺らぎましたが、今は戻っています。

 但し、私の気の所為かもしれませんが、星の位置が明らかに違うように思われます。

 あるいは、実験が成功し、瞬時に別の天体へ移動した結果ではないかと思われます。

 今、実験前の画像を左に出す準備をしています。

 少々お待ち下さい。」


 古谷が指示を出す前に篠塚が催促した。

 約15秒遅れたが、画面を二つに分けて8時9分の静止映像と現在の映像を映し出した。


 篠塚の言う通りであった、明らかに星の色、位置などが違っている。


「これはYAMATO-Ⅲ上部のカメラ映像です。

 左側が実験開始前の映像、右側が現在の映像です。

 明らかに異なっているのがお分かりと存じます。

 途中から放送をご覧の方にお伝えします。

 YAMATO-Ⅲは、8時10分からワープ航法の実験を行った模様です。

 結果についてはまだ何の報告も来ておりませんが、少なくともYAMATO-Ⅲ上部のカメラ映像は、実験前とは異なった映像を送って来ています。

 一方、YAMATO-Ⅲ前方の映像は、・・・・。」


 古谷は既に他の映像の比較も指示を出していた。


  ◇◇ 続く ◇◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ