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先駆者 ~ 天翔けるYAMATO-Ⅲ  作者: サクラ近衛将監
第二章 飛翔
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2ー19 石垣島 その一

 石川圭吾は高速中型巡視船「みやら」の船長である。

 この4月に海上保安庁警備救難部警備課専門官から赴任してきたばかりである。


 尖閣諸島の領海警備を終えて5日ぶりに石垣港に帰還した。

 その帰還を待っていたかのように保安部から呼び出しを受けた。


 竹野保安部長が直々に電話を寄越し、石川とは同期の田坂とともに部長室に来いと言う。

 入港作業も完全には終わらないうちに、航海長に後を任せて石川と田坂は保安部へと出頭した。


 部長室に辿り着いて帰還の挨拶もそこそこに、竹野は二人を応接セットに座らせ、机の陰から2組のゴーグルとキーボードを取りだした。

 キーボードは精々ミニノートパソコンの大きさであろう。


 そうして二人にそのゴーグルをかけろと言う。

 石川と田坂がゴーグルをかけると周囲は全く見えない状態になった。


 だが、ゴーグルの中に小さな緑の輝点が中央に認められる。

 次いで竹野がキーボードで何かの操作をしたようだった。


 すると目の前に文字が浮かび上がった。


『対象者を確認。

 登録完了。』


 石川にはそう読めた。

 次の瞬間、石川の眼前に広大な景色が広がった。


 まるで宇宙空間から地球を眺めているような錯覚を覚えた。

 画面の中心はおそらく東京湾。


 上はオホーツク海から下はインドシナ半島までの領域が一望できるのである。

 明らかに映像であるが実写映像にしては雲が一切見えなかった。


 だから石川は❆oogleと同じく何らかの写真の合成映像と思った。

 竹野は石川の手を誘導し、キーボードに触れさせた。


 途端にキーボードと自分の手がその映像に重なるように映された。

 半分透けた画像で自らの手とキーボードが見えるのだが、竹野部長や、隣にいるはずの田坂の姿は見えない。


 竹野の声が指示した。


「タッチパネルでカーソルを石垣島に合わせろ。」


 石川が石垣島周辺に十字のカーソルを移動させた。


「タッチパネルの下、右側のキーを軽く叩け。」


 そうすると石垣島と思われる領域が画面中央になり、同時に拡大された。


「石垣港の専用岸壁が分かるまで拡大してみろ。」


 そう言われてさらに画面を拡大し続ける。

 拡大するに連れて、中心が石垣から少しずれていることがわかり、再度、カーソルを石垣に合わせ島が画面を覆うくらいに拡大した。


 石垣港は島の南南西にある。

 港に中心を合わせ更に拡大するとやがて専用岸壁が姿を現し、同時に「みやら」が眼下に見えた。


 あくまで過去の航空写真映像であろうと思っていたが、不意に石川はそれと異なることに気付いた。

 「みやら」が着岸する専用ふ頭の脇を臨港道路が走っているのだが、そこを車が移動しているのを見つけたのである。


 おまけに、みやら甲板上ではオレンジ色の合羽に身を包んだ職員が船体の水洗いをしている様子が見えた。

 明らかに現在の石垣港の様子を上空から眺めているのである。


 石川はまさかと思った。

 だが、竹野がその迷いを振り切った。


「どうだ?

 ()()()がみえたか?」


 石川と田坂は二人同時に言った。


「見えます。」


「そいつは掛け値なしに今現在の()()()だ。

 そうして、こいつは世間で評判の()()()()の置き土産だ。

 取りあえずゴーグルを外していいぞ。」


 石川がゴーグルを外すと目の前に竹野部長が座っていた。

 酷く真剣な表情である。


「で、こいつは、絶対の機密事項だ。

 この石垣保安部では、お前達二人と俺と、『あぐに』の船長、業務監理官しか知らない。

 石垣航空基地の基地長は知っている。

 石垣島ではこの5人だけだ。

 十一管本部では本部長と三人の次長以外は知らない。

 本庁では警備救難部の管理課長と運用司令室長、参事官、部長の4人、それ以外には警備救難監、総務部長、次長、長官の4人で計8名だけ。

 全国的に、この装置は二保監以上の厳選した巡視船船長、業務監理官に配分されているほか、各保安部長、航空基地長、国際犯罪対策基地長、特別警備隊基地長及び管区本部の警備救難部企画調整官だけに配分されている。

 お前たちは、船の乗組員にも家族にもこの機密事項を決して話してはならない。

 この装置はお前達の網膜を登録した。

 だからこの装置を他の誰が使おうと何も見えない。

 俺も装置は持っているが、お前達の装置は扱えないんだ。

 最初の登録以外はな。

 こいつはお前たち専用ではあるが、同時に職名についているものだ。

 お前達が異動で『みやら』を離れるときは、後任に確実に引き継がなければならない。

 お前達二人のうち一人が残っていれば引き継ぎ出来るだろうし、二人とも移動する場合は、一方が残って引き継ぎを済ませてから移動することになる。

 そのための引き継ぎ旅費も新たに捻出されることになっている。

 追ってこの装置を保管するための金庫が届くだろう。

 その金庫が部屋に取り付けられるまでは、お前達の責任で、その装置を鍵のかかる場所に保管しろ。

 船から持ち出すことは絶対に許されない。

 但し、船がドックに行く場合は、私に預けて行け。

 私が預かる。

 因みにこの装置の所在を外部に漏らした場合は、故意であろうと過失であろうと間違いなく懲戒免職になる。

 心してかかれ。」


「でも、なんで、こんなものに?」


「馬鹿もの。

 ゴーグルをかけて画面に現れた情報をもう一度よく見てみろ。

 こんどは石垣島全体と西表島見えるようにしてみろ。」


 石川はゴーグルをかけた。


  ◇◇ 続く ◇◇


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