2ー16 中南海 その二
引き続いて経済顧問が説明する。
「推進機関、通信機器についての技術は憶測のしようもございませんが、我が国技術陣の精鋭を持ってしても坂崎なる人物が如何なる理論から重力制御あるいは反重力を生み出しているのか推測もできない状態であり、高次空間通信についても同様です。
この方面のより確実な情報或いは理論を入手してから検討したいと存じます。
それと、日本のNFK情報から入手した食料の長期保存装置についても同様でございます。
少なくとも冷凍保存ではないように推測されますが、如何様にすれば鮮度を落とすことなく数年単位の保存が可能なのか、なお一層の情報収集が望まれます。
特に近い将来起きうると予測されております食糧危機に際して、斯様な装置があれば余剰生産物を無駄に捨てることなく保存でき、また、価格統制も容易になると思われます。
無論、在庫を抱えるための余剰資金が必要とはなりますが・・・。」
「公安担当顧問、そちらからは何か新たな情報が有るかな。」
「目下、在日の公安要員を総動員させて坂崎なる人物の情報を収集中でございますがさしたる情報はございません。
ただ、来宇部に住んでいるはずの坂崎の娘夫婦及びその二人の子供たちの行方が杳として知れませぬ。
何らかの迷惑或いは危害を恐れて、あるいは事前に所在を隠したものと推定されますが、詳細は不明です。
日本の報道機関も娘夫婦の行方を捜している模様ですが、未だ有力情報は有りません。
日本に在留する公安部員が総力を挙げて、坂崎及びその息子の思想的背景についても鋭意調査中ですが、これまで全く無名の存在であっただけに、調査自体が非常に難しい状況にあります。」
「わかった。
引き続き情報を探って欲しい。
外交担当顧問。
今回の件で、我が国の外交関係を見直す必要があるかどうかについてはどうだ?」
「今回の一件は、本来外交には無関係なのですが、・・・。
対日政策を考える場合、今後の足がかりはこれまで以上に残しておかねばなりません。
そのために、私の一存で、釣魚島渡航を計画していた活動家を足止めさせました。
さらには、海洋調査船の活動も少なくとも日本の主張する領海内及び陸岸から24海里以内に入ることを避けるように指示をいたしました。
坂崎なる人物に我が国が先鋭的に映るのを防止するためです。
こちらが低姿勢に出る必要は有りませんが、少なくとも挑発行為は控えるべきです。」
「日本とより親しくなれと?」
謝顧問は、小さくうなずいた。
「余りに急激な対日姿勢の変化は対外的にも好ましくないと思われますが、徐々に変化をさせるべきと考えます。
坂崎がいる限り、日本はアムリカやロッシーアを超える科学大国になり得ます。
政治家と外交は三流ですが、これまでも技術は超一級品でした。
それに坂崎の知識が加われば、欧州や北亜米の白人至上主義の牙城が崩れます。
善きにつけ悪しきにつけ、今後は、日本に多くの眼が向けられることになるでしょう。
そうした中で我が国への対日姿勢への非難が起きることはできるだけ避けねばなりません。
北京五輪、上海万博の折にも可能な範囲で自重しましたが、今回も同様の、いえそれ以上の姿勢が必要です。
我が国が最大の利益を得るには必要不可欠な動きだと考えます。」
「ところで、黄補佐官。
明日は、午後2時から我が国政府高官と坂崎との会見が予定されているようだが、誰が相手をすることになった?」
「色々検討はいたしましたが、無論、鄭書記長と延首相は問題外です。」
「そうか?
アムリカ国は大統領、ロッシーアはプーシキン首相が会見すると聞いたぞ。
私や延が出てもおかしくはないだろう。」
「書記長の命とあればそのようにも手配いたしますが、相手は一介の民間人です。
本来、儀礼を重んじる国ではありますが、これまでのやり取りを見ている限り、辛辣な発言も無いわけではありません。
書記長に暴言を吐きでもしたら後々修復も難しくなります。
ここは科学庁長官の紊慧雲にお任せいただきたいと思います。」
「紊か・・・。
まぁ、順当なところかな。
低すぎもせず、高すぎもせず・・・。
通信装置は届いたのか?」
「今夜半には北京に到着します。
既に新中華社通信の担当者が、インストラクションをデータ通信で入手していて関係の接続機器の事前準備を整えております。」
「会見の場所は、どこを予定している?」
「この中南海の第三小会議室を予定しています。
長官室よりは背景が華やかですので、電影への映えもよろしいかと。」
「対応は、紊慧雲一人か?」
「いえ、通訳が1名、科学庁の科学担当顧問3名が補佐でつくほかに、科学技術担当官十名と新北京大学の教授等5名が最寄で待機しております。
尤も、画面に映るのは原則として紊慧雲長官と通訳のみになります。」
「わかった。
それでいいだろう。」
◇◇ 続き ◇◇




