2ー15 中南海 その一
中華国の鄭隆昌総書記は中南海にあって、側近からの報告を受けていた。
「すると、アムリカ国CNN、日本NFKいずれの情報からも、間違いなく、YAMATO-Ⅲの技術は本物と推測されると言うことだな。」
「はい、総書記のおっしゃる通りにございます。
天文観測部の監視情報でも、アムリカ国のシャトルをはるかに凌駕する巨船が国際宇宙ステーション近傍に三時間ほど存在していたそうで、日本時間正午、我が国の北京標準時で午前11時ちょうどに姿を消したそうです。
通常、シャトルなどが移動する場合、極めてゆっくりと離れるのだそうですが、この度のYAMATO-Ⅲの場合はまるでミサイルのように飛びさったとのことです。
NFKおよびCNNの映像もそれを裏付けております。」
「では、坂崎なる日本人の話は概ね真実と想定した方がよいと言うことだな。
軍事顧問、仮に真実と仮定した場合、軍事部門に与える影響についてどう考えるか。」
「詳細な分析はまだでございますが、YAMATO-Ⅲの持つステルス性は兵器として極めて強力です。
我が国の最新レーダーを持ってしてもYAMATO-Ⅲを捉える事ができませんでした。
これは、少なくともレーダー追尾型ミサイルは対抗できないと言うことです。
無論ロケットのように熱源を持っているわけでも有りませんので、熱追尾型ミサイルも使用できません。
仮に同じ装備の航空機が出現した場合、我が国の対空ミサイルは有って無きが如しガラクタになります。
肉眼で捉えて、機銃を撃ちこむしか方法がありませんが、隕石群からステーションを防護したシールドを張られては、その機銃ですら対応できません。
情報では秒速50キロで迫りくる隕石を防いだとか。
仮に大口径の高射砲を発射したにせよ、高々音速の2、3倍程度、その破壊力では到底太刀打ちできません。
まして、6Gの加速を長時間掛けられるとなれば、東京から北京まで僅かに5分以内の距離、大陸間弾道弾よりも大きなマッハ50の速度で襲来する航空機を迎撃する手立てなどありません。
無論それほどの高速で飛行すれば大気との摩擦で構造材が持たないとは存じますが、あるいは、何らかの新素材を開発しているやもしれないこと、更には我が国航空機が到達し得ない大気圏外を飛行されたなら、摩擦熱も少なくなると考えられます。
いずれにせよ、日本がその技術を入手したならば我が国の防備は綻びることになりましょう。
さらに、毎秒50キロで飛翔する直径50センチ以下の物体を正確に探知できる技術は、ミサイル防衛に応用できます。
おそらくは我が国の中距離弾道弾は、事日本に関する限りそのほとんどが役立たずになりましょう。
残るは近距離弾道ミサイル搭載の潜水艦だけとなりますが、日本軍の最新イージス艦の対潜装備は侮れません。
実際に戦ってみなければわからない部分も多いのですが、あるいは坂崎なる人物が潜水艦対策までも新技術を保有していれば、潜水艦による攻撃も困難になる可能性がございます。」
「フム、有るか無いかわからぬ技術について懸念する必要はない。
我が国が日本と戦争を始めるならいざ知らず、軍事的優位性の可能性を検証するのに余計な心配事は無用にせよ。
次いで、経済顧問、我が国の経済に与える影響はどうだ。」
「はい、未だ不確かな情報が多すぎますが、確かな部分だけについて申し上げれば、エネルギー部門での事業は壊滅的な影響を受ける可能性がございます。
少なくとも我が国の電力部門は、原子力を含めて転換を余儀なくされるでありましょう。
何しろ原子炉千基分の発電可能な動力炉が僅かに8立方mに収まるなど信じがたいことでございますが、真実であれば、いたずらに新たな電源開発をするよりも、件の動力炉を購入した方が得策でございます。
原子力発電所一基建設に要する費用は40億元、維持費、核廃棄物処理費用を勘案しますとその三倍はかかる代物ですが、一個人が建造できるものならば、如何に高くても千万元ほどの価格で購入できるはず。
元より一基だけで我が国電力を賄うに十分な能力がございますが、仮に百基購入したところで、高々十億元にしかなりません。
それだけで、不足する電力が十分に賄えるとなれば随分と安いものです。
電力の確保は各種産業の生産確保にも役立ちます。
第二に、宇宙産業ですが、これはもう間違いなく撤退しかございませぬ。
先ほど申し上げた通り、一個人が造り上げるものなれば価格としては随分と安価な物となりましょう。
YAMATO-Ⅲの形状寸法からみて、おおよそ八千トン程度の船舶と同等の容積を持っているものと推定できますが、これを宇宙貨物船と考えるならば、我が国に受注のある重量4トン程度の衛星ならば一度に200基ほども搭載して目的の軌道に置くことができましょう。
従って輸送に関する宇宙産業は我が国で今後育つことは考えにくいと思われます。
無論、然るべき技術移転がなされるならば、我が国が世界有数の宇宙輸送産業を保有することは可能です。
天舟で培った我が国独自の技術で生き残るとすれば、宇宙服などの周辺装備に可能性がございますが、ロッシーア製、アムリカ国製に比べると甚だ残念なことに我が国製品はかなり劣るものと判断しております。
その分、伸びる可能性もございますが、初期投資とその成果あるいは量販性に乏しい製品であることを考え合わせますと、政府が重要産業として指定して育成するだけの価値はございません。
天舟は国威発揚には大いに役立ったものの、我が国は漸く40年前のソ連に追いついたまでのこと。
今また、日本に取り返しのつかないほどリードを開けられては独自路線での開発は予算の無駄としか言いようが有りません。」
◇◇ 続く ◇◇




