2-9 宇宙ステーション その二
「NAUAからYAMATO-Ⅲ、感度有りましたら応答願います。」
すぐにその通信装置のスピーカーから返事がある。
「こちらYAMATO-Ⅲ、NAUAの感明良好。
要件をどうぞ。
なお、同意があれば、この通信内容をNFKにも流したいのですが、よろしいでしょうか。」
「ん、あぁ、構わない。
こちらもCNNに流すことになっている。」
途端に無音だったNFKの放送に英語の会話が突如入り始めた。
「私は宇宙センター当直班長のギルバート・クレイグだ。
よろしく。
で、いくつか確認したいのだが、・・・・。
一つ目、目で見えるのにレーダーに映らないのは何故?」
「無用の混乱を避けるために、ステルス機能を作動させているからですね。」
「なるほど、・・・・。
先ほどNFKの放映情報がNAUAにも届いた。
ヤマトでは、重力制御のエンジンを使っているとのことだが、動力源は原子力かね?」
「いわゆる放射性物質を燃料とする原子力では有りませんが、物質をエネルギーに変える点では同じ理屈でしょうか。
私は核子力と呼んでいます。」
「ほう、核子力ねぇ。
燃料になるのは何ですか?」
「二酸化炭素を分離して造った炭素です。」
「二酸化炭素?
で、原子炉と同様に熱エネルギーで蒸気を発生させタービンを回しているのかな?」
「いいえ、物質消滅のエネルギーをそのまま電気に変換させ、或いは熱エネルギーの形で取り出します。」
「そいつは、・・・。
一体どうやって?
それにどんな理屈でそんなことができる?」
「それは当面秘密です。」
「何故、秘密なのかね。」
「私が造れたくらいですから、理屈がわかれば普遍的に何処でも造れるようになるでしょう。
ですが、不用意に使えば非常に危険です。
ですから秘密にします。」
「ふーむ、・・・・、なるほど・・・・。
で、出力は?」
「YAMATO-Ⅲには4基の動力炉が搭載してありますが、1基当たりの出力は、最大で約10億キロワットに相当します。」
「10億って・・・。
原子力発電所千基分かぁ。
凄いねぇ。
動力炉の大きさは?」
「概ね8立方メートルですから、およそ47.5立法フィートになりますね。」
「そんなに小さいのか・・・・。
原子炉の場合は2年に一度程度は燃料交換をしなければならないが、その動力炉はどうなんだい。」
「燃料が有る限り、稼働します。
自動車や航空機と同じで稼働中に燃料が補給できる構造ですから。」
「最大出力ではどのぐらいの炭素が必要になる?」
「サドベリーの高エネルギー研究所にお尋ねされてはどうですか?
単純にE=MCの二乗ですから。」
「後で確認するとしよう。
YAMATO-Ⅲが動くにはその4基の動力炉全部が必要なのかね?」
「最終的にはそうなるかもしれないので、4基を設置していますが、現状では地上からここまで到達するのに使った最大出力は百万キロワット未満ですね。」
「今、またNFKの情報からわかったことだが、以後のスケジュールが有るようだね。
教えていただけないかな?」
「ええ、いいですよ。
NFKにも申し上げましたが、日本時間の正午、アムリカ国東部標準時で22時には、ステーション近傍宙域から離脱し、月へ向かいます。
月の衛星軌道上を約半日周回し、その後、木星に向かう予定です。」
「そこでだ。
NFKでも質問をしていたようだが、距離の近い火星や金星では無く、何故木星なのかを教えて欲しい。
君の立てたコース上に木星が有るからという説明のようだったが、本来であれば日数がかかりすぎるはずだ。
ガリレオは10年以上の歳月を費やして木星に到達している。
だが、君はNFKに対して4日と言った。
YAMATO-ⅢはICBM以上に速力を出せるのか?」
「そうですね。
速力については、例を上げると、この衛星軌道上から月までの到達時間は2時間を予定しています。
最初の半分は加速、残り半分は減速しながら航宙します。
加速度計算はそちらのコンピューターでやって下さればよろしいでしょう。
仮にその加速度で木星までの平均距離の7.8億キロを走破するとどのぐらいの日数になるかは簡単にわかる筈です。」
「今やっている所だが、・・・。
ヒュー、凄いぜ。
3Gの加速度を90時間以上もかけるのか。
並みの人間では持たないが、・・・。
あ、待てよ。
YAMATO-Ⅲの内部ではいつでも一定の重力にできるのかい?」
「ええ、私どもは年寄りですからね。
そんなに身体に負担はかけられない。」
「わかった。
ところで、その加速度でかけっぱなしにするといずれは光速に限りなく近づくわけだが、そうするつもりはあるの?」
「ええ、まぁ、光速の25%ぐらいまでは実験してみようかとは思いますが、少々時間がかかりますね。
それと万が一にでも太陽系に擾乱を与えたくはないので少なくとも太陽系から少し離れた場所で実験するつもりです。」
「そうすると・・・。
もしや、海王星の軌道の外にでるということかい。」
「ええ、そのつもりです。」
「海王星の軌道までだと木星までの距離の20倍近くになるが・・・。」
「そうですね。
海王星に軌道よりもさらに遠くに参りますので、その途中で光速の25%近くまで速度を上げてみます。
理論上は質量が2倍以上に増えるかもしれません。
YAMATO-Ⅲの質量程度では大きな擾乱は起きないと思いますが、念のため光速の25%までに抑えるつもりです。
そのためにできるだけ惑星や小惑星の少ない宙域に絞ってコースを選んだのです。」
「なるほど、それでもかなりの日数はかかるわけだが、一体、どのぐらいの航続距離が有るのかな?
無論食料や空気を含めての話だが。」
「あ、ちょっと待って。
緊急事態ですので、その回答は後で、・・・・。」
「どうした?
何が有った?」
返事が無いまま時間が過ぎて行く。
◇◇ 続く ◇◇




