2,不審者あつかいされる。
視線が気になる。
子鬼たちを斬り伏せながら、ルクはそんなことばかり考えていた。
もちろん視線とは、冒険者たちからのもの。
ふしぎなことに、魔族や魔物相手には、コミュ障は発症しない(かといって、お喋りになるというわけではないが)。
だいたい意思疎通のはかれる魔族とかが、もともと少ないからかもしれないが。
「凄いぞ、まったくよそ見しながらも、子鬼の攻撃を一度もくらわない」
「子鬼たちの動きを見通しているようね」
「無心だ。あれこそが、剣の道を究めた者の無心」
「何も考えず、ただ感じるままに攻撃しているのか」
という冒険者たちの声がひそひそと聞こえてきた。
実際は、いろいろと考えているのだが。少なくとも、戦闘については考えていない。
ルクが装備しているのは、《鋼の剣》。つまりただの剣。自分で魔装は施したが、もっといい武器が欲しくても、武器屋に入るのが難しい。なぜなら、商魂たくましい店主が声をかけてくるから。
気づいたら、子鬼の死体の中に立っていた。残りは逃走したようだ。
ここからが問題なのだ。
おそるおそるルクは、助けた冒険者たちを見た。「助かりました」的に駆け寄られると思ったが。なぜか固唾をのんだ様子で見守ってきているだけ。
ルクも固唾をのんで見守り返しつつ、ハッとした。
こちらは無口キャラなのだし、もう帰っていいのでは? つまり、何か言わずとも、それは失礼にはあたらない。さらにいえば、「あの人、もしかしてコミュ障?」的な発覚もない。なぜなら、こちらは無口キャラ以下略。
跳躍。
「あ、お待ちください!」
「せめてお名前だけでも!」
などという声が飛んできたが、ルクは連続跳躍でその場から脱した。魔物よりも同業者のほうが怖いというのは、いかがなものか。
★★★
その後、拠点としている町に戻る。
一人で攻略難度の高いダンジョンに行くより、人込みの多い町中を移動するほうが、精神を摩耗するというものだ。
とりあえず、アイテムボックスに入っている素材を買い取ってほしい。そうしないと、晩御飯のお金もないわけだ。
まともに売りさえすれば、とんでもない高額になることは間違いない。どの素材も、Sランクの冒険者パーティが総がかりで、やっと倒せるレベルの魔物から採ったのだから。
問題は、正規の買取を頼めるのが、冒険者ギルド本部だけということ。
このギルド本部に足を踏み入れるのが、ルクにとって最も難しい。
なぜか? 人が多すぎ。
だいたい、なぜこんなに人で賑わっているのだろう。
ギルド本部前の柱の陰から、中の様子をうかがっていると──
「おい、そこのお前」
と、声をかけられた。
おかしい。たいてい陰が薄いので、声をかけられるということはないのだが。
そういえば、まだ狼骨王の《王頭蓋》を頭にかぶったままだった。街中でこれをかぶっていると、かなり目立つ。ので逆効果。
不審者あつかいされて、身許を尋ねられてしまったのか。
ルクに声をかけてきたのは、冒険者ギルドの上位ランクらしい。ちょうど本部に立ち寄ったところ、表に怪しい奴がいるので誰何してきてほしい、とでも頼まれたのか。
こうやって間近から顔を向けると、目と目があう。と、嫌でもコミュ障の発症。眩暈、呼吸困難、で、吐き気。何度も考えるが、魔族の頭蓋骨の中で吐くというのは、避けたい。
気合いをいれて吐き気をこらえる。
かくして、この世のものとも思えぬ(らしい)鋭い眼光。
誰何してきた冒険者が、ハッとした様子で身構える。
「お、お前、敵意があるのか!」
敵意はないのだ。こっちは吐き気をこらえているだけで。
(無口キャラを貫きとおす場合、いまするべきことはなんだろう?)
自問してみると、たぶんここは──
(みねうちか)




