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1,社会性も才能。

 

 さて、困った。


 ルクは大樹の後ろに隠れて、25メートル先の空地を見やった。

 そこでは4人の冒険者パーティが、子鬼ゴブリンの群れから襲撃を受けていた。おそらくパーティは、狡猾な罠にはまったのだろう。


 子鬼ゴブリンは一体の戦闘力は低くくとも、群れをなすと厄介だ。そしてパーティ側の練度は低く、あれでは全滅も近いだろう。


 だからルクは困っていた。

 彼らを助けてあげたい。そして助けることは容易い。

 52体の子鬼ゴブリンを倒すことなど問題ではないし、数秒でこなせる。


 問題は、その後だ。

 子鬼ゴブリンたちを始末したあとに待ち構えている、イベント。


 まず助けたパーティたちが、ルクに駆け寄り、「助かりました!」「ありがとうございます!」「あなたが駆けつけてくれなければ私たちは全滅でした!」的な感じで、感謝される。


 さらにそこから、「あなたは強いですね!」「どちらのギルドに属しているのですか!」「パーティの仲間たちは?」という質問タイムに入る。


 場合によっては、「連絡先交換してください!」とか「これから一杯飲みにいきませんか!」というお誘いタイムに。


 では、ルクはどう対応するのだろうか。

 こうである。


「あああああああ、あののののののの、ですねねねねねねねねねねねね。ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼくは、たいたいたいたいたいたいいたいいいいいいたいしたものではななななななななななななな………おぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ(リバース中)」


 昔からこれだ。どういうわけか、ルクは人と話すのが苦手だった。

 苦手? 否、もう拷問といって良いくらい。


 人と話そうとすると、頭に血がのぼり、言葉はつまり、息が苦しくなり、眩暈がして、顔から火が出そうで、最後には吐く。または失神するパターンもある。


 さすがに家族相手は平気だったが、父も母もいまはこの世にいない。天涯孤独の身としては、友達の一人も作りたいものだが──それができたら苦労しない。


 ──コミュ障を舐めないでくださいっ!

 と、ルクは心の底から叫びたいわけである。


「しかし、君は良かったなぁ」


 攻略難易度Sの〈闇黒城砦〉で撃破したボスランクの魔物、狼骨王(ウルフキング)。その死体から回収した素材、《王頭蓋》。

 ルクが話しかけているのは、このレア素材だった。人間には話しかけられないが、素材のような無機物なら大丈夫。


狼骨王(ウルフキング)くん。君は、何も話す必要はなかったね。だって頭部がむき出しの狼頭蓋だもの。会話できるはずもないよね。さらにいえば、誰も会話なんか求めてはこないよね」


 そうなのだ。結局のところ、人は社会性のある生き物。どうしても会話というコミュニケーションを取ってきたがる。そこに期待が生まれる。

 ルクのようなコミュ障は、その期待に応えられずに、相手を失望させてしまう。さらにそれが怖くて、より誰とも接せられなくなる。悪循環が起きるのだ。


 しかし狼骨王(ウルフキング)には、そんな悩みはなかっただろう。ルクの決め技〈悪麓斬〉で討伐された、このボスクラスの魔族には。

 なぜならば、誰も会話を期待していなかったから。そして実際に、狼骨王(ウルフキング)は何も話すことはなく、ひたすら無口だった。

 無口が許されたのだ。


 ふいにルクの脳内で閃きが走った。


 人間でも、それは可能なのでは?

 つまり会話を求められないようにするのだ。

 先んじて、『私はあなたたちと会話する気はありません』と主張する。そうすれば、誰も会話を試みてはこないだろう。話しかけられさえしなければ、まぁ何とかやれる。


 コミュ障を克服できない以上、とるべき手段はコミュニケーションの拒絶!


「これなら、いける気がする!──たぶん」


 かくしてルクは、狼骨王(ウルフキング)の《王頭蓋》を頭にかぶった。

 サイズが大きいのでぶかぶかだが、何とか眼窩から外の様子は見える。


 そして跳躍。


 子鬼ゴブリンの群れに襲われていたパーティは、今や絶体絶命。4人とも負傷し、ほとんど身動きもままらない状況。


 さらに、いまにも女の魔術師へと、子鬼ゴブリンの一体が棍棒を振り下ろそうとしている。魔術師は両手を痛めているため防御はできない。このままでは頭部を潰されるだろう。


 瞬間。

 ルクのただの蹴りが、その子鬼ゴブリンの上半身を粉砕した。


突然の登場に、4人の冒険者たちが驚愕の声をあげる。


「あなたは──!?」

「いったい──!?」

「どこから──!?」

「いまどうやって──!?」


 ここでルクは思い知った。《王頭蓋》をかぶっていても、やはり質問はされるのかと。そして話しかけられれば、やはりコミュ障が発動し──いまにも吐きそうに。


《王頭蓋》の中で吐くと悲惨なので、気合でこらえる。


 とたん冒険者たちからひそひそと声がもれてきた。


「なんて鋭い眼光だ。この世のものとは思えない」

「おれにはわかる。彼に話しかけてはダメだ」

「そうよ、きっと超絶した者に違いないわ」

「わたしたちのようなレベルの低い者が話しかけてはいけない相手なのだ」


 どうやら、吐き気をこらえている様子が、『とてつもなく鋭い眼光を放っている』に見えたらしい。



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