天使の絵の具
ある小さな天使が、神様から絵の具をもらいました。
すてきな恋を実らせたごほうびなのです。
天使はとても喜びました。
その絵の具は虹を原料に作られていて、とてもきれいな色が出せるのです。
神様はこれを使って、また人々を幸せにしてあげなさい、とおっしゃいました。
天使はちょっぴり絵の具を出して、
自分の真っ白な翼の先に少しだけ塗ってみました。
すると、その部分が虹色にきらきらと輝きます。
嬉しくなった天使は、その絵の具と筆とパレットを持って、地上へ行きました。
どこからこの色を分けてあげようかと天使が飛んでいると、
湖のほとりで泣いている女の子を見付けました。
女の子はお母さんに叱られ、おうちを飛び出して来たのです。
天使は早速、絵の具を湖に塗りました。
すると、湖はきらきらと虹色に光り出します。
女の子は急に湖の様子が変わったので驚きましたが、とてもとてもきれいなので、
涙が引っ込んでしまい、やがてその顔には笑みが浮かんでいました。
女の子はしばらく湖をながめていましたが、お母さんに教えてあげようと、
走っておうちへ帰ったのでした。
天使はまた別の場所へと飛びます。
小さな村の外れに来ると、誰かがケンカをしています。
どうやら恋人同士の男の子と女の子のようなのですが、
仲たがいをしているようです。
天使はすぐに、空に絵の具を塗りました。
ケンカをしていた二人がふと見上げると、空に二つの虹がかかっています。
まるで手をつなぐように重なって。
それを見た恋人達は、お互いに少し言い過ぎたと気付き、
仲直りのキスをしたのでした。
また天使は飛んで行きます。
あるおうちの中に、男の子がベッドに横たわって
窓の外を見ていることに気付きました。
病気にかかり、まだ治っていないので外へ遊びに行けないのです。
寝ているだけでは退屈で、もうそれだけで死んでしまいそうでした。
「わたしは病気を治してあげられないけれど、
ほんのちょっとだけでも楽しくなってくれますように」
天使は絵の具をちょっぴり多めに出して、男の子のいる部屋を塗りました。
活けられている花についているしずくが七色に光り、虹の花が浮かびます。
きれいなシャボン玉が部屋中に漂い、弾けて消える時に七色のわっかが見えます。
男の子はまるで夢の中にいるような気分になり、楽しそうな表情で眠りました。
こうして天使はあちこちへ飛んで行き、絵の具を塗りました。
泣いている人。怒っている人。しょんぼりしている人。
ケンカをしている人。ほほえみを忘れてしまった人。
そんな人達を見付けると、天使は絵の具を出して、周りに塗ってあげます。
それを見ると、みんなは何だか幸せな気分になるのです。
心の中が優しい気持ちにみたされてゆきます。
天使の絵の具は、ずっとその色が残るわけではありません。
しばらくすると、ゆっくりと消えてしまいます。
虹がやがては消えるように、絵の具の色も消えてゆくのです。
それでも、ほんの少しの時間でも天使の絵の具が描き出してくれた色を見て、
さみしかったり悲しかったりする人達は、きらきらした優しい心になるのです。
やがて小さな天使は、絵の具を使い終わりました。
翼に塗った色も消えて、また真っ白に戻っています。
でもね、心配しなくていいのですよ。
神様は他の天使にもこの絵の具を渡しているから、
地上の虹が全て消えることはないのです。
どこかできれいな虹が出ていたら、天使があなたに喜んでもらおうとして
絵の具を使ってくれたのかも知れません。