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第1話 地下シェルターにて1

“異分子の数が9()に増加したのを検知。マスター01(ゼロワン)に従い、最低2体捕獲して連行せよ。なお、絶対ケガを負わせてはならない。しかし抵抗の意思ありと判断した場合、その場で攻撃しても構わない”


あまり機械らしくない思考を以て判断が下された。それも司令と言うには少々()()()()機械が。

命令を受けた機械たちは、一斉に動き出した。




1番街通り3-4にある地下シェルターにて。


机を殴打する、ドスドスという鈍い音が鳴り響く。

「ねぇねえ、取り合えず外へ出てみない? いい加減偽物(ランプ)ではなく本物(たいよう)を見てみたいよぉ。」

 駄々をこねているのは留学生の一人、ミリソフィア・アイレンだ。本人自慢の淡い金色の髪はこれといって束ねずに下ろし、ピアス等の派手なアクセサリーは身に付けていない。本人曰く、見た目に反しておしとやかなので付けないそうな。


「なあ、森彦が壁に貼り付けた紙見た? 《ここから絶対に出るな。何があっても出てはならない》っていう。まあでも紙の裏に‟2年”っていう文字があったのは事実だし、もう出てもいいのかな」

 森達彦(もりたつひこ)のことを森彦と縮めて呼ぶのは、最年長である如月英介(きさらぎえいすけ)。彼は17歳という若さで世界の科学者顔負けの知識量を誇り、その思考力も群を抜いている。この中で実質リーダーだ。それに対し反論するのは大抵――


「いやでも、その‟2年”というのは果たして『2年経つまで出るな』という解釈でいいのかな。 あの人が言う事としては、何だか簡単すぎやしない?」

 冷静沈着さが売りの天川緑(あまかわみどり)。英介がチームリーダーだとするのなら、緑はキャプテンみたいな。もしくは、英介を目とすれば、緑は耳のような。そういう関係だ。黒縁の丸眼鏡をかけていて、髪は肩にかかりそうなぐらいとても長い。


 そこで時計を見ながらムービーメーカーこと斎藤光(さいとうひかり)は言った。

「そもそも何故こういう風に達彦おじさんは言っていたのかなー。そんな理由なんて探したけど見つからなかったよー。あ、そだそだ。公輝(きみてる)はどう思うー?」

 一つ訂正しておこう。僕の名前は公輝(きみてる)ではなく、正しくは西島公輝にしじまこうきだ。小さな頃からの付き合いで「きみてる」とそう呼ばれている。なぜそう呼ぶのかまでは知らん。

 ともかく、


「その呼び名はやめてくれ。それと僕にもわからない。その2年が何を意味していて、僕らに何を伝えようとしているのか。こればっかりは外へ出て確かめてみるしかないかもしれないね」

 と、皆の意見を少し肯定してみる。

 けれど肯定しただけでは皆が勝手に喜ぶだけなので釘を刺すことも忘れない。


「でもあの達彦が『絶対』っていう言葉を使った辺り、危なそうなことは一目瞭然じゃない?」

「「うっ」」 

 そうなのだ。あの達彦が『絶対』という言葉を用いたのは、ここ10年間で3回しかない。

 1つ目は、とある研究をしていて部屋へは絶対に入るな、と言われた時のことであった。が、そう言われたら入りたくなる奴が世の中いるもので。ミリソフィア――通称ミリィ――は案の定部屋へ突撃。

 結果3つの大事な機械をぶっ壊した。侵入者対策で施しておいた自分たちの罠が誤作動した、と達彦に言い訳をしたのだが、実際は面白がったミリィが叩き割っている。

 2つ目もまあ似たような案件だ。犯人は、もちろんミリィ。

 そして3つ目が今回の張り紙というわけだ。


 その張り紙は何年もの月日が経過したせいか。それとも興味故に紙を触りまくった奴がいたせいか。

 既にボロボロで、紙の四隅が丸みを帯びている。

 文字のインクは掠れつつあるが、まだ辛うじて読める範疇にある。

 と、張り紙をそこまで眺めたところで――


「でも百聞は一見に如かずって言うし、実際外を見てみることもありだとは思うね」

 英介はそう呟いた。

 それが決定打だったかのように、今まで沈黙を貫いて面々も賛同し始める。

 しかし全員が全員英介のように思っているわけではない。

 僕のように反対する人も、もちろんいる。


「リスクを顧みないで外へ出るのは不味いよ。さっき公輝が言ってた通り達彦さんの『絶対』という言葉がある以上、そんな安易な結論は出せない」

 いつもはヒョロヒョロで存在感皆無のくせに、ここぞという時に限り饒舌に語る。

 ボケっとしているようで意外と人を見る目がある西奥隼人(にしおうはやと)。彼は今回僕と同意見のようだ。


「それもそうだな。じゃあ妥協ラインとして俺とあと2,3人で外をちと下見するのは?」

 思案顔でそう語る英介。

 ミリィが大きく頷いたのを見て、話の落としどころを悟る。


「まあそれならいいか。けど、問題は誰が行く? 英介、ミリィ、あとは…」

「はい、俺が行くよ」

「おっし、じゃあ緑を加えた三人でよろしく。ただ、危険を少しでも感じたらすぐ戻ってくれ」

「お、寂しいのか?」

 ニヤニヤし出す英介。ただその身を慮っただけなのに、寂しがっているように扱われてイラっとする。

 その評価は心外だが、引き際を心得ている彼なので、安心して任せられるのは間違いない。


 ふと真顔に戻った英介は最終確認をする。もう出発する準備を始めたようだ。

「じゃああとは連絡用の小型端末「小さな世界」も持ってく。何かあったら知らせるわ」

 何かあったら、では遅いのだがな。

「おっけー。一旦お開きにするか。でもこの後もう一回集まってね」

 皆が首肯するのを確認して、僕は椅子へと腰かけた。

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