プロローグ
かつて建物だったことを想起させる、積みに積まれた瓦礫の山。
どんよりとした雰囲気に、ひどく乾いた空気。
決して陽が差すことはないような大きな黒雲が、空を覆っている。
見渡す限り、この地に生命は見当たりそうにない。
むろん人の存在すら感じ取ることは不可能だろう。
ここはそう、人類が既に滅亡した世界。
いつ滅んだのか。
その時を正確に知る人間は、今や息絶えてしまった。
人類は自らの手で自らの首を絞めたのだ。
二年前。
やる気を失い生きる意味を失った人類は、その代替として自らを預けるに足る利便性に富んだ機械を造るべく、無い知恵を絞り尽くした。
もちろんすぐにアイディアが浮かぶほど簡単なものではなかった。
ひょんなことが大きな進歩に繋がったかと思えば、非人道的な実験が明るみに出て、世間を非難の嵐が包むこともあった。
しかし、後の人は思った。人類がここで踏みとどまっていれば、と。
そして、中には始めからこの計画に否定的な人もいた。
けれど、訳あって止めることは叶わなかった。
最終的に計画遂行の直前になって。
“人類向上計画反対派”と呼ばれる人たちは、忽然とその姿を消していたのだ。
誰もその事実に気が付かない。
ただでさえ反対派がいても現状維持が手一杯で、推進派を止められなかったのに、反対派がいなくなってしまえばどうなるかは火を見るよりも明らか。
そこから人類向上計画は加速度的に進行していった。
人類は。
疑問に思うことなく、突き進んでしまった。
茨以上に鋭く、地獄の業火よりも恐ろしく、錆びた鉄のようにボロボロな道を。
そう遠くない未来に、壊れることが確定している軋む吊り橋を。
悟ったところでもう遅い。
その後、この世界から人類は消えてしまった...
誰かはわからぬ時人が、この場所をこう名付けた。
天狂楽園。
ありとあらゆる利便性を追求し楽園の創造を目指したものの、いつしか自分たちを滅ぼすに至った世界。
そして今。
とある場所にて。
一つの機械が。
その目に再びどす黒い光を灯す。
“天狂楽園にて異分子を検出。執行機関へ命令する。座標「1-00-2」へ急行し、直ちに排除せよ”