初街と旅の二日目! 中
朝食美味しかったなぁ。よかったよかった。
仕立て屋さんとかのお店は、まだしばらく待たないと開かないから、三階の部屋へ戻ることに。
入り口から入ってすぐの部屋のソファに座る。
奥側にグウェイルさんも座った。
「カナト、熱は下がった様だが、出歩いても問題なさそうか? ここに店の者を呼ぶこともできるが・・・」
階段上ってる時、じーっと観察されてるなぁとは思ったけど、もしかしてふらついてたか?
三階までとかちょい疲れたけど、ぜーはー言ってないぜ?
「大丈夫ですよ。むしろ街の中歩いてみたくて、そわそわしてます」
「ふっ。そうか。
今日もここに泊まって、明日仕上がった服を受け取ったら王都へ向かおうか」
「はい。楽しみです。
あの、コートは出来合いのものはありますかね?
できれば今日中に欲しいのですが」
ズボンの裾はブーツ履いて誤魔化したけど、上は袖折ってるのも、ダボッとしているのも丸見えでちょっと恥ずかしくてな。あと単純に寒い。
なんか微笑ましそうに見ないでもらえますかね?グウェイルさんよぉ?おぉん?
「カナト好みのものがあるかはわからないが、コートもいくつか用意させてある。三十分から一時間程待てば、今日着る分のシャツやズボン、コートの寸法合わせはできるらしいので、安心して欲しい。
それと、下着や靴下を忘れていてすまない。これも店に着いたらすぐに用意させよう」
「ありがとうございます。助かります」
なんかー、薄々気付いてはいましたがー、グウェイルさんってただの騎士様ってだけじゃなくて、金持ちというか、お貴族様的なアレじゃね?
宿でも仕立て屋呼び付けるの普通!パンツも自分専用に型紙から作らせるぜ!みたいな空気を察した。
仕立て屋については、一から作るだけじゃなく、出来上がってるものを調整してくれるのはわかった。明日受け取る予定のやつも、たぶん王都に着くまでの二、三日分のだけなんだろうな。
なんか、王都に着いたらフルオーダーで作ってくれそうな気が・・・。
まぁ、俺の懐は痛まないし、時間ある時パンツも好みの形の作ってもらおうかなぁ。
この世界、ボクサーパンツあるかな?
ステテコ?股引き?みたいな、ズボン二重に履いてる様なやつとか、トランクスって好きじゃねぇんだよなぁ。ぱんちゅは大事だぜ?
さぁてと、あと二時間ぐらいはぼーっとするしかないのかねぇ?
グウェイルさんの方を見ると、にこっと微笑まれた。ケッ!男前ですなぁ!でも見つめ合う趣味はねぇぞ。
部屋の中を見回してみる。
窓から見える空はすっかり明るくなっている。
暖炉もあるけど、衝立の向こうに火は灯ってない。でも室内は暖かいから、魔法とか魔道具的な何かで暖められているんだろう。
暖炉は雰囲気作りか?
絵画は、暖炉の上の大きいの一枚と、小さいのが何枚か。どれも雪景色に動物の絵だ。トナカイみたいなのとか、兎っぽいのが描かれている。
目悪いからボヤッとしか見えてないけど、色合いはなんかほっこりする感じ。
本棚の本はしっかりした装丁だな。紙なのか羊皮紙みたいなのかとか気になる。
ソファから立ち上がり、本棚の前へ。
背表紙は皮っぽい?少し艶もあって、焦茶や深緑、真紅に綺麗に染まってる。箔押しみたいに、飾りや文字の所がちょっと窪んでる。
タイトルは横書きなのに、本は縦置き・・・。読み難いですなぁ。あっ、短いタイトルのは、本を縦に置いた状態でも読める向きに書いてありますな。洋書と同じだ。
『クロスト短編集』か。手に取ってみる。
喋れてるからイケると思ってたけど、文字も読める。よかった。知らない文字なのに、頭の中で自然と訳されてるみたいな?
Blueと書かれていたら、ブルーと読んでから青色という意味だとわかるのではなく、△◯□と書かれていたら黄色と読める。そんな感じ。
なんか説明難しいな。まぁ文字に困らんからいいっしょ。書く方は・・・、うん、なんか自然と手が動く。チートかな?細かい事は気にしないでおこう。キリがねぇ。
クロスト短編集の表紙を開く。中は紙ですな。ちょっと分厚いけど、厚紙程じゃない。うーん。
零.三とか零.四ミリぐらいか?
結構サラサラしてる。製紙技術も悪くないな。
一話目を立ち読み。綺麗な貝殻を探す人達の話かー。トレーディングゲームの様相を呈してきたぞ?なんでだ。
紙に書かれている文字列は綺麗に整っている。
他の本もパラパラと捲ってみたけど、同じような文字の大きさだし、印刷技術か複製魔法みたいなのもあると見てよさそうだな。
ついついその場で立ったまま短編集の続きを読んでしまう。すると、急に本に影が射した。
あー、グウェイルさんや、壁ドンは女の子にしてあげてくだされ。上から覗くとか、高身長な奴だけに許されし嫌がらせ方法だよな。ケッ。
「こっちにおいで。座ってゆっくり読むといい」
腰に手を添えて、ソファまでエスコートしてくれます。すんませんなぁ。
「何か飲み物が欲しいのですが、食堂まで頼みに行けばいいのでしょうか?」
「お茶ならこの部屋でも入れられるよ。少し待っていてくれ」
そう言って、寝室とは反対側の扉を開けて入っていった。
カチャカチャと音がする。ティーカップとかある部屋だったんだな。覗きに行きたい。
と思ったら、すぐに出てきた。
木製のトレイに、白くて丸っこいティーポット、ティーカップとソーサーにティースプーンが二組、小さいポットはお砂糖かね?四角い箱は缶かな?
ローテーブルの上に置いてくれた。
蓋を開ける音は金属音だから、缶だな。
中に入っていた平べったい匙で、茶葉を2杯掬ってティーポットの中へ。するとすぐに湯気が上がった!!
「いい香りですね。お湯は自動的にポットに溜まるのですか?」
「これは私が魔法で出した熱湯だよ。必要な量や熱さを思い浮かべて、出したい場所に出すんだ」
「おぉー」
思わず声が出た。魔法は便利じゃのぉ。
ティーポットの後ろに隠れていた砂時計をひっくり返した。砂時計もあるんだなぁ。
お茶も葉っぱから出来てるし、朝食の時も思ったけど、この世界では飲食に困らなさそうだ。
元の世界と大差なさそうで。
黄色い砂が落ちるまで、約二分三十秒。数えておりました。
「砂時計って、だいたいこのぐらいの時間なのですか?」
「お茶を入れる時に使うのはそうだな。買いに行ったことがないから判らないが、他の時間のものもあるらしい」
砂時計を手に取り、底面をこちらに見せてくれる。あっ、二.五分って焼き印が押してある。
「二.五分。つまり二分三十秒計れるということだな」
「もし買うことがあれば、この焼き印の数字を確認してからの方がよさそうですね。
時間の読み方や、流れる速度は元の世界と同じ様です。さっき仕立て屋での待ち時間について聞いた時に、三十分から一時間と言ってましたよね?
あれ、私の感覚で二時間とか三時間とかだったらどうしようかと、実はドキドキしてました」
ちょっと苦笑いしてしまう。
途端にグウェイルさんが辛そうな顔をする。なにゆえぇ?
「すまない・・・」
ソファから立ち上がり、俺の前で跪く。
「魔法や食事だけでなく、時間や文化等、あらゆるものが目新しく不安に思うのだろうな
」
「いや、謝らないでくださいよ! ほら、立ってください。ね? こっちに」
グウェイルさんの腕を引っ張って、俺の隣に座らせる。
「グウェイルさんは何も悪くないのですから、謝らないでください。それに、不安に思うって程でもないのですよ。
その、見たことの無いものもあれば、似てるものもあったり、元の世界との共通点探しというか、最初の川辺と宿の中だけでも結構楽しんでます。あんまり顔には出てないかもですが。
それに、グウェイルさんがずっと傍に居てくれるので、気になったらすぐに聞けるという気安さもあって、勝手にいろんな事想像していたり。
だから、大丈夫ですよ。
裸足だったから先に靴を用意してくれて、服は俺が自分で選べる様に仕立て屋に準備してもらっているのでしょう?食事の時もそうです。
毛布を魔法で綺麗にするだけでなく、わざわざ天日干ししてくれたのも、とても嬉しかったです。
充分に気遣ってもらえて、感謝しています。
本当にありがとうございます」
ふー、長く喋るとボロが出るぜ。俺って言っちゃった。でも今は、ちゃんと言葉にして伝えておかないといけない気がする。ほっとくと、繊細でナイーブでデリケートななんかアレな奴と思われそうでな。
「カナト、こちらこそありがとう。
気になる事はなんでも聞いてくれ。もし私にも分からない事であれば、きちんと調べてから答えるよ。欲しい物があれば、それも」
やっと笑ってくれましたな。なんでお礼言われたのかはわからんが。
「質問や要望だけじゃない。愚痴でもなんでも、どんな些細な事でも、カナトの話が聞きたいんだ」
んん?真面目というか、真剣というか、よーわからんなぁ。
まぁ、空気変えましょ。
やっと冷めてきたお茶を飲む。ちゃんと砂時計の砂が落ちてから、ティーカップに注いでいてくれたんすよ。
うん、紅茶ですな。渋くなくて美味しい。香りも良き。牛乳も欲しいな。ミルクと言ったら、生クリームより牛乳派です。あっさりとして、少しの甘味を感じる程度のがいい。具体的に言うと、乳脂肪分三.七パーセント以上とか書かれてるやつな。北海道牛乳好き。
後で聞いてみようかな。
テーブルの反対側のティーカップも、ソーサーごと引き寄せる。グウェイルさんが動く気配ないからな。じっと見られててつらたん。
さぁさ、お茶を飲みなされ。
おっ、飲んだ。
んじゃ俺本読みたいし、グウェイルさんにも何か勧めようかな?
「グウェイルさんも本読みますか? 何か取ってきましょうか?」
きょとんとしている。えっ?なんで?
「この本を一緒に読もう。わからない言葉があれば教えよう」
そう言って、何故か俺を膝の間に座らせる。
腕力だけで凄いっすね。
もう、なんか・・・、疲れました。
さっきいっぱい喋って励まそうとしたのに。
俺は本を持つ係です。置物です。そっとしておいてください・・・・・・。
二倍三点リーダーより、・・・の方がなんか好きです。