初異世界人と初村!
昨日の続きをあと少し。
ジェントルなナイトに混乱しながらも、お馬さんに揺られている俺。ジュビーッ
鼻水啜ってると、マントをかけなおしてくれる。すまねぇな。
「改めて自己紹介を。私はブルーメア国王国騎士団、グウェイル・セル・ディネート。
王城まで護衛する。宜しく頼む」
「ありがとうございます。ぐえいるさん。
俺はかにゃとです。この世界って、ティッシュ有りますか?」ズビーッ
「ふふっ。カニャトというのか。
ティッシュというものは聞いたことはあるよ。なんでも鼻をかむ為だけに作られる紙だとか。残念ながら、この世界では上手く作れなかった様で、普及していないのだ」
そんな・・・。ティッシュ無いとかorz。ジュビッ
ハンカチで鼻水かむの嫌いなんだけどなぁ。
ってかカニャトってなんだよ。ちょっと鼻声になっただけなのに、ぶりッ子したみてぇじゃん。勘弁してくれ。グウェイルって名前もちゃんと発音できてないのはすまん。でも笑うなよ。
「ぐえいるさん、俺はか・な・と・です。
ハンカチ二枚持ってませんか?」
「カナト?
ハンカチは何枚も持っているから貸せるが、それよりももっといい方法がある。
いち、にの、さんっ」
!?!?!?
掛け声と共に鼻をツンツンされたら、急に鼻がスッキリした。奥の方までだ。
なんだコレ怖っ!
目を見開いて驚く俺に、さらに驚くことを教えてくれるグウェイルさん。
「これはクリーンの魔法だ。風邪をひいたのでなければ、暫くは保つだろう」
ま・ほ・う!キタコレ魔法!
なんとなくあるんじゃないかと思っていたが、やはりな。興奮するぜ!
鼻奥までスッキリしたのはまだ怖いけど、便利だなぁ魔法。
「俺も魔法使えますか?やりたいです!」
興奮したまま尋ねると、
「おそらく使えるだろう。カナトからは強い魔力を感じている。クリーンの魔法ぐらいならば私が教えられるが、さらに学びたいのであれば、いずれ教師を用意しよう」
だってさ!やっほう!YEAH!
強い魔力を感じる?いいねいいね。魔法無双しちゃう?へっへっへっ。
いやまぁそんな調子にノるつもりはないが、興奮が止まらないぜ!
あれ?なんか・・・目が、
まわ・・・る・・・・・・・・・・・・
「・・・あれ?知らない天井だ・・・」
はいお約束。とりあえず目が覚めたら言っとかないとと思いまして。
まぁたぶん宿屋?だろうな。
ベッドに寝かせてもらったみたいだ。
夜の始まりなのか夜明けなのかは判らないが、窓の外に見えている空は薄青から群青にグラデーションになっていて、とても綺麗だ。
なんか頭がぼーっとするなぁ。これは熱があるな。
気付かない内に上がっていた熱と、魔法が使えるかもっていう興奮のせいで気絶したとか?うわなんか恥ずかしー。
とりあえず起きるか。喉渇いた。
川で水飲まなかったからなぁ。澄んでて綺麗だったけど、やっぱなんか不安じゃん?
ベッドサイドのローテーブルに水差しとグラスが置いてある。もしかしてグウェイルさんが用意してくれたのかね?
うん。変な匂いもしないし、指を浸けてみても、舌を少し浸けてみてもピリピリしたりしない。
ゆっくりと飲んでみる。
普通だ。よかった。ちゃんと飲み水みたいだ。
と、そこで部屋の扉が開いた。
グウェイルさんだ。
「おはよう。目が覚めたのか。気分はどうだ?」
そう言いながら、出逢った時よりもラフな格好で近付いてくる。
徐に、ベッドの縁に右膝を乗せ、俺の右肩に左手をかけて身体を引き寄せてくる。おっぱい!雄っぱいが!
って、うひーっ!?
なんか右手の指の背で首筋撫でられたあげく、顎クイッされてるんだが!?
待って!まって!
俺、おっぱいもちっぱいも大好きですが、雄っぱいはちょっと・・・。っていうか、ソッチの趣味は無いんですーっ!
童貞じゃないけど、お尻の処女は一生守りたい所存!おーたーすーけー!
「おい、大丈夫か?気分が悪いのか?」
固まった俺に、心配そうな顔で声をかけてくるグウェイルさん。
おや?もしかしてこれは、ウホッな展開ではなく、単に心配してくれているだけか?
「あ、あの、大丈夫です。
ちょっとびっくりしただけで・・・」
「そうか。よかった。まだ熱が下がっていない様だ。
まだ暫くは横になっているといい。
もしくは、腹が減っているなら何か持ってこよう」
右肩をぽんっと叩きながら離れていく身体。
グウェイルさんの右手には、濡れたタオルが。
もしかして、おでこに乗せてくれていたのか?
んで、起きた時にベッドに落ちたそれを拾ってくれたということか。
ふいーっ。ビビらせんなよ!ってか、そんな風にしなくても、言ってくれたら自分で拾うのに。
いや、それにしてもスキンシップ激しくねぇか?
疚しい感じはないから、天然か?
グウェイルさん怖ーっ。
「あー、その、ありがとうございます。
ちょっと腹が減ってるので、何か食べたいです」
「わかった。昨日から用意してもらっている野菜を煮込んだミルクスープと、パンや焼いた肉等の朝食セット、どちらがいい?」
「ミルクスープが食べたいです」
「少し待っていてくれ」
そうして、グウェイルさんは濡れたタオルを持ったまま部屋の外へ出ていった。
わざわざ取りに行ってもらうの悪かったなぁ。多少は動けそうな気がするのに。
そういやおはようとか朝食セットって言ってたし、今は明け方か。
昨日川の畔に居たのは昼前後として、半日以上寝てたわけだ。あーもったいねぇ。初異世界の村だぜ!入り口通る所からしっかり楽しみたかった!
まだ熱あるし、もしかしなくても、もう一泊ぐらいしてくれるのかもなぁ。
なんて考えていたら、グウェイルさんが戻ってきたみたいだ。今度は扉をノックして、返事を聞いてから扉を開けて入ってくる。
「お待たせ。ベッドで食べるか?」
そう言いながら、両手にそれぞれ持ったトレイを軽く上げて聞いてくる。
「いえ、テーブルで食べたいです。いい香りですね」
頷いたグウェイルさんは開いたままの扉から隣の部屋へと移るので、ベッドから降りて追いかける。ちょっとふらつくけど、大丈夫そうだ。
隣はリビングルームだった。
大きなソファや揃いのローテーブル、窓際には別の小さめの丸テーブルとソファ、壁には本棚や絵が飾ってある。
派手すぎないけど洒落ていて、村にあるにしてはやっぱ豪華なんじゃね?村の定義が違うのか?
大きなローテーブルにトレイを置いていたグウェイルさんが、扉から一歩入った所で固まっている俺の傍へ来た。手を引いて、ソファに腰かけるよう促してくれたので素直に座る。
「すみません。ベッドルームの雰囲気からして良さそうな部屋だなぁと思っていたのですが、想像以上に豪華で驚いてしまいました。
村の宿屋ではなく、ここは貴族のお屋敷なのでしょうか?」
「ああ、いや、ここは宿屋で合っている。
だが、その・・・」
気まずそうな顔をするグウェイルさん。どした?
「すまない。昨日カナトが気を失ってから、それ以外の異常も見られなかったので、村を通り過ぎて街まで来たのだ。
馬に乗り慣れていないのならすぐに疲れるだろうし、近くの村で泊まるつもりだったが、まだ目を覚まさなかったのでな。そのまま次の街に入っておいた方がいいかと思ったのだ。
だが、夕方に此処に着いた時にはもう熱が出始めていて・・・。
すまないカナト。私のせいで体調を悪化させてしまった」
頭を下げるグウェイルさん。
そうか、村じゃなくて街ね。お高いホテルなのかな?まぁベッド気持ち良かったし、村でも街でも、俺の事を気遣ってくれての行動なんだから責める気はない。そもそもさぁ、
「頭を上げて下さい。グウェイルさんのせいではありませんよ。
あんな寒い所でパン一毛布でジッとしていた俺が悪いのですから。
それに、村だとこんないい部屋のある宿屋も無かったのでは?俺、寝床には拘る方なんで、寧ろ助かりました。ありがとうございます」
笑ってお礼を言う俺に、まだすまなそうな顔をしている。なんかほんといい人だな。
まぁここはフォローするより、流した方がいいかもなぁ。腹も減ってるし。
「さぁ朝食にしましょう。せっかくグウェイルさんが持って来てくれたのに、食べないのは勿体ないです」
タイミング良くグ~っと俺のお腹が鳴った。
やっと笑ってくれたな。よかったよかった。
「いただきます」
俺の目の前にはミルクスープが有り、一緒にトレイに置かれていたスプーンで掬う。
じゃがいもや人参、玉ねぎの様な野菜が一センチ角に切られていて食べやすい。シチューではなく、名前通りミルクスープって感じだ。サラサラしているスープで、少し塩味がして美味しい。
細かく刻んで、スープの上に散らされていた緑色の葉っぱの香りもいい感じ。
大き目のスープボウルだったが、昨日丸一日何も食べていなかったから、ペロッと食べきった。
俺と同じタイミングで食べ終わったグウェイルさんは、多分朝食セットとやらを食べていたんだろう。
焼き立てっぽい柔らかそうなパン二つと、ミルクスープ、温野菜のサラダみたいなのと、がっつりステーキを食べていた。
朝からよく食うなぁ。
やっぱ騎士って身体が資本だろうしな。食べなきゃ保たないか。
なんてことをボーッと考えていたら、急に眠くなってきた。
「ごちそうさまでした。
眠気が出てきたので、すみませんがもう暫く寝ていてもいいですか?」
言ったとたんに、大きな欠伸がー。涙まで出てきた。
目を擦っていたら、急に浮遊感が!
またグウェイルさんにお姫様抱っこされている!いつの間に!
「うわぁっ!
あのっ、俺一人で動けますから!」
「眠たいのだろう?無理せずゆっくり休んでくれ」
そう言って、そのまま器用に扉を開けてベッドまで運ばれてしまった。
何処かから取り出した乾いたタオルを魔法で濡らし!、おでこの上に乗せてくれる。
肩までしっかり布団をかけてくれ、さっき空を眺めていた窓のカーテンも閉めてくれる。
「おやすみ」
そう一言残して、グウェイルさんは隣の部屋へと戻っていった。
流れる様にスムーズな行動だった・・・。
呆気に取られて、無言で見送ってしまったぜ。
まぁいいか。うん。寝よう。
こうして俺の異世界二日目は幕を閉じた。