初異世界人!
十二月二日、雨天なり。
まずは昨日の続きでも書くかな。
朝目が覚めたら異世界の川の畔に居たんだぜ!
パン一毛布でな!すっげ寒かった。あと幻想的みたいなー?
んで、近くの林の傍に行って、日向ぼっこしながらまぁいろいろ考えたわけよ。
食べ物のこと、服のこと、異世界人に遭遇したらとかetc・・・。
一人でこの先ずっとここに居るなんて嫌だし、サバイバル能力も無い。
食べられるものかどうかの調べ方もわからんし。
動物が食べてたら大丈夫かも?とか、潰して腕とかに塗ってみてかぶれたらダメとか?
いややっぱわかんねぇわ。無理。
そんなこんなで頭パンクしそうになって、もう知らん!成るように成れ!ってうとうとし始めた時じゃった・・・
何処からか馬の足音が!
急いで木に隠れつつ、音の出所を探ってみたら、斜め前、八メートル先ぐらいに馬一頭と人が一人。馬に川の水を飲ませ始めた。
初異世界人は、俺よりガタイの良い感じの男だった。なんかちょっと豪華というか、お伽噺に出てくる騎士っぽい服装で、左腰には長剣と短剣を着けていた。
もうそれ見たらふつービビるよな。だから丸まってひたすら息を堪えてた。
もう心臓破裂すんじゃねぇかと思ったその時、
「おい、いつまで隠れているんだ?
怪しい動きをしなければ、いきなり切りつけたりはしない。ゆっくり出てきなさい」
って話しかけられた。
すっげービビった。チビるかと思った。パンツすら失うのか・・・なんてことも思った。
「もしかして怪我でもしているのか?
声が出せるなら、何か返事をしてくれ」
また声をかけられた。騎士っぽい人の落ち着いた話し方に、俺は冷静さを取り戻せた気がする。
彼方から来られるのはやっぱ怖いし、木の後ろから出てみることにしたんだ。もちろんパンツと毛布装備で。
「こんな姿ですが怪しい者ではありません。怪我もしていません。どうかそのまま動かないで下さい」
できるだけ声が震えないように、しっかり聞こえる様に大きな声で言いながら、ゆっくりと近付いて、三メートル手前ぐらいで立ち止まった。
「俺は迷子です。貴方は騎士ですか?」
言ってから思った。いやもうちょいなんか他に言うことあるだろ俺!?って。
これを聞いた騎士っぽい人は、苦笑いしながらもきちんと答えてくれた。
「そうだ。私はブルーメア国王国騎士団、グウェイル・セル・ディネート。
貴殿は此処とは異なる世界から来られた方とお見受けするが、違いないようだな」
おいおいいきなりぶっ混んできたぞと思ったら、動揺したことにすぐに気付かれて、話してる途中で断定してきたぞこの騎士さんよぉ。
バレバレだけど、誤魔化すべきか、いっそ記憶喪失のフリでもするか・・・。
「警戒されるのも仕方ないことだとは思うが、この世界には百年に一度ぐらいの周期で、異世界から訪れる者がいる。我が国にも過去何十人と居た。
これから言う世界の名前に聞き覚えがあれば、どうか私を信用して着いてきてはもらえないか?
アルド、グラーン、テヴェルア、シュムト、アルス、チキュー、プレストア、マローグ、テブィッ「待ってくれっ!」」
「すみません。大声を出してしまって。
たぶん、俺の居た所がありました。発音が少し違いますが、おそらくEarthと地球ですよね?」
「ああ、そうだ。すまない。発音は練習したのだが・・・」
そんな申し訳なさそうな顔しなくてもいいんだぜ騎士さんよぉ。
これは信用してもいいのかなぁ?
てきとーにそれっぽい名前並べてみても、アルスとチキューなんてそっくりな言葉出てこないだろ。
最初はちょっと怖そうな顔してると思ったけど、気さくな感じだし、剣持ってるとこも怖いけど、逃げたところでどーしようもないし、ここはいっちょ信用して着いていってみるか。
でもそのま・え・にっ!
「あの、おそらく俺は異世界人です。もし貴方に着いていったらどうなるのですか?何処に行くのですか?どうやって行くのですか?」
やべっ。ちょっと焦った。冷静になれ冷静に。びーくーる。
「落ち着いてくれ。すまない。先に説明しておけば、そう不安にさせることもなかっただろうに。
あぁ、そう泣きそうな顔をしないでくれないか」
あー、ダメだ。そんなん言われたらマジで泣きそう。おっさんだって泣くことあるんだぜ。俺、だいぶ参ってるんだな。
成るように成る。よしっ。信用するって決めたんだ。落ち着け俺。
「大丈夫です。すみません。これからのこと、教えて下さい」
「ああ。ではまず何処に行くかだが、ここブルーメア国の王都まで一緒に来てもらいたい。
異世界人を発見したら、王城にて保護することが決まっているからだ。これは何処の国でもだな。
身体を休めてもらいつつ、この世界、この国のことを知ってもらう。それと同時に、過去に貴殿と同じ世界や同じ国から来た者がいないか調べて、もし居た場合は、その者が残した書物等を貴殿に見てもらいたい。きっと役に立つだろう。
次に、王都までどう行くかだが、この馬に一緒に乗って行こう。貴殿は靴を履いていないし、王都まで馬で3日程かかるのだ。
道中、いくつかの村や街があるから、着るものを整えたり、宿に泊まる。もちろん費用は私が、というより国が持つ。対価に何かを要求したりはしないから安心してほしい」
おおー。至れり尽くせりじゃね?馬に乗せてくれるとか、服買ってくれるとか、すげー助かる。
でもさぁ、王城に保護ってどうよ?あれか?異世界の知識を寄越せ~!我が国の為に働くのじゃ~みたいな?
保護という名の監禁!?
「あー、その、保護というのは、具体的にどのように?住む処がないので助かりますけど、ずっとって訳にはいかないでしょう?」
「具体的にか。そうだな。王城で住める期間は約一年。これは延長可能だ。望まれるなら一生でも。
初めの三ヶ月程は、この世界や国を知ってもらったり、過去に訪れた異世界の者たちがどのように生活していたか等を知ってもらう期間になるだろう。
その後、何か学びたいことがあるのなら、教育及び学校等への入学から卒業までの手助けをさせてもらう。学費等も心配ない。
仕事をしたいのであれば、適正を調べつつ、希望に沿った職業の紹介や安定するまでの手助けをさせてもらう。
どちらも王城に住んだまま通ってもらって構わないし、もし街に家が欲しいのであれば、用意しよう」
「手助けの範囲が広すぎる・・・。
何故そこまで無償でしてくれるのですか?
それにもし俺が勉強したくない、働きたくないって言ったらどうするのです?
望めば一生王城に住めるって、そりゃあ王様が住んでる場所から離れた処にはなるのでしょうけど、もし何かあったらどうするのですか!?」
なんか条件良すぎて、信じるっ!とか言ってた気持ちがグラついてきたぞ。やっぱ裏があるんじゃねぇのか?
「そうか。貴殿は慎重なのだな。
だが本当に安心してほしい。生活費や学費等は国が無償で用意する。
もし一生働かずにいたいのであれば、それでも構わない。国の法は守ってもらうが、それ以外は王と同じぐらいにとはいかないが、それなりに贅沢に過ごしてもらえるだろう。
それにだ。貴殿は何かやらかすつもりなのか?まぁ王や貴族の傍には常に騎士が居る。必ず未然に防いでみせるさ」
最後にはニヒルに笑ってみせてくれた頼もしい騎士さん。かっけぇ。あっやべ、名前忘れた。
あー、まぁ、こんだけ言ってくれるってことは、本当に甘えていいのかなぁ。
いや、ちゃんと働くつもりだぜ?でもさぁ、何でか言葉は通じてるけど、読み書き計算とか同じとは限らねぇし、保険はかけておきたいじゃん?
「どうしてそこまでして下さるのかわかりません。
俺は、元の世界では働いていましたけど、その技術がここで通じるかもわかりません。
何が出来るかもわからないのに何故・・・」
「何故無償で手助けするのか?か。
先程答えるのを忘れていたな。
簡単に言うと恩返しだ」
「恩返し?」
「そうだ。過去に訪れた異世界の人々は、大なり小なり様々な恩恵をこの世界に与えて下さった。
ある者は争いを収め、国を興した。
ある者は天候を操り、飢餓を防いだ。
ある者は発明をし、文明を進めた。
今のは大きな変化だが、小さなものだと例えば、ある植物が食用に向いていると発見し、とある村の名物料理になったりもした。
そうしていつしかこの世界は平和になり、人々は安定した生活が送れるようになったのだ。
恵みを富を平和をもたらしてくれた者たちはもうこの世に居ない。返せなかった恩を次の者へ返してゆこうと、この世界の者たちは決めたのだ。
貴殿は、この世界の為に何かを成さなくてはならない、とは考えなくても良いのだ。
我々が勝手にしようとしていることなのだから」
過去にこの世界に来た人たちすげーな!
なんだよ!俺ツエーとか内政チートとかなんかそんな感じか!?わからん!
神様にも逢ってねーし、チート貰った気もしねーんだけど!?
はぁ。もうなんかスケールでかすぎる話聞いたせいで、疲れた。もう何も考えたくない。ズビッ。
あー鼻水垂れてきた。
パン一毛布で長々と話込んじゃったもんなぁ。
いや、騎士さんはビシッと服着てっけど。
もう甘えよう。とことん。なんか勝手にやるみたいだし。うん。
「すみません。本当に俺は何も出来ないかもしれませんが、自立出来る様になるまで甘えさせてください。
宜しくお願いいたします!」ズビジュビッ
礼儀は大事!敬語とかあんま使えねーけど、鼻水垂れてっけど、ちゃんとお願いしますとか、ありがとうございますとか言えていればなんとか気持ちは通じるはず。
「ああ。こちらこそ宜しく頼む。
さぁ此方へ。その様な格好では風邪をひいてしまうな」
そう言って、騎士さんは自分が羽織っていたマントを俺に被せてくれた。
このマント、矢鱈重たいけど暖かい。騎士さんは紳士じゃのぉ。ありがたやありがたや。
しかも俺の左手を取ったと思ったら、馬の傍までエスコートしてくれたあげく、お姫様抱っこで馬に乗せてくれたんだがっ!惚れてまうやろっ!
っていやいやいや、俺より頭一個半はデカくて、ガチムチマッチョとはいえ、おっさん一人抱えて馬に華麗に飛び乗るとか怖っ!異世界人は見た目以上に筋力あったりするのか?ゴリラ?ゴリラなの?ジュビッ
あー頭混乱してて鼻血垂れそう。
「今日は近くの村で早めに宿を取ろう。
しっかり私に捕まっていてくれよ」
ポンポンと俺の頭を撫でてから、馬を走り出させる騎士さん。
怖っ!騎士こわっ。異世界人こわっ。
紳士の嗜みなのか、騎士さんがアレなのかと混乱したまま、俺は馬に横座りで揺られてゆくのだった。
完。
いや終わらねえけど。
なんか長くなっちまった。
今日のこと何にも書けていないが、ここで一旦切ろうと思う。
ちょっと休憩したら、初日のことをあと少しと、ちゃんと今日のことを書くぜ。