27 みんなでキャンプ1
5月。
あの日、仁は敗北したのだ。
それは誰にも知られることのない戦い。だが確かにあの日、仁は己の無力を知った。
だから二度目はない。
今度こそは完璧に勝ってみせると……!
「キャンプだー!」
澪の歓声が響いた。
ここはシップ9。仁と澪が5月に登山をした後に来たキャンプ場だ。
いつかは澪一人だったキャンプ。だが今回は一味違う。
「へえ。悪くないわね」
「エミッサちゃん、連れてきてもらったのにそれは……」
澪の友達のエミッサ、雅。
「うお。すげえ川あんじゃん川」
子分代表、守。
「ほう、この大自然。まさに私に相応しい舞台」
「あんた年下も居るんだから大人しくしてなさいよ?」
「……何で守が居んだ?」
問題児トリオ。
「おい、お前ら川に行くなら水着に着替えてからにしろよ?」
「川遊びは……私が付いていくしか無いですね。二人に任せたら手足が錆びそうですし」
「はっはは。私のサイボーグボディは有機物製だ。錆びたりはしないさ」
ジェイク、シャーリー、そして何故か智。
「大所帯になったなあ」
指折り数えていく。澪の友達三名。教え子三名。保護者枠二名。不明一名。そこに澪と仁を加えれば計11名だ。
ある程度分別の有る訓練生組と、大人組は置いておいて。
年少組四名からは目を離さないようにしたい。
いつかの二人だけの寂しいキャンプから三ヶ月。今度こそはという仁の個人的リベンジだ。
他にも数人、澪の友達を誘っていたのだが都合が合わなかったらしい。夏休みなので各家庭の計画も有るだろうから仕方ない。
「ほう。第三船団にも美味そうなビールが有るじゃないか」
「飛び入り参加の癖に一番態度がでかいなお前」
早速缶ビールを開けて傾けようとする智から缶をひったくる。
「おい、何をする」
「こっちのセリフだ。何をする気だ未成年」
「第二船団では飲酒も問題ない!」
「嘘を吐くな。そっちも飲酒は十八歳からだろ。お前はこっちだ」
そう言ってお茶を渡す。封を切られたビールはもったいないので仁が飲んだ。
「来て早々飲んでないで、バーベキューの準備手伝ってくださいよ中尉」
「すまんすまん。ジェイク。手伝うぞ」
「んじゃ炭頼む。俺は下ごしらえしてるからよ」
「なら私もそっちを手伝おう」
「それじゃあ私は子どもたち見てますね」
流れるような役割分担で大人組は散る。
ジェイクと仁はビールの缶を傍らである。
「お前が昼間から飲むなんて珍しいな」
「偶にはな。まあ訓練生組が子供の面倒を見てくれそうだしな」
「な、なあ。一口だけでもダメか? アルコール分解機能も強化されているから残らないはずなんだ」
「俺としてはその一人がこの姉ちゃんだっていうのがびっくりだけどな……」
ジェイクとしては最後に智を見たのは仁の頬を張っている場面だ。憎悪に満ちた瞳で。
それが今、ビールをねだっているのだから困惑するのも無理はない。
「この前和解した」
「よく和解できたな……」
「まあそのあと別件でまた対立したが」
「良く今日呼んだな……」
スピード解決からのスピード再対立。澪同様ジェイクも呆れていた。
「んであっちはひよっこ共に嬢ちゃんの同級生か。どういう人選なんだ?」
「全員澪の友達」
「納得だ」
つまりこれは澪のためのバーベキュー。
今度こそ寂しいなどとは言わせないという仁の意地だった。
「ふむしかし。あの訓練生達強いな」
「そうなのか?」
並んでバーベキューの串打ちをしている二人がそんな会話を始める。
「おっと挨拶が遅れた。楠木智だ」
「ジェイク・ハドソンだ」
「おお。澪ちゃんの言っていたじぇいくとはあなたか。料理が美味いと聞いていたが、この手際なら納得だな!」
「お、そうか。照れるな」
「はっははは。その後私のハンバーグに心奪わていたがな」
料理を嗜むもの同士。心温まる……冷える会話。
「ハンバーグは今度作るか……で、訓練生が強いって見ただけで分かるものなのか?」
「ああ。操縦士ならきっと誰でもな」
元操縦士であるという経歴を知らない智は天然でジェイクの心を抉る。
ちなみにジェイクは見ても全然わからない。
見れば訓練生組も幼少組も水着に着替えて川遊びを始めようとしていた。
水着になったことで、三人の身体が露わになる。
「見ろ、あの男の身体を。非常にわかりやすい」
「うお、すげえなあの筋肉」
「操縦士に必要な筋肉を過不足なく身につけている。あそこまで絞り込むのは容易ではないな」
堂々たるブーメランパンツ。
コウの身体は当人が鍛えるのが好きなのも合って一番引き締められている。ボディービルの大会に出てもそこそこ良い線行きそうだった。
「あの三つ編みの子は……自分をセーブしているな。本当ならもう少し鍛えられるが敢えてあの程度に抑えていると見た」
セパレートタイプの水着に、パレオを合わせたユーリアのスタイルは有る意味でこの場では浮いていた。リゾート地ならば似合っただろうが、ここは川辺で遊ぶスタイルの場所だ。
「全然わかんねえ」
「余り筋肉質になるのが嫌なのだろう。私も気持ちは分かる。女らしさは捨てたくないものだ」
「すげえ。説得力がねえ」
真っ先に缶ビールに飛びつく姿が女らしいとは全く思えなかった。
「あの赤いお下げは……布越しだがインナーマッスルがよく見ると凄いな。高Gに慣らされた身体だ」
何時のものか。学校指定の水着を来たメイ。何時から身体が成長していないのか。考えると涙が出てくる。
「よく分かるなあんた」
「あのへんは私も自信が有るからな」
三人の筋肉を鑑賞して、智は炭に苦戦している仁へと尋ねた。
「随分と鍛えているようだな。教官殿? それともあれが第三船団の平均なのか?」
「まさか。アイツらは特別だ。何しろ、そのうち俺の記録を塗り替えてもらう予定だからな」
その言葉に智は目を丸くし、大笑いした。
「あの馬鹿げた記録をか! はははは! それは楽しみだ!」
酔った仁の冗談だと思ったようだが、あいにくと仁は本気も本気だ。
このまま行けば彼らは間違いなく優秀な操縦士になる。
数年後になれば、今居るエースにも並べるだろう。
「よし、火付いた」
「お、ありがとよ。こっちはもう良いから嬢ちゃんの方見てこいよ」
「良いのか?」
「いても役に立たねえだろお前」
まあ確かに。バーベキューの下ごしらえでは戦力外だ。むしろ邪魔になる。
それならまだシャーリーの手伝いをしていたほうが有意義だ。
そう思って行ってみると……何か男二人がハーレムを作っていた。
「ほうほう、コウの弟ですか。はじめまして。君のお兄さんとただならぬ関係の物です」
「メイ。その話あとで詳しく。にしても驚いたわね。笹森より大分可愛い顔してる」
「えっと、あのその」
顔を真っ赤にして年上のオネーサンに遊ばれている守と。
「東谷くんのお兄さんですか? あの、触ってもいいですか?」
「凄い筋肉ね! お兄さん彼女とか居るの?」
「まあ鍛えてるからな。彼女は……いない」
年下の娘たちにじゃれつかれているコウ。
どっちにいけば良いのか分からず、オロオロする澪。守が助けを求める視線を出しているが、それに気付かず澪はエミッサたちに続いてコウの筋肉を触りに行った。
「どういう状況だこれ?」
「あれ。中尉知ってて招待したんじゃないですか?」
何時かの風呂の時に来ていた水着の上にパーカーを羽織ったシャーリーに尋ねると返ってきたのはそんな答え。
「何をだ」
「あそこの笹森訓練生と」
両腕でエミッサと澪をぶら下げているコウを指し。
「あちらの東谷くんが兄弟だって」
水着のメイとユーリアに挟まれてもじもじしている守を指した。
兄弟。
そう言われて顔を見比べれば結構似ている。
「知らなかった……」
「では偶然でしたか。びっくりですね」
両親が別姓のため、兄弟で別々の姓を名乗っているらしい。
さてそろそろ東谷くんを助けてやろうと仁は歩み寄る。このままだとなにかする前に熱中症で倒れそうだ。
「二人共あんまり年下をからかうな? 東谷くんビーチボールに空気を入れるの手伝ってくれ」
「は、はい!」
その場から離れる口実を得て、守は露骨に安堵した表情を見せた。
「嫌ですね教官。からかうなんて……それはこれからでしたのに」
「少年に深刻なトラウマを植え付けようとするな」
「年下の少年と見た目ちょっと年上くらいのお姉さん……何か新しい需用が有る気がするわ」
「ナスティン訓練生はもう熱中症なのか?」
手遅れだったかと仁は持ってきたソフトドリンク類を川に入れて冷やし始める。
「お前ら。川に入る前はしっかりと準備運動しろよ? それから水分はマメに取ること! 気持ち悪くなったらすぐに言うんだぞ!」
仁の熱中症対策に、七人の子どもたちは口々にはーいと返事を返した。




