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24 二年前に聞きたかった事

 今しがた見た仁の表情を振り払うように、智は澪に話しかける。


「美味しかったか澪ちゃん?」

「美味しかった!」

「それは良かった」

「くっ……悔しいが料理の腕は認めざるを得ませんね」

「いや、シャロン殿には別に認めてもらわなくても良いんだが」


 仁は黙々と味わって食べる。

 悔しいが、大変に美味しかった。それを素直に認めるのもシャクで、口を閉ざすしかなかった。


「また食べたいか?」

「うん!」

「うう……私のホットケーキは嫌そうな顔してたのに……」


 なお、ホットケーキとシャーリーは言うが、澪に言わせればあれは炭である。

 むしろ澪に怒られても良い。


「澪ちゃんさえ良ければ毎日食べる方法があるぞ?」

「ほんと?」

「ああ。私の家に来れば毎日食べられる」


 その言葉に、仁もシャーリーも色めき立つ。

 何も考えずに、澪は行くと言い出しかねない。


「おい、智」

「っ! 楠木さん!」

「おとーさんも一緒?」


 それよりも先に澪が尋ねた。


「……いや。おとーさんは別だ」

「じゃあ良い」


 アッサリと澪はその誘いを断った。

 料理よりも仁の方が優先度が高い。

 それが明瞭になった一幕だった。


「智、ちょっと来い。澪を頼む」


 シャーリーに澪を任せて、仁は智を部屋の外へ連れ出す。


「どういうつもりだ」

「別にどうということはない。東郷仁。簡単な話だ。ただ食事に釣られてしまうような脆弱な関係なら、貴様の元で育てさせるのは不安だと思ったまでのこと」


 予想以上に、しっかりとした関係を築いているようだったがな。と肩を竦めてみせる。


「お前は、澪をどうするつもりだ」

「貴様がろくに育てられていないようなら。あの子は第二船団に連れていく。私が育てる」


 真っ向から仁の瞳を睨んで。智はふっと肩の力を抜いた。


「杞憂に終わったようだがな」

「あ?」

「正直、貴様が姉さんの身代わりとして育てているのではないかと危惧もしていた。だがあの子はなんと言うか……のびのび育っているな」


 この短時間でもそれがよくわかったと智は言う。

 もしや。と仁は思う。

 澪を案じて強引に泊まりに来たのだろうか。冷静に考えればIDを落としたというのも不自然だった。


「そうか、その為に一芝居打って……」

「ん? んん。芝居?」

「誤魔化さなくていい。IDを無くしたなんて言うのも嘘だったんだろ?」

「いや、それは本当だ……ちょうどいいと思ったのは事実だが」


 一瞬の感心を返して。


「私からも聞きたい」

「……聞こう」

「姉さんが死んだときのことだ」


 それは互いに取って傷を抉り合うような話題。語ることに少なからず苦痛の有る話題だ。


「私は貴様が姉さんを見捨てたのだと聞いた。事故現場から一人、逃げ出した。だから生き残ったのだと」

「馬鹿を言うな。というか、そもそもあれは事故じゃない……ASIDの襲撃だ」

「何?」

「ブラックボックスも破壊されたせいで証明できるものは何も無いけどな……手も足も出なかった」

「……何か手は無かったのか」


 あの超大型種を前に仁に出来ることがあったか。

 ……答えは否である。

 例え仁があの頃の十倍強かったとしても。

 結末に何ら違いはない。


 それだけの隔絶があった。


「いや……無かった」

「どうしてそれを二年前に言わなかった」

「言い訳だ。家族を失った相手に、そんな言い訳をして何に成る?」


 場合によっては神経を逆撫でするだけだろう。

 

 だが、智にとってはその言い訳が欲しかったのだ。

 憧れていた人からそう言って貰えていたら。

 きっとどうしようもなかったと諦められた。


「もう一つ聞かせろ。お前は姉さんを愛していたのか?」


 その問いに、仁は指輪を握りしめた。その時になって初めて智はその指輪に気が付いた。

 歪んだ、女物の指輪。

 あまりに身につけていることが自然で、仁の一部となっていたそれ。


「いいや」


 仁の口から否定が返る。

 智の表情が抜け落ちてーー。


「今も愛している」


 過去形なんかじゃないという言葉に。智は視線を伏せた。

 ようやく、智は仁を憎まなくていい理由を見つけられた。


「それを二年前に聞けていれば、いちいち貴様に突っかからずとも良かったのだがな」

「どうだろうな。聞いていてもつっかかりはしたと思うんだが……」


 朗らかに会話をしている姿は仁には想像できない。関係性が固まる前にこんな風に罵倒するような関係になってしまったからだろうか。

 少なくとも、令を殺したと罵倒することはなかっただろうなと、智は思う。


「過去を変えたいな……いや、無意味か」

「そうだな。過去は変えるのは無理だ」


 微妙に噛み合わない会話。

 一瞬迷うように智は口を開きかけ。

 次の瞬間には硬質な軍人としての輝きを取り戻していた。


「これは警告だ。第三船団の東郷仁」

「何?」

「我々の行動を嗅ぎ回るな。言ったとおり、我らは人類の為に行動している」

「分からないな。人類のためだというのなら何でそんなにコソコソ行動してるんだ」

「……それは、言えない。だが約束は出来る。これはお前にとっても良い話だ」

「あなたにオトクな話がありますよ、なんて言葉。詐欺の常套句過ぎてな……」


 止めたいというのならばその真意を明かせばいい。

 そうしないということは後ろ暗いことが有るからだと仁は思う。


「悪いが、その警告は聞けないな。第二船団の楠木智少尉。俺は第三船団とその住人を守る軍人だ。貴様らの行動が第三船団へ害をもたらす可能性が有る限り、それを看過できない」

「その第三船団上層部が、止めたとしてもか」

「例え、今は教官職だとしても。俺の使命は市民の守護だ。政治家の椅子を守ることじゃない」


 本当に、上層部が市民を犠牲にするような方法を取るのならば。

 その時は自分たちが止めなくてはいけない。


「そうか。和解への道は遠いな」

「そうでもない。お前たちが真意を話せばすぐにでも握手が出来るさ」


 だがそれが出来ない。


 令に関する事での対立は解消された。

 だが今、第三船団で暗躍していることについては今も残されている。


「智。義妹になるかもしれなかったよしみで言う。危険なことからは手を引け。詳細は分からないが、どう考えてもお前が関わっていることは後ろ暗い仕事だ。深入りしたらまともな生活もできなくなるぞ」


 今断片的に見えている情報。

 それだけでも十二分に怪しい。そこに関わって、幸福な結末が待っているとは思えない。


「構わない。もとより私は志願している。その程度は覚悟の上だ」

「……令が悲しむぞ」


 その宝刀とも言える言葉は真っ向から切り捨てられた。


「いいや、きっともう一度笑ってくれる」


 一度歩み寄って。そして決別は明確なものとなった。


「さて。そろそろ戻ろう……姉さんのこと。お前のせいだと言って悪かった」


 智の態度は軟化した。

 だが決して越えられない一線が明らかになってしまった。


 同時に智は仁へと多くの情報を与えてくれた。


(馬鹿だな)


 と仁は心の中で言う。


 本気で隠す気なら警告などするべきではなかった。

 まだ仁たちはそこに意図が有るかも定かではない手探り段階だったのだ。

 それを智はあると教えてしまった。


 それは智のうっかりかそれとも。

 何かが動いているというのは知られても問題ない情報か。

 まあ間違いなく後者だろうと仁は思う。


 全体像が掴まれない自信が有るのだろう。智のいる何かには。


「まあ、第三船団に被害が出なければ何の問題もないんだがな」


 動きが怪しすぎるだけで、今も被害らしい被害はない。いや、仁が激突したドローンは大変に危なかったが。

 ただあの速度にあの程度のドローンが追い付けるはずもないのであれは完全な事故だ。


 まあそのへん諸々含めてシャーリーと相談しようと仁は考えた。

 きっと、彼女の知恵も借りればもう少し分かることが有るはずだ。


 席に戻って、少し冷めたハンバーグを食べる。冷めても美味しかった。


「おとーさん、また喧嘩?」

「いや……」

「どちらかと言うと、今のは仲直りだね」

「おーやっぱりだっこは凄い」


 それは絶対に関係ないと思うが、誰も否定はしなかった。ハグは仲直り。澪がそういうのだからそうなのである。


「まあすぐに新しいことで喧嘩したけど」

「もーどうしてすぐに喧嘩するの!」


 せっかく仲直りしたのに、と澪はご立腹だった。宥めながらシャーリーがその理由を尋ねる。


「えっと、そもそも何で喧嘩してたんですか」

「……まあ非常に端的に言えば、二年前に私が抱いたとある誤解に基づく物だな。その誤解が今、改めて話を聞いて解けた」

「それで今回の喧嘩は?」

「ちょっと私が隠し事をしていてな」

「全部楠木さんのせいじゃないですか」


 諸悪の根源めとシャーリーは睨む。


「まあそれはそうとして。話は大きく変わるんだがな」

「マイペース……」


 さっきから智のペースに振り回されっぱなしのシャーリーは少し疲れた表情をしていた。


「東郷仁」

「なんだ。楠木智」


 フルネームで呼ばれたのでフルネームで返す。


「結婚しないか」


 本当に関係ない話だなと、仁の頭が一瞬理解を拒み。


「は?」



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― 新着の感想 ―
[一言] ばばば爆弾発言~!? 澪だけ普通の「?」マークで、仁とシャーリーは「!?」だな(^-^;)
[一言] 更新ありがとうございます。なかなかの急展開ですね。
[一言] は?
2019/12/23 22:03 退会済み
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