15 向かい合って頭突き
二話更新の一話目です。
シミュレーションプログラムが終了し、部隊デブリーフィング。
何時も通り、仁は訓練生達に今回の演習での反省点を告げて今後の訓練の指針を与えていく。
とは言え、今回に関していえば集団戦闘と言う点ではイレギュラーであるユニコーンの出現までは上手く回っていた。
その後の突撃についてもそう悪くはない。
後は単純に、隊列を組んだ状態での即応性の確保。
もっと言ってしまえば隊毎の連携の強化が必要だった。
連携の取れる距離を伸ばしながら、コンピューター任せの乱数回避に頼らない。
どちらも地道な努力が物を言う世界だ。
「トータルで見れば、今回の演習は良い物だった。来る遠征訓練の際も、今回の様な手際を期待する」
そう締めくくり、仁は用意して置いた車に飛び乗った。
次は演習全体のデブリーフィングだ。
第三船団防衛軍の本部の一室へと急ぎ向かう。
「よーう。エース」
「ああ。しばらくぶりです」
「この前は助かった。また会えて嬉しいぜ」
採掘任務を共にした護衛部隊の隊長が親し気に声をかけてくる。
タイミングが合わず見舞いに行けなくて悪かったという謝罪を聞きながら辺りを見渡した。
「第二船団の派遣部隊は……まだ来ていないみたいですね」
「ああ。あいつらのシミュレーター割り当てはシップ45だったからな。時間かかんだろ」
シップ1から遠い部類の基地へと割り当てられたのにそこはかとない悪意を感じるが、まあ急な話だったから仕方ない。
水面下で足を蹴りあうくらいは可愛い物だと仁は思う。
「そう言えば知ってるかエース。最近哨戒任務に出てる部隊で流れてる噂何だが」
「いえ、多分聞いていないですね。どんな噂です?」
「何でも、姿の見えない何かが周囲をちょろちょろしているらしい。どっかで聞いた様な話だな?」
「……ええ、本当に。聞いたことある様な話ですね」
詳しく聞けば、その何かを捉えられた隊は無いらしい。
それでも確かに何かが居た痕跡が僅かに残っていたらしい。
「偶然って線はねえだろうな。どう考えてもどこかこそこそ嗅ぎまわってやがる。それにあのドローンの継続距離はそれほど長くはねえ」
「ええ。オーバーライトで片道を送り込んだとしても、誤差大きいですからね」
人類の行うオーバーライトは数十キロ、数百キロは平気でずれる。
それでも何光年と言う距離をショートカットできるのだからその有用性は図り切れない。
人型ASIDの場合はその誤差が数メートル単位だと言われている。
一部の人間が人型ASIDの鹵獲に拘る理由も分からないでもないと仁は思う。
それはさておいて、ドローンを片道で突っ込ませても、数百キロは移動してから観測を始めるのだ。
そこに更に移動する燃料を積み込むのは厳しい。
「まさか、他の船団からオーバーライトさせるのは無駄が多すぎる。第三船団の中でそんな事をする理由はない。となると」
気に入らないとばかりに護衛部隊の隊長は鼻を鳴らした。
「第二船団の派遣部隊くらいだろうよ。することが出来るのは」
「まあ同感ですけどね……」
「ったく。こっちと戦争でもする気か?」
「まさか……そこまでは」
「この前の事忘れたのかよ。アイツ、お前の所ロックオンまでしたんだぞ?」
確かに、あの時のグリフォンの引き金はそのまま船団戦争の引き金でもあった。
かなり危なかったのだ。
「まあ……あれ。結局個人的な理由だったので」
「おいおい。エースの女性問題で戦争になったとか言ったら笑えねえぞ」
「あ~多分それは大丈夫かと」
「頼むぜホント……」
そう雑談していると、他の部隊も揃ったらしい。
見渡せばグレイスの姿もある。
もう一人、姿を探してしまったが見当たらない。
今何を言えば良いのか。
いや、今でなくとも会ったとして何を言えば良いのか。
彼女のいう事は全て正しいのだから。
仁は反論も出来ない。
何を言うにしても言い訳にしかならない。
「それではこれより合同演習のデブリーフィングを開始する」
進行には仁も良く知る少佐の姿があった。
少し、疲れた顔をしているなと仁は思う。無理も無い。今回の演習の準備で大わらわだっただろう。
「今回のシミュレーションプログラムは先日当船団を襲った人型ASIDの襲撃を元にしたものになる。それ故に、過去のシミュレーションプログラムとは評価方法に差がある事をご承知おき頂きたい」
淡々と少佐は本プログラムに参加した機体数、撃墜数、被撃墜数。そうした数字を述べていく。
回避率、命中率などこの短時間で良くまとめたなと唸らされる数字が並んだ後、各宙域各部隊毎の戦績へと移っていく。
「α宙域担当、第一戦隊選出部隊。参加機体数98。敵撃墜数79。被撃墜数32」
「ああ。くそ、やっぱ結構やられてんな」
隣で護衛部隊の隊長が舌打ちをした。どうやらここの宙域に参加していたらしい。
小声で仁は相手を宥める。
「実戦時はキルレシオは1:1でしたから。この数字は上出来だと思いますよ」
「まあなあ。つってもあいつらルーチンが普通のASIDだったからな。実戦の時の得体の知れなさがねえって言うか……」
やはり、それはあの日に戦った者が感じる所だろう。
採集されたデータが少ないのも原因だろうが、行動パターンが均一すぎる。
人型ASIDの怖い所は、人間同様に思考して行動してくるところにこそあったのだから。
ただ、それを再現しようとするとそれは即ち人間並みの判断能力を持った人工知能を作れという事であり……。
「無理だよな」
「無理でしょうねえ……」
そんな物が作れたらパイロットは要らない。
と言うよりもそこまでの人工知能を積んだアサルトフレームはASIDと何が違うのだろうという話になる。
「Δ宙域担当、訓練校部隊。参加機体数107。敵撃墜数58。被撃墜数61。また、Δ宙域には戦略目標ユニコーンが配置されていた」
「あのシップ1にカノンぶっ放した奴か。それ居なければもっといい数字だったんじゃねえか?」
「どうでしょうね……」
キルレシオはほぼ1:1。訓練生ならこんな物かと言う気もするし、もっと良い数字に出来た気もする。
まだ任官まで半年以上ある。
その半年でこの数字をより良い物にしなければ行けない。
演習で死ぬものはいない。
だが、実戦ではこの数字がそのまま死者の数になるのだ。
教え子をそこに列する事を傍観するわけには行かない。
「しかし今期の訓練生はレベルが高いな。ほれみろよε宙域なんて訓練生と数字大差ないぞ」
「本当ですね」
その理由を訓練生に問えば教官が変態だからですという答えが返ってくるのだろうが、生憎と仁はそう思っていなかった。
「皆努力してますから」
「ああ……正規兵になるとそこで手緩めるのいるからなあ……」
そして最後。
「Ω宙域担当、第二船団派遣部隊選抜。参加機体数103。敵撃墜数129。被撃墜数――」
そこで少佐は一瞬言葉を切った。
「被撃墜数5。またΩ宙域には戦略目標黒騎士が配置されていた」
室内がざわめく。
「おいおい。冗談だろ」
「……たったの五機」
機体性能に差はある。だがそれにしてもこの数字は異常だ。
手元の資料を仁は確認する。
その中で、対黒騎士との交戦記録。
「こいつ、エースがタイマンで落とした奴か?」
「良くて引き分けってところでしょうね」
まあやはり、あの得体の知れなさは演習からは見られない。
仁の直感した、相手がエースである証。一秒先を見透かしたような動きも無い。
それでも黒騎士はやはり他とは一線を画する難敵だったはずだ。
それを討ち果たした十二機。精鋭部隊の中でも更に一握りの精鋭。
撃墜された五機の内二機は黒騎士との戦いで落ちたらしい。
「……強い」
部隊としての完成度の高さ。他に比肩する部隊は全船団を見渡しても居ないだろう。
ふと考える。仮にこの部隊と模擬戦を行ったとして、果たして勝てるかどうか。
答えは否。自分一人では決して勝てない。かといって、他の隊とくっついたとしても勝ち目は無いだろう。
それこそエース級の人間と互いの動きを熟知した上で連携を取らないと勝ち目は無いと仁は歯噛みする。
一方でグレイスもΔ宙域――即ち仁達の戦いの交戦記録を見ていた。
「……強い」
奇しくも同じ感想を抱く。
同条件下で比較するとそれが顕著だ。
ユニコーンと仁の交戦。砲戦型ではあるが、近接戦でも難敵だ。
まして部隊ではなく単独で当たるともなれば。
何一つとして次の予測が追い付かない。
仮にこの相手とマッチアップする場面があったとして、己を含むサイボーグ戦隊で太刀打ちできるものはいるか。
居ない。誰であっても東郷仁と一対一で対峙した時点で落とされる。
例え部隊で当たったとしても油断は出来ない。
一瞬のスキを突いて連携を崩されれば連鎖的に全員撃たれる可能性もある。
「やはり、引き込めるものならば引き込みたい物だな……」
ぽつりと呟いた言葉は誰の耳に届くことなく消えた。




