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09 お泊り2

「えっと。お邪魔します……」

「しゃろんいらっしゃい!」


 おずおずと仁と澪の家に入ってくるシャーリーはまず真っ先に澪の歓待を受けた。

 すこし物珍しそうに部屋の中を見渡して一言。

 

「意外な程に片付いてますね」

「俺も澪も綺麗好きだからな」


 お前と違ってと言う一言は可哀そうなので飲み込んでおいた。

 流石にそれをこの場で言うのは性格が悪い。

 

「晩御飯はどうする?」

「キューブフードは嫌なの……」


 澪が肩を落としながらそういう。

 ちょいちょいと仁はシャーリーを手招きする。


「軍曹、ちなみにお前の家に澪がいる間はどうしてた?」

「えっと……デリバリーです……」


 視線を逸らしながらシャーリーは答える。

 作ろうとチャレンジはしたのだが、火柱を上げて以降は諦めてデリバリー頼りだった。

 

「澪の分の金は払うから後で教えてくれ」

「分かりました」

「今日もそれでいいか……今から食べに出るのは面倒だしな」


 仁の意見にシャーリーも頷く。

 ちょっと今からまた出かけるのは面倒だった。


「みお、今日はピザ食べたい!」


 その言葉で今日の夕食の方向は決定する。


「あーいいな。俺も偶にはキューブじゃないピザ食べるか」

「おとーさん。キューブフードは御飯じゃないよ」

「じゃあ私もピザにしましょう。みんなで分ければいろんな味が楽しめますよ」

「やったー」


 と言う訳でピザとなった。

 まあこちらも結局はキューブフード技術をスピンオフした物だ。

 見た目だけの、実質キューブフードなのだが澪には内緒にしておこうと仁は思う。

 

「しゃろん、あれ出してあれ」

「はいはい。待っててくださいね」


 そう言いながらシャーリーは澪に頼まれていた電子ペーパーを取り出す。

 

「はい、おとーさん」

「ん。俺にか」

「そうそう」


 何だろうなと思って広げてみるとそこに描かれていたのは妙にリアルに描かれた仁の絵だった。

 

「おとーさんかおかーさんの顔を書きましょうって学校で書いてきたの!」

「ほーそうか。上手に書けたな澪」

「クラスで一番上手だった!」

「凄いぞ」


 わしわしと仁は笑いながら澪の頭を撫でる。

 

「おとーさん髪ぼさぼさになっちゃう」

「おっと。すまんすまん」


 結構雑な仁の撫で方は澪の髪形を崩すには十分だった。

 もう、と怒りながら澪は直そうとするが上手く行かない。

 

「澪ちゃん。やってあげますよ」

「しゃろん、お願いします」


 深々と頭を下げる。

 それを見てシャーリーは笑いながら胸を叩いた。揺れた。

 

「はい、お願いされましょう。中尉。櫛有ります?」

「あるぞ。ほい」


 手渡された櫛を使って澪の髪を梳いていく。

 

「澪ちゃんの髪ってすごい綺麗ですけど何かしてあげてるんですか?」

「いや、偶に梳いてやってるくらいだ」

「ダメですよ。せっかくこんなに綺麗なんですから。ちゃんと手入れしないともったいないです」


 中々これだけ綺麗な銀髪はお目にかかれないとシャーリーは思う。

 折角いい素材なのだから磨かなければ勿体ない。

 

「そう言う軍曹は手入れしてるのか?」

「……まあ人並みには」


 歯切れ悪く、視線を逸らしながら答える。

 あんまり自分の方には興味を持てず、結構適当である。

 

 頭上で交わされる二人の会話を耳にして澪は怒りの拳を上げた。

 

「二人ともそれ禁止!」

「それ?」

「どれの事だ」

「ちゅーいとぐんそー禁止! みお知ってるんだからね」


 知っているという言葉に二人してどきりと肩を跳ねさせる。

 

「それお仕事の呼び方! おうちでお仕事しちゃいけません!」

「あ、そっちか……」

「びっくりしました……」


 中尉と軍曹と呼ぶ関係になった経緯を知っているのかと思ってドキリとさせられた。

 そういう話は子供の耳に入れたくなかったのだ。

 

 それはさておいて、澪の言葉にも一理ある。

 ただ――。

 

「澪」

「なあに?」

「ジェイクから何を聞いた?」

「じぇ、じぇいくは関係ないよ……?」


 何とも嘘の下手な奴だと仁はじっと澪の瞳を見つめる。

 その視線に晒され続けた澪はしばらく耐えていたが――。

 

「ごめんなさい、じぇいくからお仕事の呼び方だって教えてもらいました……」


 そう白状した。

 やはり……と仁は頷く。

 あいつ絶対面白がってると仁は確信する。バーベキューでは覚悟して置け。

 

「まあ確かに。家の中で階級で呼ぶのもしっくりこない。良いか、シャロン?」

「しょうがないですね……分かりました、東郷さん」


 既に今日一度超えた壁だ。

 もう一度乗り越えるのは容易い。

 

「しゃろん、しゃろん」

「何ですか?」

「みおもとうごう」

「あ……」


 何かを期待するように澪の視線がシャーリーに突き刺さる。

 

「仁。何笑ってるんですか」

「いや、澪にたじたじのお前が面白いなって」

「一番たじたじの人が何を言ってるんですか! っていうか一人だけ緩いのは許せません! シャロンではなく――」


 そこまで言ってシャーリーは言葉を止めた。

 今自分が口走ろうとしていた言葉が少し恥ずかしい物であることに気付いてしまったのだ。

 

 それに気づかないふりをして仁は肩を竦める。

 

「とりあえず先にピザ注文しちゃおう。澪とシャーリーで三枚分決めてくれ」


 テーブルにメニューを広げて仁はそう言った。

 あっさり渾名から名前に切り替えた仁を見てシャーリーは悔しそうにする。

 照れている自分が馬鹿らしいと。

 

 仁は仁で、心中穏やかではない。

 シャーリーがいけないわけじゃない。

 ただ、それでも。

 

 親子の様に髪を整えている澪とシャーリー。

 大分この二週間で仲良くなったようだった。

 

 その姿が――この家にある事に違和感。

 

 単に慣れの問題ではあるのだが。

 それでもこの家での団欒にシャーリーがいるというのは仁が想像もしていなかった光景で。

 

 令はもういないのだと改めて突き付けられたようで少し辛い。

 

 ふと右手が寂しさを覚える。

 それを埋める様に首から下げた指輪を握り締めた。縋りつくように。

 

 それに気づいたシャーリーが仁に気遣わし気な視線を向けて、瞳を伏せる。

 少し浮かれていた自分を戒める様に。

 

「おとーさん。どうしたの?」

「うん? いや澪から貰った絵が嬉しくてな。ちょっと浸ってた」

「ふむふむ」

「ちゅ……仁」


 その会話を聞いていたシャーリーが小声で仁を呼び口元を指さす。

 笑えと言う指示に仁は無理やりな笑みを浮かべた。

 

 その不格好な笑顔を見た澪は一言。

 

「おとーさん変な顔」


 まずは、仁に笑顔の練習が必要な様だった。

 

 鏡を前に難しいな、と顔をこねくり回す仁を尻目に、シャーリーは単刀直入に澪に聞く。

 

「そう言えば澪ちゃんはあんまり笑いませんね」

「笑う?」


 そこに首を傾げられてしまったシャーリーは大きくブレーキを踏む。

 まさかそこからだとは思っていなかった。

 

「笑顔です。笑顔」


 にこっとスマイルを浮かべるシャーリー。

 その気さくな笑顔に何人が騙された事か。

 それはこの場の誰もが知らない。

 

「笑顔を浮かべていた方が可愛いですよ」

「ん……」


 少しだけ。

 澪は困った表情を浮かべた。

 眉をハノ字にして。

 

「良く分かんないの……長谷川ちゃんもカーマインちゃんも。しゃろんもじぇいくも。そうやって笑うけど」


 みんなの笑顔が澪には。

 

「何で笑うのかみおには分かんないの……」


 笑顔を浮かべる理由が分からない。

 改めて言われると、仁にも分からない。

 シャーリーも分からなかった。

 

 三人して頭をひねる。

 

「無理する事は無い。笑いたいと思ったらきっと笑ってるから」

「楽しい事、嬉しい事。そういう事があったら自然に浮かんできますよ。ほら、仁だって何時笑ってるのか分からないような人ですし」

「ほっとけ」


 あんまり追い込んでも行けないと、二人して冗談めかす。

 

「澪ちゃんのおとーさんがお手本見せてくれないのに、澪ちゃんだけにやれなんてひどいですよね?」

「ん……そうかも」

「分かった分かった。じゃあ澪。今度笑顔の練習しよう。俺も変な顔って言われるのは嫌だから」

「うん!」


 シャーリーに言われなければこれも気付けなかった。

 気付かせてくれた彼女に仁は感謝する。

 

「やっぱ俺は親としてはまだまだだな……」


 もっと澪の変化や悩みに寄り添っていきたいと仁は思う。

 

 その後は頼んだピザを食べて食休み。

 そして。

 

「お風呂!」


 届いたばかりのお風呂セットを手に澪が宣言する。

 

「おーんじゃ入るか」

「みんな一緒!」


 しまったと仁とシャーリーは同時に己の失態を悟った。

 

 そもそもこのお泊りは澪が仁とシャーリーの二人と一緒に寝たいと言ったから始まったのだ。

 そこで用意されたお風呂セット。

 

 澪がお風呂も一緒に入りたいというのは予測してしかるべきであった――。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] こんなタイミングでごめんなさい 正直前のタイトルの方がよかった 簡潔に内容を表してて語呂もよかった なぜ変更してしまったんですか? [一言] 娘強しw ま、タイトル通りだったね 新…
[一言] 澪ちゃん の 猛攻 ! 仁 に 大ダメージ! シャロン に 大ダメージ! 真面目な意味で2人のピンチですねw
[一言] ある意味で仁に最大のピンチが訪れたw 食事に名呼びにとかろうじて回避を続けた エースが遂に致命傷を被弾かw
2019/12/09 12:07 退会済み
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