EX02 おしえてしゃろん。アサルトフレームのこと。
「アサルトフレームの事を聞きたい、ですか?」
「うん。おとーさんがしゃろんに聞くと良いって言ってた」
「まあ確かに。中尉が説明するよりは私の方が良いでしょうね」
おねーさんに任せなさいと軍曹は胸を叩く。
「澪ちゃんをすぐにでも整備士になれる位に教えてあげましょう!」
「そこまでじゃなくていい」
「……そうですか」
クールに断られた軍曹は少し肩を落としながら左手甲に触れて幾つかの立体映像を呼び出す。
「それじゃあ澪ちゃんに馴染みの深い奴から行きましょうかね」
◆ ◆ ◆
・アサルトフレーム
移民船団で使用されている人型兵器。
約二十メートルある鉄の巨人。
対ASIDの為に存在する宇宙各地に散らばる人類の盾。
母星に存在した人型ASIDを鹵獲、改造したアシッドフレームから発展した兵器。
純戦闘用ではなく、小惑星からの採掘、移民船の修理など人型重機としても使われる事がある。
現行機の大半は以下の装備を持つ。
10ラミィ程の出力を持つエーテルリアクターを搭載。
ある程度の損傷は平均化するナノスキン装甲。
エーテル通信による遅延無しの反応速度。
収束技術の発展により、同量のエーテルを使用した場合の強度が増したエーテルコーティング。
同様に敵エーテルへの貫通力が増した射撃武器のエーテルライフル。
高密度の収束エーテルの刃を生み出すエーテルダガー。
エーテルを噴射することで移動するエーテルスラスター。
その加速を緩和させる慣性制御。
特にエーテルの収束技術はASIDに対して最も優位に立っている。
運用効率には四倍から五倍の差があるとされる。
単独の打ち合いでも50ラミィまでの相手ならば互角に戦える。
機能の大半がエーテルに依存しているため、エーテルリアクターが最大の弱点。
一般的な交戦が予想される通常タイプASIDに対しては新兵であっても優勢に戦闘が出来るだけのスペックを最低限持たされている。
ジェネラルタイプが相手ならば、平均して四機からなる小隊二個で対応できる。
クイーンタイプとの交戦は想定されていない。
平均的なクイーンタイプはロンバルディア級戦艦を主軸とした護衛艦隊が対応。
それ以上の相手の場合はロンギヌス級機動戦艦が対応に当たる。
その為、火力としてはそれほど強大な物はもたされていない。
ただし、開示情報が少ないグリフォンは除く。
・レイヴン
アサルトフレームタイプ11。
数えて11番目の機種となるアサルトフレーム。
第三船団を始め、大半の船団で主力機として採用されている。
癖のない操縦性は傑作機として評価が高い。
曲線主体のナノスキン装甲は、表面をナノマシンが流動している。
そうすることでエーテルコーティングを突破してきた攻撃を受け流すことを狙っている。
現状、気休め程度の効果しかない。
第三船団仕様機は墨の様な黒にカラーリングされている。
慣性制御が従来機よりも向上しており、武装ペイロードも増加している。
リアクター出力自体は変わっていないが、各部のエーテル収束技術は更に発展しているため全体的に性能が向上している。
宇宙空間戦闘用装備、アストロパッケージ。
重力圏戦闘用装備、オービットパッケージ。
地表戦闘用装備、グランドパッケージ。
と言ったオプション装備が存在している。
それぞれの戦闘領域に合わせたオプション装備をすることで、最大限のポテンシャルを発揮できる。
アストロパッケージ装備時の最大速度は5km/s。慣性制御が限界になる為、通常は2km/s前後に抑える。
仁とその所属していた部隊のレイヴンは特殊仕様。
標準でエーテルコーティングよりも火器、スラスターにエーテルが多く回されている。
手動操作で更にその配分を偏らせることが可能で、それに対応するために機体内のエーテルを供給するラインは特別製となっている。
更に仁の機体の場合はエーテルリアクターのリミッター解除コマンドが実装。
通常の三倍の出力を実現するが、解除後は十数分でリアクターの機能は停止する最後の手段。
・レオパード
アサルトフレームタイプ82。
数えて8番目の機種となるアサルトフレームのマイナーチェンジバージョン。
もっぱら訓練機として使用されることの多い旧式の機体。
全体的な性能はレイヴンに劣るが、通常型のASIDを相手にする上では何ら問題ない性能を備えている。
直線主体の角ばった装甲形状。
レオパード以前の機体にはそのタイプの形状が多い。
正面からの攻撃に対する防御力が高い。
レイヴン同様のオプション装備があるが、レオパードの場合はアストロパッケージが無いと宇宙空間ではほとんどまともに機動が取れない。
本体側スラスターが貧弱なため起こる事態である。
基本的にはパッケージ無しで出撃する事は無いため、大きな問題にはなっていない。
仁が搭乗した際は、この機体にレイヴンの設定を乗せるという荒業。
普通のパイロットでは操縦もままならないところを手動で調整して強引に乗り切った。
アストロパッケージで仁は4km/s程出していたが、慣性制御が既に限界の為、結構な負荷がかかる速度。真似してはいけない。
既に設計的冗長性を使い切っているため、これ以上の強化は見込めない。
近い将来全て退役する予定。
・グリフォン
アサルトフレームタイプ15。
15番目となる最新型のアサルトフレーム。
常人では操縦が出来ない程の加速と旋回を行えるある意味欠陥機。
サイボーグ戦隊の存在する第二船団でのみ運用されており、他船団で運用される予定はない。
全体的に機体は大型化の傾向にあり、他の機体が二十メートル前後なのに対して、グリフォンは約25メートル。
装備としてフレキシブルに稼働する大型エーテルスラスター二基。
現行機よりも大型のエーテルライフル。
機体下腕部に内蔵されたエーテルバルカン。
掌に仕込まれたエーテルダガー。
リアクター出力も倍近くまで出力が上昇しており20ラミィ程となっている。
高出力になればなるほどエーテルリアクターは量産が難しくなる。
現状第一船団と第二船団でしか10ラミィを超えるアサルトフレーム用のエーテルリアクターは量産できていない。
そう言う意味でも他船団では量産出来ない機体と言える。
またこの機体を操縦するサイボーグ操縦兵の存在もあって、グリフォン部隊は全移民船団でも部隊成績はトップである。
尚、全くの余談だがそれを生身で軽々超えていくどこかのエースは蛇蝎の如く嫌われている。
◆ ◆ ◆
「ざっとこんな感じです。分かりましたか?」
「大体わかった! グリフォンは危ない子! レイヴンはいい子! レオパードはおじいちゃん!」
「厳密には違うんですけど……可愛いから良しです!」
玄人にしか分からない細かい所を語ろうとした軍曹だったがグッとこらえた。
正解である。
ここで更に説明したら飽き始めた澪は自由への逃亡を敢行していただろう。
「そういえばタイプ1はどんなのだったの?」
「タイプ1はハーモニアスって機体ですね。データとかは一杯残ってるんですが、その設計思想とかそう言う物は全部消えてて良く分かんない機体です」
「ふーん? そうだ、お話の中に出て来た戦艦はどういうの?」
「そうですね……いえ、今日はもう遅いのでまた今度にしましょう」
「はーい」




