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19 第二船団派遣部隊

「……何だこれは」


 それは巡洋艦『レア』が移動させた小惑星と並走して船団に到着した時に見つかった。

 

 シップ1――つまりは移民船団本船に付着した小惑星らしき物。

 それ自体は特段珍しい物では無い。

 

 そう言った付着物もある程度は無視して進むことが出来る構造だった。

 

 ただこれは様子が違う。

 

「繭か?」


 なめらかな表面。

 それは仁が口にしたように繭の様だった。

 糸が引くように、船団の外壁に張り付いている姿は昆虫めいた何かを連想させる。

 

 どうみてもただの小惑星ではなかった。

 

「また良く分からない物が……」


 各種センサーで繭の中を見ようとするが、全て失敗した。

 完全に遮断されている。

 その事に舌打ちを一つ。

 

 一番手っ取り早いのは、力づくでこの繭をこじ開ける事だが――。

 

「いや、流石に中身が分からない内からそれは危険か」


 だがどう考えてもこれはASID絡みの物だ。

 さっさと除去してしまいたい。

 とは言え、それを独断で決めるわけにも行かない。

 上層部に指示を仰ぐべきだろう。

 

 それに何だか。この繭からは、懐かしさの様な物を感じる。

 非常に奇妙な話だ。仁はこれまでの生涯でこんなものを見た事は無い。

 

 仁がそう考え待っていると、『レア』から通信が入った。

 

『東郷中尉。司令部から入電です。その付着物について、管轄が移ったようです』

「管轄の移動だって? どこに」

『第二船団、派遣部隊預りになりました』

「第二船団……」


 見れば、船団の陰から一隻のロンバルディア級戦艦が接近してくる。

 第二船団派遣部隊の旗艦らしい。

 そこから出撃したのは、レイヴンよりも一回り大型の機体。

 白い装甲で陽光を照り返すタイプ15グリフォンだ。

 

「あれがサイボーグ専用機……」


 仁も実物は初めて目にした。

 背中に羽の様なスラスターを搭載し、生身では耐えられない加速と旋回を行うという触れ込みの機体。

 手にした武装も大型化しており、威力の増大が見られる。

 

 反面、レイヴンの様にオプションで各領域ごとへの最適化は出来ない様だが、それを補って余りある性能を持っている。

 

 その加速性能に偽りはない。

 力強く光帯を生み出したかと思えばあっと言う間に仁のレイヴンに接近してくる。

 

『離れろ。この物体は我々の預かりとなった』


 若い、女性の声。

 有無を言わさずに自分の意思だけを押し通そうとする言葉。

 その横柄な態度に仁はカチンと来る。

 

「それはどうも。随分と早いご到着だな。これを見つけたと報告してから大した時間も経っていないのにご苦労様だ」


 早すぎる。

 それは仁の中で疑惑を生んだ。

 

 これが何なのか。

 仁達は何も分からない。

 

 だが間違いなく第二船団は、その上は掴んでいる。

 そうでなければこれほどの即応は出来ないだろう。

 

「なあ、これは何なんだ?」


 少しでもとっかかりが掴めればと、軽口交じりに問いかける。

 それに対する返答は硬質な手触りのする物。


『二度は言わない。離れろ』


 グリフォンが手にした大型エーテルライフルを仁のレイヴンに向ける。

 同時に響くロックオン警報。

 

 咄嗟に仁は回避運動を取る。

 だが相手はそれを正確に追ってきた。

 それに気づいた仁は更に速度を上げ、急旋回を繰り返して銃口を振り切ろうとする。

 フェイントさえ交えた本気の回避運動で漸く銃口を振り切る。

 人型相手でさえ、ここまで全力の回避はしなかった。

 

「正気かお前!」


 他船団の機体が、銃口を向ける。

 それは悪ふざけで済むレベルの話ではない。

 

 下手をしたらこれが人類初の船団間戦争の引き金となりかねない。

 その程度の事を理解していない人間が、派遣部隊に選ばれているのは俄かには信じがたい。

 

『最終警告だ。離れろ。従わない場合は撃墜する』

『それはこっちのセリフだぜお嬢さん。うちのエースから銃を下ろして離れな』


 何時の間にか。

 

 『レア』から正規兵部隊が発艦していた。

 十二機のレイヴンが、グリフォンにエーテルライフルを向ける。

 これ見よがしなレーザーサイトは狙っているぞ、と宣言するための物だ。

 

「よせ!」


 仁の身を案じてくれたのだろうが、互いに銃口を向けあっているこの状態は危険だ。

 何かの拍子で発砲したら取り返しがつかない。

 

『エース……? そうか、貴様が東郷仁か……!』


 瞬間、声に憎悪の色が混ざる。

 真っ直ぐに他人から憎しみを向けられた仁は一瞬怯んだ。

 

 ここまでの憎しみをぶつけられる覚えは仁にはない。

 まして第二船団に知り合いなどいない。

 

「お前は。誰だ」


 返事はない。

 ただ荒い息遣いだけが聞こえてくる。

 

 仁の混乱はさておいても、グリフォンの構えるエーテルライフルは発射されようとしてた。

 

 不味い。

 と、仁は焦る。

 回避は容易い。

 先んじてエーテルライフルをこちらのライフルで射抜くことも出来る。

 

 だがそれらを行って、次をどうするかだ。

 現状維持はあり得ない。

 決断しなければいけない。

 

 大型ゆえにチャージに時間はかかるが、その銃口の奥でエーテルの輝きが満ち始めた。

 撃つしかない。ここで澪を置いて死ぬわけには行かない。

 その決断を下し、仁もエーテルライフルを構えようとした時――銃口の光が消えた。

 

『こちらの部下が失礼をした』


 涼やかな男の声が一触即発の空気に割り込む。

 

 何時の間にか接近していたもう一機のグリフォンが、一機目のグリフォンのライフルを抑え込んでいた。

 強引に銃口を下げられ、恐らくは機体制御もロックされたのだろう。

 急に一機目は大人しくなった。

 

『こいつはウチの新入りでしてね。少々張り切り過ぎた様だ』


 あくまで新人が気負い過ぎて先走った。

 そういう方向で決着させようという意図が見えていた。


『この件に関しては後日、正式に謝罪をさせていただく。この場は引いて頂けないだろうか』

『ちゃんと躾ておいて欲しいもんだな。少々オイたが過ぎる』


 中隊長もそれが分かったのだろう。

 事実、これ以上その件を追及してもこちらに得など無いのだ。

 船団間戦争を引き起こしたいわけではない。

 

 それでも精一杯の嫌味をぶつけたのだが相手には痛痒も与えられなかったらしい。

 変わらずに涼やかな声が返ってくる。


『私からも良く言い聞かせておきましょう』


 柔らかな物腰だが、言っていることは一機目と変わりない。

 何も聞かずに立ち去れ、だ。

 

「引きましょう。これが上の方で取り決めた事なら我々には従うしかない」

『チッ。釈然としねえ』


 ぼやきながらも、十二機のレイヴンは一斉に銃口を外した。

 僅かながら空気が緩む。

 

『ありがとうございます。申し訳ないが、我々にも答える権限がない。こちらの物体については、必要があれば上層部を経由して情報が展開されるでしょう』


 言葉とは裏腹に謝意を全く感じない言葉に仁も中隊長に倣って舌打ちをしたくなるが堪えた。

 

 相手には背を向けず。

 ゆっくりと離れていく。

 

 一機目のグリフォン。

 仁の軌道にも目が着いて行っている様だった。

 これがサイボーグ部隊。

 全員が同程度の質だとしたら、噂以上の戦力だ。

 

 無論、一対一でならば負けるつもりはないが。

 

「何だかキナ臭いな」


 第二船団の強引な介入。

 そこには何かの意図がある筈だった。

 

 とは言え現状でそれは全く見当もつかない。

 ただ――。

 

「あのドローンも第二船団か?」


 これを探すために、ドローンを放っていた。

 一応の説明は付く。

 探し物があの繭だとしたら灯台下暗しにも程があったが。

 

「ダメだ。分からない」


 別に自分は探偵ではない。

 謎を解き明かすのが仕事ではないのだ。

 

 己の本分を超えた領域に首を突っ込むのは教官の職務ではない。

 

「だけどあの繭……何だったんだ」


 奇妙な懐かしさ。

 どこで覚えたのかも分からないそれに、仁は後ろ髪を引かれる思いだった。

 

 それを振り切って『レア』に着艦する。

 その瞬間まで、グリフォンのメインカメラはずっと仁の機体を捉え続けていた。

 

「何だか疲れたな……」


 何の変哲もない採集任務のハズだった。

 

 だというのにこんな想定外の事が立て続けに起こるとは。

 ドッと疲れた仁は早く家に帰って澪の顔を見たいと思った。

 

 少し癒されて早く眠ってしまいたい。

 下手をしたら戦場で暴れまわるよりも疲労感を覚えた身体を引きずりながら仁はそう思った。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます。
[一言] ろくでもない要素のオンパレードと来た。 人類ってやつはつくづく救われない生き物だのう……(遠い目
2019/11/15 13:02 退会済み
管理
[一言] もしかして令さんの知り合い? なら仁に敵意を向けるのも分かるけど……お門違いも甚だしい。アレで1番狂ったのは誰か知らないからだろうけど にしても、繭、しかも懐かしい、そして管轄変更ねぇ………
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