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16 採集ミッション

 澪とのキャンプを終えて。

 買い物やらを済ませた連休明け。

 訓練校へ出勤した仁は恩師から早々に新しい仕事を受け取る。

 

「アステロイドベルトですか」

「丁度いいのがここから十数光年先で見つかったらしくてね。上の方はここらで本格的に船団を修繕するみたいだね」


 無理も無いと仁は頷いた。

 人型ASIDの群れは事前の威力偵察と推測される攻撃で船団の全体へ満遍なく損傷を与えていった。

 その後の大攻勢での損害は言うまでもない。

 

 天候システムの不調やら市民生活に影響が出た範囲も多い。

 船団その物を維持できなくなるほどの物では無いが、無視できるものでもない。

 

 ASIDの襲撃が平時並みとなったこの辺りで直せる物は直してしまいたいのだろう。

 

「そこで、訓練生どもにも指令が来た。人手は幾らあっても足りないからね」

「……採集ミッションに修理ミッションですか。まあこれくらいなら」


 アステロイドベルトからの資源回収。

 船団のユニット交換。

 

 どちらもアサルトフレームを使用した任務だ。

 戦闘兵器であると同時に、作業用重機でもある。

 その特性を生かせという事であった。

 

「対象が広いですね。四回生、三回生は兎も角……二回生もですか」


 あの問題児トリオも対象であることに仁は驚く。

 

「今回の戦闘での物資の損耗は激しかったからね。一機でも多く欲しいんだとさ」

「機体が足りないと思いますが」

「ところが、正規兵の負傷者が多すぎて機体が余っているんだとさ」


 納得である。

 前回の戦闘で帰還は出来たものの、怪我を負った者も多かった。

 仁の様に再生治療を選択すれば別だが――後々の影響を考えると、自然治癒できるのならばそちらの方が良い。

 

 となれば人手は足りないだろう。

 

「まあ近隣にASIDのネストは無し……一応は安全ですか」

「一応はね」


 人型がいきなり懐に飛び込んでくる可能性は否定できないが、それを言い出したら始まらない。

 

 実機に触れることの出来る貴重な機会でもある。

 それに今回は、仁も出撃が許されている。

 後方でヤキモキしなくていいというのは好条件だ。

 

「しかしこれだと鉱物資源しか補充できないですよね。結構流出したって聞きましたけど」

「水と酸素についてはどこかの星系で地球型惑星を見つけるまでは今のままだろうね」


 規定値は割っていない。

 ギリギリ循環は維持できているので問題は無い。

 だが今頃捜索チームは血眼になって補充先を探しているのだろうなと仁は思う。

 

「また近い内に任務が来そうですね」

「本当にね」


 一先ず今は目先の事に集中しようと仁は頭を切り替える。

 

「短距離オーバーライトの実施は一週間後。今回は準備に時間を割けそうですね」

「この前はいきなりだったからねえ」


 実機の馴らし時間も取れるのは多少の安心材料だ。

 また軍曹にお願いしておこうと仁は決めた。

 きっと嫌な顔をしながら引き受けてくれるだろうという打算もある。

 

 ランチを奢るという代償は必要だが、彼女の技量をそれで買えるのならば安い物だ。

 

「俺の機体も用意して貰わないと……」


 きっと更に嫌な顔をするのだろうと仁は思った。

 

 その後、約一週間ぶりに顔を合わせた教え子たちは何だか疲れた顔をしていた。

 遅刻していない事に違和感を覚える辺り、毒されているなと思わないでもない。

 メイは朝っぱらから居眠りであった。

 

「起きろ、ベルワール訓練生。本日の講義を始める前に連絡事項がある」


 まずは日課とばかりにメイを叩き起こして、仁は先ほどの任務を三人に告げた。

 

「従って、予定されていた模擬戦はキャンセル。実機調整と、馴らし運転を行う。また、一週間後には短距離オーバーライトが行われるので、注意するように」


 各々、返事をしたのを確認して仁は今日の講義に移っていく。

 午前中の座学から午後の実技。

 何時もの流れは変わらないが――妙に眠そうだった。

 

 珍しいことにユーリアも、コウもである。

 

「珍しいな。三人とも眠そうとは」

「あ~ちょっと昨日、アスレチックではしゃぎすぎまして」

「ほう」


 聞けば再開したばかりのアスレチック施設で一日中遊んでいたらしい。

 何だかんだ、三人で行動しているので仲が良いと思わされる。

 

 こうして三人一括りに纏められてそれなりの期間が過ぎているのだから当然と言えば当然なのかもしれないが。

 

「……小さい子供でも遊べそうな物があったから、良いと思いますよ」

「それは良いことを聞いた」


 暗に澪でも楽しめると教えて貰った仁は、次の休みの行先に検討する。

 登山で分かった事だが、澪は結構身体を動かすのも好きだ。

 

 アスレチックというのは良いかもしれない。

 

「で、ベルワール訓練生。それは何だ」

「はい! 早弁です!」


 まだ昼時まで二時間あるというのに、弁当をモリモリ食べているメイに仁は頭を抱えたくなる。

 そういう意味で聞いたのではない。見れば分かる。

 

「何故弁当なんだ」

「お腹が空きましたので!」

「貴様は本能でしか生きていないのか!」


 幼児かと突っ込む。

 食って寝て遊ぶのが仕事なのか。

 

 全く変わらないと仁は嘆息した。

 一週間顔を合わせない程度で変わっていたら困るのだが。

 

「……うん?」


 いや、と思い直す。

 よくよく見れば、珍しく化粧をしている。

 何故、という疑問は抱くが、別に化粧自体は軍規違反でも何でもない。

 本当にただ、珍しいと思っただけだ。

 

「ベルワール訓練生」

「はい?」

「いや……早弁するのは良いが、昼食時に空腹にあえぐなよ」


 尋ねようかと思ったが結局仁は口を噤んで別の事を聞いた。

 セクハラとか言われたら困る。


「大丈夫です。教官。私がそんな手抜かりをするとでも?」

「むしろ普段から手抜かりしか見ていないんだが」

「ちゃんとお昼は食堂で食べます」


 最初から早弁する気満々じゃないかという突っ込みは堪えた。

 

 一週間かけての機体調整。

 十分に時間を取れたので整備班も大分楽な様だった。

 軍曹は相変わらず文句を言っていたし、仁のレイヴンが搬入されてからは悲鳴なのか良く分からない声を挙げていたが。

 

「また中尉のレイヴンを調整できるとは思いませんでしたよ。ところでこの前思いついた調整、入れておいていいですか?」

「いつも通りでお願いします。いや、振りじゃないからな。やるなよ、絶対に入れるなよ?」

「流石中尉! 心得ってものが分かってますね」

「お前は俺の心が分かってねえよな。ホント止めろ」


 という一幕があった物の、軍曹はきっちり仁の注文通りに(見た目上は)仕上げてくれた。

 

「ふふふ……これこそ我が真なるボディ」

「はいはい。ばかやってないで行くよメイ。整備士の皆さんも忙しいんだから邪魔すんじゃないの」

「ああ、待って下さいユーリア! ちょっとだけでいいので足元でポーズ決めたところ写真に撮ってください!」


 いつも通りのバカ騒ぎをしている二人にコウが舌打ちする。

 

「おい、恥晒してんじゃねえよ。こっちまで同類だと思われんだろうが」

「それにカメラ何て持ち込めないでしょ、メイ……」


 ユーリアの言葉にメイもむ、と押し黙る。

 格納庫は軍事施設だ。カメラの持ち込みなど出来る筈がない。

 

「仕方ないですね。記念撮影は次に回しましょう」

「そうしなさい」


 ユーリアは漸く諦めてくれたメイに溜息を吐いて周囲を見渡す。

 その辺りに仁の姿が無いことを確認して、他の二人を手招きする。

 

「ねえ、さっきの教官変じゃなかった?」


 余り意味はないが声を潜めて言うとメイが露骨に怪訝そうな顔をした。

 

「いえ、教官は何時でも変態的ですが」

「ああ。何時も意味不明な動きして俺達の攻撃を回避してる」

「教官って私の狙撃を時々エーテルダガーで切り払うんですよ……?」

「操縦の話じゃないわよ! それが変態的なのはよく知ってるから!」


 散々な評価であるが、彼らからすれば仁の操縦は異次元の域だ。

 いずれそこに辿り着く可能性は合っても現状では桁が違う。

 

「そうじゃなくて、あの整備士の人と。凄い仲良さそうだったじゃない。もしかして……付き合っていたりとか」


 そう言うとメイとコウの視線が露骨に呆れたものになった。

 

「おい、小隊長。その恋愛脳如何にかしろよマジで」

「何でもかんでも色恋に結び付けるのはどうかと思いますよ、ユーリア」

「もう! 何で二人して私を責め立てる時だけ息ぴったりなのよ!」


 拳を上下に振って不満を表明するが、二人は取り合ってくれない。


「大体、教官には娘いただろうが」

「澪ちゃんはどうなるんですか。澪ちゃんは」

「う、確かに……で、でもでも! 仲は良さそうでしょう!」


 尚も自論に食い下がるユーリアへコウがバッサリと切りかかり、メイも追撃する。


「そりゃ馴染みの整備士の一人や二人いるだろうよ」

「さっきもまたとか言ってましたしね」

「夢位見させてよおお」


 ユーリア・ナスティン十六歳。夢見がちな乙女である。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます。
[一言] 本堂さんとニコライさんの意見に賛成するなの 恋愛脳のユーリアか疑問に思ったメイが踏みそう…ってもう踏んでそう
[一言] 本堂さんの言う通り 絶対突って地雷踏む
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