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13 意外な再会

「何だお前ら。珍しいなこんな時間に」


 まさかな、と思おうとしていたメイ達の前に現れたのはそのまさかだった。

 教官職を終えて、後は帰るだけとなった仁が食堂にやってくる。

 

「おとーさん。めいおねーちゃんいた!」

「うん? 知り合いだったのか」


 仁も仁で、どこかで見たような……とは思っていた。

 だがそれが澪の迷子の時だとは繋がっていなかったのだ。

 

「何で今まで会わなかったんだろー?」


 不思議、と澪は首を傾げる。

 その様子を見て、メイは尋ねた。

 

「いえ。そもそもそんなに頻繁に来てるんですか?」

「こいつらならほとんど毎日来てるぞ」


 澪と仁の分のお冷を持ってきたジェイクがそう補足する。

 

「毎日……?」

「いや、良いのかよそれ」


 思わぬ返事にユーリアが疑問符を浮かべる。

 そして意外にもコウが至極真っ当な突っ込みを入れた。

 

「問題ない。許可は取ってるからな」

「取ってます!」


 高々とIDを掲げる澪にコウも脱力したように肩を竦めた。

 どうやってそれを手に入れたのかを突っ込みたかったが、その気力が無くなったのだ。

 

「何で今まで会えなかったかっていえば……こいつらは普段は来るのがもっと遅いからな」

「そうなの? どうして?」


 そのどうしては、今日は何で早いのなのか。それとも何でいつもは遅いのなのか。

 どちらにしても答えは一緒だ。

 

「普段はその……訓練で疲れすぎて一眠りしてから来るので」

「空腹で目を覚ますような感じね」


 本能に忠実過ぎる生き様を見せつける女子二人に、コウが残念そうな物を見る視線を向けた。

 ジェイクと仁もとある同期を思い出して視線が遠くなる。

 訓練校時代の彼女も大概、本能に忠実だった。

 主に機械への愛という方向で。

 

「へっくし」


 どこかで、金髪の整備士がくしゃみを一つした。

 

「ふむ……今日の訓練で直ぐに動けるくらいには体力が着いてきたか。なら休み明けからはもう少し負荷を上げて行くか……?」


 などと不穏な事を呟いている仁の声は聞こえなかったことにする若干三名。

 

 その後も何となくそのまま食事をしながら雑談を続ける。

 というよりも、澪がメイから離れようとしなかったので必然そうなる。

 澪と話しているメイは兎も角、他の二人は教官と同じ卓を囲むので少し緊張していた。

 

「めいおねーちゃんはお休みどこか行くの?」

「ええ、この三人でちょっと旅行に。澪ちゃんはえっと、おとうさん……? とどこかに行くんですか」


 ちらちらと視線が行き来する。

 合ってます? と視線で尋ねられたので仁は一つ頷いておいた。

 安心したようにメイの表情が緩んだ。

 

 そんなやり取りに気付かず、澪は両手を挙げて万歳する。

 

「何と、おとーさんとお出かけです」

「良いですね。いっぱい遊んでくると良いですよ」

「いっぱい遊んできます」


 この二人、何か波長が合うのかうんうんと頷きあっている。

 それを尻目に、仁はユーリアとコウに視線を向けた。

 元訓練生として後輩に教えておくべきことがあった。

 シップをまたいだ移動は二回生にならないと許可が下りない。

 恐らくは三人とも今回が初めてだろうと推測していた。

 

「お前ら、外出するなら早めに申請用紙出しておけよ。明日の朝だと教官が誰も来てないかもしれないからな」

「え、そうなんですか」

「講義が無いからみんながみんな早く来るとは限らない。今日出しておくのを勧める」

「ありがとうございます、教官」


 完全に出かける前にだすつもりだったユーリアは素直にお礼を口にする。

 下手をしたら明日の予定が狂っていたかもしれない。

 

 ――その道は仁も一度は通った道であった。

 そのまま顔を上げて、じっと仁の顔を見つめた。

 

「……何だ?」

「いえ。普段とは大分違うなと」

「勤務時間は終わりだからな。ベルワール訓練生がもうちょい遅刻しなければ俺も一々怒らなくて済むんだが……」

「すみませんすみません。あの子がホント……すみません」


 思わぬところでカウンターを受けたユーリアはぺこぺこと頭を下げる。

 

「せっかくの休みだから羽を伸ばしてくると良い。疲れは引き摺らない様にな」


 仁もそうするつもりだった。

 教官になってからすぐ、人型の襲来のせいで娯楽施設が軒並み閉鎖を食らっていた。

 状況の鎮静化と、5月の連休に合わせてその辺りが一斉に復旧するというから仁も色々と計画を立てている。

 

「おとーさん、学校ではどんな風なの?」

「東郷教官はそう。鬼ですね。鬼教官です」

「後滅茶苦茶強いな。お前の父親程強い奴はそうはいねえよ」

「おーおとーさん強いんだ」


 何故か、コウも加わって澪に普段の仁の様子を教え始めていた。

 澪の強いという言葉を聞いて少しだけ仁は得意げになる。

 

「……あれ、でも前みおを迎えに来てくれた時はボロボロになってたよ?」


 おかしいな、と首を傾げる澪。それに仁は無音でダメージを受ける。

 あれは相手が明らかに別格の黒騎士だったからだ。

 今のままでは再戦しても勝てる保証はどこにもない難敵。

 機体スペックが根本的に違う相手にどう対抗すべきか未だ糸口の見えない相手だった。

 

「そりゃ相手がやばいな」

「ええ。間違いなく相手がかなりやばいですね」


 若干青ざめた顔でコウとメイは二人して頷く。

 一体どんな相手を想像しているのか、仁としては気になる。

 気になるのだが、これ以上この会話を続けさせるのは危険だと感じ始めていた。

 

 その内普段の訓練振りを知られたら澪に。

 

『可哀そうだからやめてあげて』


 とか言われてしまいそうである。

 そうなると今後の訓練に支障を来す。

 娘のお願いを無視することで仁の良心が痛むことになるだろう。

 

「さて、お前ら。あんまりあることない事娘に吹き込むのはやめて貰おうか?」

「無いことは一言も……いえ、何でもありません」

「強いとしか言ってない、デス」


 その様子を見ていた澪がうーんうーんと唸り、何か言葉を思い出そうとしている。

 漸く掘り当てたのか。表情が明るくなった。

 

「ぱわはらだ」

「澪、それは違うぞ。先生からの指導だ。澪も学校の先生に怒られたりする人見た事あるだろ?」

「……! ある! そっかあ」

 

 納得したらしい。

 訓練校の教官と訓練生には明確な上官と部下の立場もあるのでパワハラでも間違ってはいないのだが。

 やはりこれ以上は危険だと判断した仁はこの場をまとめにかかる。

 娘の前では良い格好をしておきたいのだ。

 

「ほら、澪。食べ終わったならそろそろ帰るぞ。明日から出かける準備しないと」

「はーい。めいおねーちゃんまたねー」


 手を振り振りしながら澪と仁が連れたって食堂から出ていく。

 その背を見送り、もう完全に見えなくなった辺りで。

 

 糸が切れた様にメイが倒れ伏す。

 

「澪ちゃんは行きましたよね……」

「ええ。頑張ったね。いや、ホント」

「ちょっとだけ見直したぞチビ」


 実のところ、この三人の中で一番体力のないメイは身体を起こすのもギリギリな程に体力を削り取られていた。

 ただ、年下に良い格好を見せたいという意地だけでその身を支えていたのだ。

 

 その痩せ我慢を分かっていたユーリアとコウは素直に称賛する。

 

「ユーリア……後は、任せました……明日の準備も含めて」


 そう言い残して寝息を立て始める。

 部屋までよろしくと、それ自体は予測していたユーリアだった。

 だが後半は聞き捨てならない。


「ちょっと!? さっき終わったって言ってたじゃない!」

「ナスティン諦めろ。こいつがそんな事前に準備するタマかよ。どうせ今日夜にやって帳尻合わせればいいやとか思っていただろ絶対」


 その性格を読み切ったコウが他人ごとの様に言っているのが腹立たしくて、ユーリアはメイを揺すりながら声をかける。

 

「起きなさい。メイ。起きないとアンタの下着は笹森に準備させるわよ」

「俺を巻き込むんじゃねえよこの糞女! ただの変態じゃねえかそれ!」

「ほら、早く起きなさいって! スケスケのエグイのになっても知らないわよ!」

「おいやめろって言ってんだろ! 何でお前らは俺を一々変態にしようとするんだ! ふざけんじゃねえ!」


 同期二人が必死でメイを起こそうとするが、彼女はすやすやと気持ちよさそうな寝息を立てている。

 これだけ騒がしくても寝られるのは一種の才能だろう。

 だからこそ、目覚ましにも気付かないとも言えた。

 

 澪に年上としての姿を見せつけた代償として、ユーリアはメイの荷造りをやる事になり。

 そしてコウはスケスケの下着が好きという風評被害を被った。

 

 そんなトラブルは合った物の――明日から彼らは一週間の長期休暇である。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます。
[一言] 澪ちゃんのボディーブロー 仁に大きなダメージ あ、もしかして旅先でばったり遭遇?(w
[一言] 澪の心無い一言にワロタw これぞまさしく親の心娘知らず。 あの時、君のおとーさんは数と質の不利を トンデモ技能で覆そうとしてたんだよ。足が モゲたのもその代償なのだw
2019/11/09 12:13 退会済み
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