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EX01 おしえておとーさん。ASIDのこと

 仁が退院してから数日後。

 初等学校入学前に仁は澪にASIDについて教える事にした。

 理由は言うまでもない。


「それじゃあ澪ちゃんと覚えるんだぞ」

「分かった!」


 返事は何時も良いんだよなあ、と思いながら仁は説明を始める。

 

 ◆ ◆ ◆

 

・ASID

 Adversary Superior Infectious of Disorder。通称ASID。

 無秩序で感染性の敵対的上位種と呼称される無機生命体。

 

 エーテルリアクターを持ち、自らの損傷はナノマシンと捕食した金属で修復する。

 頭部にはプロセッサ――頭脳と推定される箇所が存在している。

 再生能力を持つ為、確実に仕留めるにはプロセッサかエーテルリアクターのどちらかを潰すべき。

 

 女王を頂点とした群れを形成し、クイーンタイプ、ジェネラルタイプ、通常タイプの三種類に分かれている。

 

 宇宙に広く生息していると考えられているがその総数は不明。

 現状星間空間にはそれほど多くはないという事が分かっている程度。

 

 基本的にASIDの群れは繁殖を目的として星から星を渡り歩く。

 その繁殖方法は独特で、基本的にはクイーンの単為生殖――と言っては良いか疑問だが――の生んだ雌性体が群れのほぼ全てを占める。

 雄性体に関してはクイーンから生まれる事は無く、辿り着いた惑星の生態系で最も優れた生き物を自分たちの同種に改造しASIDとする。

 そうして生まれた雄性体の形質を取り込んで群れの多様性を維持しようとしている。

 

 その改造方法はASIDが体表から散布するナノマシンによるもの。

 成功率は高いとは言えず、失敗して死に至らしめることも多い。

 母星ではそのせいで男性人口が激減し絶滅の危機に瀕した。

 その影響は150年過ぎた今も続いている。

 

 人型ASIDが襲撃したシップ5もナノマシンによって汚染されているため、洗浄には時間がかかる見通し。

 

 また対応能力が非常に高く、外敵が存在する場合にはそれに対抗できるように急速に進化する。

 母星におけるASIDは最終的に人型にまで進化した。

 

 クイーンタイプが群れの頂点であり、弱点。

 クイーンタイプが死亡した場合、群れ全てが機能を停止する。

 

 故に人類の対ASID戦術としては群れその物を回避するか、敵クイーンを狙い撃つかのどちらかである。

 

 第三船団で使用されているナノマシン技術はASIDのナノマシンを解析した結果生まれたものである。

 

・通常タイプ

 通常タイプASIDとは最も数の多いASIDである。

 その特徴は同一個体が群れを成している事。

 移民船団が最も遭遇する個体はミミズ型と呼ばれる形状の物。

 

 その名の如く、ミミズの様な形状をした細長いワイヤーの様な見た目をしたASID。

 遭遇頻度からこの宇宙で最も多い生き物はミミズ状なのでは無いかという説がある。

 母星においては人型、四足歩行のイヌ科、ネコ科を模した形状が確認されている。

 

 一言にミミズ型と言っても群れ毎にその細かな違いがあるが、特性は概ね同じ。

 頭部から発射されるエーテル弾と、その細長い体による巻き付きである。

 

 ただし、通常タイプのリアクター出力は1ラミィなので、移民船団が運用する現行アサルトフレームにとっては脅威にはならない。

 

 

 群れの中では最も数が多く、全体の九割九分を占める。

 過去に観測された最大の群れでは通常型が1億体を超えた。

 

 クイーンの惑星渡りの為に斥候に出されることもあり、数百年はかかる新たな惑星を探す旅に出される個体群も存在する。

 

・ジェネラルタイプ

 通常タイプを率いる少数個体。

 凡そ通常タイプ1万につき一体の割合で存在する。

 

 通常タイプとは異なり、同一個体は殆ど存在しない。

 一説によれば、侵略された惑星の生態系、その優良種である雄性体の成れの果てとも。

 尤も、人類にはASIDの雄雌の区別がつかないため真相は不明。

 

 通常タイプよりも高い出力のエーテルリアクターを搭載しており、出力は凡そ50~500ラミィ。

 その出力に比例して高い戦闘能力を持つ個体が多く、複数機のアサルトフレームで対応に当たる。

 

 通常タイプとの一番の違いは、自らナノマシンで侵食した物体を己の身体の一部にすることである。

 エーテルで保護されていない物体は容易く取り込まれるため、注意が必要。

 故に、交戦時は撃破されることは避けなければ行けない。


 万が一撃破され、取り込まれたらアサルトフレームに使われている技術がASID側に流出する。

 エーテルの運用技術等でアドバンテージを得ている現状が崩れた日が移民船団最後の日になるかもしれない。

 母星においては地球上の様々な生き物を模した個体、人類側の兵器を侵食して再利用された個体が存在した。

 

 通常タイプ含め、ジェネラルタイプはクイーンに絶対服従である。

 何事も例外があり、クイーンへの反逆を行う個体が存在することが一例確認されている。

 万が一、その反逆が成功してもクイーンの道連れで反逆したジェネラルタイプも機能を停止する。

 しかし、機能停止までの僅かな時間でクイーンタイプを取り込むことが出来れば、新たな群れの長となる事もあるのかもしれない。

 

・クイーンタイプ

 群れのトップ。

 基本的には群れの中に1体しか存在せず、その群れのASIDは全てクイーンが産み出した物である。

 

 他のASIDと比較しても一際巨大であり、その巨体に見合ったエーテルリアクター出力を持つ。

 その出力は最低でも1000ラミィ以上。

 最早アサルトフレームでは真っ当な方法では太刀打ちできないため、対抗するには軍艦クラスを持ち出す必要がある。

 

 それでも全長は10キロ近くある個体もいる為、殺し尽くすのは時間がかかる。

 

 その巨体の大半を占めるのはASIDを生み出すためのファクトリーユニット。

 材料となる金属さえあればそこから無限にASIDを生み出し続ける。

 人類が移民船団を生み出せた背景には、母星で鹵獲したクイーンタイプのファクトリーユニットの存在がある。

 現在の移民船団のメインシップ――シップ1には複製したクイーンのファクトリーユニットが存在し、そこで移民船の建造などを行っている。

 

 また、ファクトリーユニットは群れを増やすだけではなく自己強化にも使われていることが確認されている。

 故に、クイーンタイプは年月を経れば経る程強力な個体に変貌していく。

 

 群れの中でもトップクラスの戦闘力を持ち、基本的には群れの中央にいる。

 その為、群れを突破してから最大戦力を倒すという苦行を強いられる。

 

 1つの群れに原則クイーンは1体だが、稀に二体存在することがある。

 クイーンがクイーンを産んだ場合である。

 クイーン自身が産み出した新たなクイーンは、少数の通常型を伴って別の星系へと送り出される。

 

 そうすることでASIDは銀河の支配領域を拡大していると考えられる。

 

 故に、その系譜を辿ればあらゆるASIDの原種となったクイーンが存在する筈である。

 あらゆるクイーンよりも長い年月を生きたオリジナルと呼べる個体が。

 

・人型ASID

 船団を襲った正体不明の集団。

 エーテルリアクターを持つ無機生命体であることからASIDに分類されている。

 現状確認されている個体が全て高いエーテルリアクター出力を持っているため、ジェネラルタイプに分類される。

 しかし本来いる筈の通常タイプが一体も確認されていない事。

 ファクトリーユニットを持つクイーンタイプが不在で大規模な群れが活動していることから通常のASIDの群れと同一視は出来ない。

 

 特徴は言うまでもなく人型である事。

 また、これまでに遭遇したASIDよりも高い知能を持っていることが推測され、戦術戦略めいた物を見せて来た。

 

 第三船団の明確に狙って繰り返し襲撃してきたこともあり、現状移民船団では最大級の警戒対象。

 

 現在所在不明。

 クイーンの存在する本拠地が明確になれば殲滅作戦が実行される予定である。

 

 ◆ ◆ ◆

 

「とまあ大体こんな感じだ。分かったか?」


 ざっくりと船団内で知られていることを仁は澪に説明する。

 しばし澪は考え込んで言った。

 

「つまりクイーンはみんなのおかーさん!」

「ああ、うん……大体合ってる」

「あといじめっこ!」

「よし。それが分かってれば良いよ」


 いじめてくる怖い相手だと理解してもらえたらそれでいい。

 後はおいおい、暮らしていく中で覚えていくだろうと仁は楽観した。

 

「人型は怖い人?」

「そうだな。一番怖い奴らだ」

「ふーん?」


 澪にはその怖さが今一伝わらなかったらしい。

 

「とにかく、次に会ったらすぐ逃げるんだぞ」

「分かった」

「約束だからな?」


 念押ししておく。

 また手のひらに乗られたら大変なのだから。

 

「ねえねえ、おとーさん」

「うん?」

「おとーさんのあれは何? 人型?」

「あれ……ああ、レオパードか。あれについては……俺が説明するよりも詳しい奴がいるからな。今度頼んでおこう」

「分かった! 楽しみ」

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― 新着の感想 ―
[一言] そっか あの人型は全部がジェネラルタイプだから、一番強いのを区別(?)して名前付けてるだけなのか そっかそっか 彼らには通常タイプって存在しなかったね 納得(^-^)
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