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04 鷲獅子が羽ばたく時

 医務室に運ばれていく智を見送る。

 ロンギヌス級機動戦艦は内部にまるごと街を一つ抱えているような設備がある。

 墜落しているとは言え、医務室は無傷なので十分な処置をして貰えるだろう。


「んん? んんー?」

「何してんだシャーリー。危ないぞ」


 ここまで破壊された機体だ。

 何時爆発してもおかしくはない。


「ああ、大丈夫ですよ。損傷箇所ははっきりしてますし……胴体部はほとんど無傷ですね」

「そうなのか? それからその『ああ』っていうの止めてくれ」


 セブンスがそれを口癖の様に言っていたので耳に残っている。

 話した内容も含めて、思い出してしまい下向きな気分になってくる。

 何時までも目をそらしているわけにはいかないのだがーー。


「それで何してたんだ」

「いえ。大したことじゃないんですが。あそこ。見慣れない装備がついてるなって」

「……そうなのか?」

「そうですよ。ほら、腰の辺り! 通常のグリフォンとは全然違うじゃないですか!」


 分からない。

 普段から見ているレイヴンならともかく、偶にしか見ないグリフォンの背面など詳細には覚えていない。

 確かに小型のユニットがついているようだったが……やはり分からない。

 元々着いていたような気もするが、シャーリーが違うというのならば違うのだろう。


 こと機械に対する見立てでシャーリーを上回れるとは思えないのだから。


「うーん。気になりますね。ちょっと許可もらって解体しましょうか」

「……程々にな」


 現状、『ゲイ・ボルク』では採集した資材から損傷箇所の修理を進めている。

 だがアサルトフレームの方にまでは手が回らないらしく、シャーリーは暇しているようだった。


 そこでふと仁は思いつく。


「なあ、四年くらい前に教導隊でグリフォンの輸出版導入の為の試験したこと有ったよな」

「え? ええ。ありましたね。サイボーグ以外でも操縦できるようにOSで制限してたヤツ」


 第三船団の戦力増強策の一つとして、グリフォンの導入も一時期検討されていたのだ。

 実際、機体性能だけを見るならばレイヴンよりもグリフォンの方が高い。

 それ故にそんな意見も出たのだがーー意見を出してそれを通した人間は知らなかったのだろう。


 普通のパイロットと、パイロット用のサイボーグ施術を行われた人間の差を。


「あの時は酷かったですね。一般兵でも扱えるようにリミッターをかけたら総合スペックではレイヴンとトントン」

「むしろ機体サイズが大型化した分、格闘戦では有利だったが射撃戦では的がでかくなっただけだったな」

「おまけに肝心のリアクターも第二船団が高出力型の輸出を認めなかったので第三船団のレイヴンと同タイプ」

「火力も同等っていうんじゃ導入する必然性は無いって結論になったんだったな」

「はい。その代わりとばかりにレイヴンの新型パッケージの開発が開始されて……ファランクスパッケージなんて物が出来たんですが……」


 それもこの前の超大型種との戦いで失われた。貴重な運用経験を持つパイロットたちと共に。

 第三船団に戻ればまだ予備のパッケージはあるだろうから、部隊編成は可能だが。

 使いこなせるパイロットが居ない。


「ええと。それで結局何の話でしたっけ」

「いや、確かあの時のグリフォンってモスボール処置されてるけど残ってるよな」

「ええ。それはまあ。リアクターは取り外してしまいましたが……って大尉? まさか」

「そっから部品取ればこいつ修理できるんじゃないか?」

「どっちかっていうとこいつから部品を取るような感じになると思いますけど……」


 こいつ、と二人は智の乗っていたグリフォンを指す。

 コックピットを始めとしたヴェトロ二クスとリアクターを移植すれば、完全版のグリフォンを再現することは可能だ。

 何しろ機体そのものは全く同じでソフト側でリミッターをかけていたのだから。


「いやいやいやいや! 直しても乗れる人いませんよ? 智さん乗せるつもりですか?」

「……俺、乗れないかな?」

「衛生兵呼びます?」

「待て、俺は正気だ」


 サイボーグ専用機に生身で乗るという暴言に、シャーリーは仁の正気を疑ったらしい。

 ショッキングな出来事が続いてはいたので、その懸念も全くの的外れとは言えない。


「正気だって言うならどうやって乗るつもりですか? 生身じゃ耐えられないような加速度と旋回ですよ」

「気合と根性」

「仁、疲れてるんですね……」


 割と本気のいたわりの視線を受けてしまい、仁の声のトーンも下がる。


「やっぱ無理か?」

「確かに大尉の対G能力は高いですがそれだってサイボーグに比べたら大したことないですし」


 ピシャリと言われてしまい流石に仁も精神論でどうにか出来るレベルではないのだと分かり、口を噤む。

 機体のことならばシャーリーが一番よく知っている。

 そして仁がどれだけの事を出来るのかも数値として客観的に知っているのはシャーリーだ。

 その信頼があるからこそ、自分の思いつきはやはり無理だったかと諦めが付く。


「むしろリアクター規格は共通ですから、これを大尉のレイヴンに乗っけたほうが良いかもしれないですよ」

「そっちの方向で行くか……」


 生身では耐えられないGをどうやって克服するか。

 その解が無い以上グリフォンを再活用するというのは無理だと諦めた瞬間。


 解が仁の中で見つかった。


「……あるぞ」

「へ? 何がです」


 早速解体に入ろうとしていたシャーリーが仁の言葉で動きを止める。


「対G能力を向上させる方法だ。あるぞ」

「……今からサイボーグ施術でもします?」

「万一サイボーグ化するとしてもお前だけは絶対に関わらせない。腕をドリルにされてたまるか」

「訓練校時代の冗談じゃないですか」


 目が本気だった。

 あの時シャーリーは笑っていなかった。

 その目を覚えている。ただただ恐ろしい目だったことを。


「そうじゃない。八年前に俺が通報して逮捕された医師がいるんだが」

「どういう経緯でそんな事に……」


 そう言えばこれは訓練生の話だったので、シャーリーには言ってなかったかと仁は思う。


「まあ色々有ってな」


 とは言え、ここで本人の許可もなくメイの話をするのは躊躇われるし、長くなる。

 気になっているシャーリーの様子を知りながらもその一言で切り上げた。


「そいつが逮捕される原因になったものがまだ未認可のナノマシンだ」

「未認可ですか。既に嫌な予感がしてるのですけど。仁、それ私聞いても大丈夫な話です?」

「お前が偶に言う知ったら消される類の話よりはよっぽど安全な話だ」


 多分半分くらいは怖がらせようと大げさに言っているシャーリーの持ちネタみたいな物だ。

 だがもう半分くらいはガチな機密が混じっているので心臓に悪い。


「そのナノマシンは摂取した人間の対G能力を大幅に向上させるものだった。それを使えば……」

「仁、仁。もうオチが分かってるから聞くんですけど」

「オチ言うな」

「副作用は?」


 特大のデメリットが無ければそんな便利なものとっくに認可されている。

 特にそれは防衛軍の戦力底上げに繋がるのだから。


「長期間の摂取で寿命が大幅に縮む。原因はよく知らん」

「全然だめじゃないですか!」


 シャーリーが悲鳴の様な声を上げた。

 もしかしたら。あの日仁が通報せずメイがナノマシンの摂取を止めなかったら。


 デメリットも克服した完全版のナノマシンが完成していたかもしれない。

 だが実際にはそうはならなかった。


 その事に後悔なんて無い。

 コウやメイが楽しげに会話をしているのを見るだけで、仁はあの日の選択が正しかったと胸を張れる。


 それはそれとして、完成版のナノマシンがあればと言う思いはあるのだが。

 それがあれば一般兵でもサイボーグ戦隊に食いつけるかもしれない。


「短時間なら問題ないんだよ……多分」

「絶対それ検証データもない仁の勘ですよね」

「まあな」


 メイが一年以上摂取していた実績からの逆算だ。


「強力な機体が居るんだ」


 第二船団との戦いは避けられない。

 そして次の戦いで決着を着けられなければ仁たちの敗北となるだろう。

 第二船団がこれだけ派手な行動を起こした理由。


 その大願の成就はもう秒読み段階だからではないだろうか。

 ライテラ計画の性質上、成功したらその瞬間に諸々迫った問題は無かったことになってしまう。

 故に、残り時間は僅かだろうと防衛軍の上の方も考えている。


「今度こそ澪を取り戻す。そのためにはもっと、もっと力が必要だ」


 そのためならばテルミナスの民だって使う。


「だから頼む。グリフォンを、修理してくれ」


 ナノマシンの入手のアテはある。

 アテ扱いされた元訓練生同期の都市警察の警官は困った顔をするだろうが。

 押収した証拠品の横流し、なんてことにならないように準備はする必要がある。


「そう言われると、私が断れるわけ無いじゃないですか……」


 澪の名前を出されて。

 シャーリーは折れた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 仁……意外と戦闘狂? 意外でもないか
[一言] まさかのあれが伏線だったとは。
[一言] > 「正気だって言うならどうやって乗るつもりですか? 生身じゃ耐えられないような加速度と旋回ですよ」 >「気合と根性」 ウチの主人公やヒロインよりぶっ飛んでますね⁉︎あいつらも大概だけどもっ…
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