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07 メインシップ奪還作戦7

「押し込め! ここを抑えれば増援が来る!」


 最前線で周囲を鼓舞しながら仁は敵のグリフォンをまた一機落とす。

 一瞬だがビーコンが発信された。

 それを受け取って派遣艦隊も帰還してくるだろう。

 

「投降しろ! お前たちの負けだ!」


 仁を抑え込もうとするグリフォン部隊を掻い潜って、容赦なくレイヴンを撃ち落としていく。

 

 艦隊の大半と部隊の大半は、智たちとは関係ないと仁は踏んでいた。

 事実、今も士気を保っているのはサイボーグ戦隊と一部の艦だけだ。

 他はもうガタガタになっている。

 

 ASIDとの戦いで一度は盛り返した様だったが、通常型よりも遥かに強く組織立った人型の戦力に戦線がズタズタに引き裂かれていく。

 それでもサイボーグ戦隊が意地を見せた。

 どうにか撃墜比は互角。

 挟まれている側としては驚異的な粘りを見せている。

 

 その横合いから飛び込んできた少数の部隊が、粘りなど関係ないとばかりに殴り飛ばした。

 識別信号は第三船団。

 特に一際動きの良い一機を見て仁は快哉をあげる。

 

「笹森少尉! 生きていたか!」

「教官。いや生きているのは疑ってなかったけどよ……随分と動きにくそうだな」


 十全ではない機体を一目で見抜かれたらしい。

 対してコウの機体は万全。

 その動きに淀みは見られない。

 

「丁度いいハンデだ。それより、随分と早かったな。ビーコンが発信されたのはついさっきだが」

「いや……んな事よりも。さっきメイの奴から聞いた。澪助が行方不明だって」

「何?」

「状況は自分にも良く分かってねえけど……」


 その言葉に、仁は僅かに戦列から下がる。

 船団はかなり近くなっている。

 この距離ならば――と仁は自分の携帯電話から澪の現在位置を検索する。

 通信回線とは別のGPSを利用した機能だ。

 何時ぞや、盛大に迷子になって以降入れていた機能だが使うのは初めてだった。

 

 その情報が示す場所は――シップ1の一角。港湾区近くの倉庫街だ。

 何故そんな場所に。

 

 智たちの目的は明らかになった。

 それは仁の予想に近い物。

 

 ああ、だとしたらきっとそれは。

 一番当たって欲しくない予想もきっと当たっている。

 

「笹森教官は、他に何か言っていたか?」


 個別回線に切り替えて仁はそう尋ねる。

 コウは一瞬躊躇ったように視線を逸らして。しかし口を開いた。

 

「何かの間違いだとは思うんだけどよ、澪助は人型ASIDを伴って姿を消したって」


 ああ……と、溜息の様な声が仁の口から漏れた。

 自分がそんなにも情けない声が出せるのだと初めて知った。

 

「……気付いてしまったのか」


 もしかしたらと思った。

 違って欲しいと祈った。

 何より、あの優しい娘に、そんな過酷な現実を知って欲しくなかった。

 

 だが、姿を消したという事は自分がどういう存在なのか自覚したという事だろう。

 

 そうなる前に全てを終わらせたかった。

 すぐ隣に爆弾を抱えたままだったとしても、今の暮らしを少しでも長く続けたかった。

 

 その願いはもう叶わない。

 

 ならば仁がやるべきことは一つだけだ。

 

「笹森少尉。ここは任せたぞ」

「は?」


 躊躇う事無く仁は職務を放棄した。

 戦列を離れて船団の方へと向かおうとする。

 

「あ、あれ? 大尉。どこ行くんですか!?」

「ナスティン少尉。ちょっと野暮用だ!」


 入れ違いになる様に、ユーリアの機体とすれ違う。

 

 一機戦場から離れていくレイヴンを見て、智は猛る。

 その行先がシップ1となれば尚の事だ。

 

「待て! 東郷仁!」


 その背を追いかけるグリフォン。

 構えたエーテルライフルが横合いからの斬撃に絡め取られる。

 

「邪魔をするな!」

「その声。確か楠木智、だったよなあ」


 雑に仁から託されたコウは、素直にその指示に従う。

 八年前に一度会った相手。

 そうあの時もサイボーグ戦隊だと言っていた。

 

 まさかこんなところで顔見知りに会うと思っていなかったコウだったが獰猛な笑みを浮かべる。


「親が子供を迎えに行くときは邪魔するもんじゃねえぜ?」

「何も知らないくせに……煩い!」


 智機もエーテルダガーを抜いて格闘戦を挑む――だが、その距離は完全にコウの間合いだ。

 機体の関節構造を十全に生かし、刀身すらも捻じ曲げた格闘術。

 

 それは初見でまともに防げるものではない。

 一瞬たりとも同じ軌道を描く事のない斬撃に、智のグリフォンは一瞬で全身を切り刻まれる。

 辛うじて損傷は装甲だけに留めているが、完全に目で追う事が出来ていない。

 

「コイツ……!」


 智もその声と言葉遣いで思い出す。

 八年前にバーベキューで一緒になった訓練生。

 

 たったの八年でここまで腕を上げたのかと驚嘆する。

 近接格闘というレンジに限って言えば、コウは既に――。

 

「東郷仁以上だとでもいうのか貴様!」


 矜持が傷つけられる。

 生身の人間にサイボーグ化した自分が押されている。

 機体性能もこちらが優越しているにも関わらずだ。

 

 この距離は不味いと智は距離を取ろうとし――その瞬間の狙撃に前に出ることを余儀なくされた。

 僅かでも離れた瞬間にそれを阻害しようと狙撃が飛んで来ることに気付いた。

 

「どういう神経をしているんだ……! 誤射が怖くないのか!?」


 高速で立ち位置を入れ替えている近接格闘中に、狙撃をしてくるなど正気の沙汰ではない。

 だがその程度はユーリアにとって少し難しい程度の狙撃でしかない。

 未亡人製造機と呼ばれてもおかしくない蛮行を繰り返してくる相手。

 

 それが数回も続けばまぐれではなく狙った結果だと智にも分かる。

 

「……エース級が二人、か」


 サイボーグ戦隊をも凌駕するパイロットに智は乾いた笑みを浮かべた。

 東郷仁というイレギュラー一人はまだ許容できた。

 だがこうもポンポンと驚異的なエースが現れてくるとなると。

 

「私たちは何の為に身体を切り刻んだんだ」


 腹立たしい。

 自分たちが望んでも得られなかったものを、身体を切り開いてでしか得られなかったものを。

 どうしてこいつらは得ているのか。

 

 二対一で追い込まれている智を援護しようと同部隊のグリフォンが横合いからコウ機へとライフルを発射する。

 その銃撃が増えていったことでコウも堪らず距離を取りながら牽制射撃を撃つ。

 

 どうにかその場は仕切り直しが出来たが、この宙域での戦闘は趨勢が決まりつつあった。

 

 第二船団の敗北だ。

 それを認めて嘗て派遣部隊の指揮官でもあったグレイスは号令をかける。

 

「……後退する! シップ1で物資を回収後離脱するぞ!」


 元より、第二船団――というよりもライテラ計画にとってこの戦闘は必須ではない。

 今はまだシップ1に存在する物。

 澪とその本体とも言えるミオ。その二つがシップ1から今は動けない理由があったからここに留まっていたに過ぎない。

 

「後退方向には注意しろ。第三船団とASIDを喰い合わせるんだ!」


 挟み込んでいた相手が横から抜ける様に移動すれば向かい合う第三船団と人型ASIDは互いの戦線をぶつけ合う。

 そうなれば乱戦となって第二船団が離脱する時間を大きく稼げるだろうという目算だったのだが――。

 

「……戦わない、だと?」


 元より人型ASIDには第三船団が眼中にないようだった。

 隣にいる相手を無視して第二船団だけを追ってくる。

 

「どういう事だ」


 第三船団側は――銃口を向けている者もいる。

 だがその正常な反応をしているレイヴンの前に、別の部隊が立ちふさがっていた。

 

「あの部隊は、後から来た――」


 グレイスの思索はそこで中断された。

 凄まじい圧と共に切り込んできた漆黒の隻眼ASID、黒騎士の斬撃を受け止めるので手一杯となっていた。

 

「ふっ……シミュレーター演習などとは比べ物にならないな!」


 徹底的に対策をしていた東郷仁相手でさえ優位には進められなかった。

 智の交戦した次世代のエースの存在。

 

 第三船団との戦いは予期していた。

 だからこそ準備をしてきたにも関わらずこの体たらく。

 

「だが、最低限の目的は果たさせてもらったぞ」


 強引に部隊を突破してシップ1へと降り立とうとする黒騎士を食い止めながらグレイスは笑う。

 勝つ必要はなかった。

 大敗は避けなければならなかったが、多少の負けは計画に支障はない。

 

「もう手遅れだ。東郷仁」


 そのコックピットの片隅に表示されていた残り時間を示すカウンター。

 値は既に0となっていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] エース級ねえ? トップエースやろ? 遠近それぞれで仁をも上回るっていう特化型の
[一言] どうにか追い出すことには成功した、と けど時間切れって……澪ちゃん(人間体)の方を爆破、とか?
感想一覧
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