表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

169/265

05 メインシップ奪還作戦5

 次々とオーバーライトで姿を現す人型ASIDの軍勢。

 

 その数に仁は圧倒される。

 これは八年前に第三船団の艦隊を大きく削っていったときに匹敵する規模だ。

 

 その一群の中に、隻眼の黒騎士も存在する。

 

「アイツ……!」


 やはり八年前のメルセでは仕留め切れていなかった。

 

 あの日抱いた疑惑。

 黒騎士は――人型AISDは澪に反応しているのではないかという物。

 少なくとも、三回あった遭遇時。

 その全てに澪が何らかの形でかかわっている。

 

 そしてこの四回目。

 果たしてどのような理由でここに現れたのか。

 

 第二船団も第三船団も思いがけぬ襲来にしばし動きを止める。

 そして周囲を見渡した人型ASIDの行動は――。

 

「来るぞ!」


 第二船団へと襲い掛かった。

 無論、元々ASIDが人類側を区別しているかなどと言うのは怪しいので偶々なのだろうが。

 

 その状況で、第二船団はどう動くか。

 共通の敵が現れた事で一時休戦となるか。

 

 そんな事を考えなかったと言えば嘘になる。

 そんな願望にも近い予想は、変わらず銃口を向けるアサルトフレームの姿で裏切られる。

 

「この状況でもやるつもりか!」


 第二船団は、第三船団との交戦継続を選んだ。

 こうなるとこの場はもう三つ巴の乱戦だ。

 

 三つ巴となったのならば、やるべきことは単純だ。

 最大限、敵同士で食い合って貰えば良い。


 数的には、第二船団が今も最大だ。

 しかし個々の戦力では人型ASIDも侮れない。

 少し戦えばどこが一番優位に立つか見えてくる。

 

 その数と、サイボーグ戦隊という質で第二船団は健闘していた。

 第三船団と人型ASID相手の二正面作戦を展開している。

 対応が随分と早い事が仁には気になった。

 

 未だ、第三船団側は混乱の中にある。

 戦線を下げて立て直そうにも上手く行かない程に。

 

 士気の下がった第二船団でこれほど早く対応できた理由。

 そう多くはない。

 

「こいつら、人型が来ることを予期していた……?」


 その理由も気になるところだが、第二船団の士気が持ち直したのも問題だ。

 先ほどまで自船団の不審な点を突き付けられて自らのアイデンティティを見失いかけていた。

 しかし人型ASIDという文句なしの敵が現れた事で、彼らはそれと戦う防衛軍であるという存在意義を思い出したのだ。

 

 こうなってしまうと簡単には突き崩せない。

 歯噛みしながら前線指揮官である仁は戦線を立て直す。

 彼の場合、それは指揮によるものというより、自ら戦線の薄い部分を補強して立て直させるという荒療治だったが。

 

 そうして一種の拮抗状態が生じると、徐々に隊列をずらしていく。

 第三船団と人型ASIDの群れが触れ合わない様に。

 第二船団の部隊を人型に押し付ける様に。

 

 第三船団と人型ASIDは味方ではない。

 それでも共通の敵を抱えているのだ。

 向こうも態々目の前の敵を無視して、第三船団を襲う程考えなしでは無かった。

 

 皮肉な事だと仁は笑う。

 第三船団部隊と人型ASIDによる第二船団部隊の挟撃。

 

 人間と戦うために、ASIDとの無言での停戦協定が結ばれたのだ。

 これを皮肉と言わずして何を皮肉といおう。

 

「第二船団を打ち倒すまで、人型には手を出すなよ!」


 要は順番の問題だ。

 一番手強い所を共同して潰す。

 三つ巴となったのならば当然の戦略だ。

 

 問題はやはりこちらの数。

 首尾よく第二船団を撃退できたとしてもその次は人型ASIDとの戦いだ。

 

 むしろ、対話の出来ない相手となった事でより早急に戦力は必要となった。

 

 だが、まだシップ1からビーコンが発信されない。

 

「……何をしているんだ……?」


 焦りが背筋を這いあがってくる。

 急がなければ。

 次に迎えるのは破滅だ。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 時は少し遡る。

 

 二機のレオパードが市街地を走る。

 警報も出ていない市街地でアサルトフレームが駆け抜けるなど前代未聞だ。

 だが今はそうするしかなかった。

 

 ただ見上げてくるだけの通行人が邪魔で仕方ない。

 どうせ視界スクリーンショットでも撮影してSNSにでもアップロードしようとし、通信が使えない事に憤っているのだろうと守は思った。

 

 自分だって何も知らなければそうする。

 一般人からすれば珍しい出来事だと思うしかないだろう。

 

「ダメだぜ姉貴! 無線通信は全部通じねえ! 近距離通信だけだ!」

「ちっ、あいつ等シップ1の通信を全て封鎖しましたね」


 訓練校から、司令部へと第二船団の裏切りを伝えた直後、直通回線すら切断された。

 艦隊が動き出したのは訓練校からも見えたので、向こうがそれを信じたのは間違いない。

 

 だが、残りの艦隊を招き寄せるビーコンは少し待っても発信されない。

 それを見たジェイクがつぶやいたのだ。

 

「これは、直接装置を起動させないとダメかもしれねえな」


 と。

 司令部の動きが分からない。

 もしも混乱しており、ビーコンの発信が遅れたら。

 それは第三船団の敗北だろう。

 

 その状態を前に仁の恩師でメイの上司でもある教官は緊急事態を盾に、二機のレオパードをビーコン発生装置――船団間通信に使用される通信塔へと派遣することを決めた。

 

「良いですか。もう一度言いますけど守は作業員の方たちの護衛です。絶対に前に出ちゃダメですからね」


 口を酸っぱくしてメイはそう言う。

 一年近く訓練してきた守だ。

 仁が教官になった直後のメイと同じくらいには動ける。

 

 だがまだまだ戦うには危なっかしい。

 機体操縦が出来る教官は今訓練校にはおらず、他の訓練生を募る時間もない。

 メイと行動を共にしていた守だけが直ぐに搭乗できるという状態だったので連れて来たのだが、メイは絶対に戦わせないと決めていた。

 

 逆に――絶対に戦闘になると踏んでもいた。

 

 これだけの事をしてきた相手だ。

 今更実力行使の一つや二つ躊躇わないだろう。

 

「……レーダーにリアクター反応だ。姉貴」

「シップ内で遣り合うつもりですね……正気ですかこの人たち!」


 二機のレイヴンがシップ内に侵入してくる。

 友軍、第三船団所属機だったらどれだけ嬉しいかと思うが――識別信号は第二船団の物だ。

 

 武装した機体は躊躇う事無くエーテルライフルの銃口をメイ達のレオパードに向けた。

 

「守! シールドを斜めに構えなさい!」


 発砲。

 エーテルの輝きが市街地を焼く。

 守機の構えたシールドがその火線を斜め上に逸らして、天頂スクリーン目掛けて飛ばす。

 遠くで、着弾して爆発するのが見えた。

 

 その段になって市民もこれが相当に異常な事態だと気付いたらしい。

 悲鳴と共に逃げ惑う。

 

「反応遅いんだよ!」

「ぼやいてないで動きなさい! 市街地に逸らさない様に! 車両を守りなさい!」


 通信モニター越しに見えるメイの必死の形相。


 それほどに状況は良くない。

 

「二機だけなのが救いですか……」


 向こうは通信塔を破壊すれば終わりだ。

 だから大した数を割かなかったのだろう。

 

 とは言え、レイヴン二機に対してメイはレオパード。

 守を参戦させられないという事を考えると二対一。

 

 きっとエースなら――メイの旦那ならばなんとかしてしまえる状況なのだろう。

 

「ああもう。どうしてこういう時に居ないんですかねウチのダーリンは」


 冗談めかしながらメイは軽くステップを刻みながら反撃する。

 エーテルライフルはやや上空に向けて。

 市街地への誤射を恐れて射角が限定されてしまう。

 

 向こうもそれを見透かした動きをしてくるのが嫌らしい。

 ビルを陰にしながら射撃してくる。

 

 それを避ければ、メイの背後でビルがいくつか撃ち抜かれる。


「……この卑怯者!」


 よくも防衛軍に身を置きながらこんな事が出来るなと罵倒する。

 市民を巻き込むことに躊躇いが無い。

 船団が違うとはいえ、同じ防衛軍として唾棄すべき相手だ。

 

 一方的な攻撃となるメイを援護しようと、守がライフルの銃口を上げて。

 鋭くメイが制止する。

 

「ダメです守!」

「でも姉貴が!」

「市民を巻き込んではいけない!」


 せめて、避難が完了するまでは。

 それでも流れ弾で犠牲は多い。

 

 更にはシップ内の通信は全て遮断されている。

 避難勧告も出ていないシップでそれだけ迅速な避難が出来るか。

 

「こういう戦いはあまり得意ではないのですが……」


 メイが得意とするのは高機動でのヒットアンドアウェイだ。

 こんな重力下での戦闘は不慣れだった。

 

 そして射撃の腕は以前よりは上がったとはいえ、ビルに隠れた相手を撃ち抜けるほどじゃない。

 

「守。私が惹きつけている間に車両を抱えて通信塔へ向かいなさい。絶対にそっちに射撃は通しませんから」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] いつもなら仁早く!だけど 今回はコウ早く来い!
[一言] いったいどうなるか……おい、旦那早く来いよ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ