03 メインシップ奪還作戦3
「通信ラインは確立したか?」
「まだです! デコイ用ドローンの分布状況が想定以下。もう少し船団側にも広がらないと……」
作戦としては何時か、仁が訓練生達を助けるために行った物と同様だ。
アサルトフレーム部隊の突入支援の為に放出された囮のドローン。
それらは単なる囮ではなく、通信中継用のドローンでもある。
大量に散布されたそれらは、宇宙空間では減速することも無く徐々に船団へと近寄っていく。
ただ想定外の事があるとしたら、第二船団が思った以上に優秀だったことだ。
開戦直後、レーダー頼りの打ち合い何て運が悪く無いと当たらないのが殆どだ。
ほんのわずかな銃口の傾きが数十キロ先では大きなズレとなるのは当たり前。
必然命中率は下がる筈なのだが、第二船団では水準以上の命中率を誇っていた。
その結果、ドローンの数が当初の目算よりも減ってしまった。
囮だと分かってしまえば相手もわざわざ撃ち落そうとはしない。
逆にこちらがドローン経由で通信をしようとしているとバレたら片っ端から撃ち落される。
故に、残ったドローンはあくまで役目を終えた事にして今はもう軌道変更もせずに漂わせていた。
軌道変更できない事で生じる無駄は数でカバーするという目論見は早くも崩れ去っていた。
指揮官である艦長としては思案のしどころである。
このまま、自然に通信が確立するタイミングまで待つか。
それとも相手が気付くことを承知でドローンを動かすか。
戦局は刻一刻と悪くなっていく。
元々の数も質も劣っている。
敵艦隊の数がこちらの七倍だと分かった時点で挟み撃ちに賭けるしかなかったのだ。
「……ドローンの軌道変更を行う! 迅速に通信を確保し、第三船団の残留艦隊と連携するぞ!」
その一声で、ドローンが一斉に動き出す。
囮としての役目を終えて通信中継用としての動きをしだしたドローン。
全体を見ている人間が居ればそれは通信確保のためだというのは一目瞭然。
故にここからはスピード勝負。
第二船団が通信を維持できないまでドローンを撃墜するか。
第三船団が援軍要請を届かせられるか。
「通信、シップ1からのシグナル受信!」
「防衛軍司令部を呼び出せ!」
「了解! ………………ダメです! 通信が封鎖されています!」
シップ1までは通信が繋がった。
だがそこから先がダメだった。
第二船団も分かっていたのだろう。
残留艦隊と連携されれば自分たちであっても厳しい戦いとなると。
故に、まずはそこへの通信は封鎖した。恐らくは物理的に。
残留艦隊は、第二船団が報告した討伐艦隊は全滅したという情報を信じている。
その前提が崩されてしまえば間違いなく動き出す。
だからこそ外部との通信だけを閉鎖した。
内部通信が問題なければ今の状態で司令部が異常に気付く事は無い。
外への対処は全て第二船団が行うと言えば立場の弱い第三船団は言いなりだ。
「他の軍関係施設も呼び出せ! どこでもいい! こちらの状態を伝えるんだ!」
そうしたドローンの動きは仁にも見えていた。
リアクターを一つリロードし、リミッターは外さない。
緒戦の段階で一つを使い潰して撃墜できたのは一機。
あのペースで戦い続けてもこちらが潰れるのが早い。
となると仁に出来るのは時間稼ぎだ。
そんな意識で生き残るのは容易くない。それでも最終的な勝利を掴むためにはやるしかない。
通信ラインは確立した。
ならば次はそれを守る番だ。
グリフォンの中でもドローンを狙おうとしている不届きものにとびかかって妨害する。
仁の動きで相手はドローンを狙いにくくはなったが、完全には防げない。
散発的な攻撃がドローンを打ち落としていく。
「各機! ドローンを狙ってる奴を狙え! 向こうに夢中で落としやすいぞ!」
仕留めようとしている瞬間が最も無防備。
それは敵味方問わない。
第三船団側の被害もそろそろ無視できなくなってきた。
眼前に切り込んできたグリフォン。
その太刀筋を真っ直ぐに受け止めず、受け流す。
高い推力を持つグリフォンだが、その勢いを逸らされると隙が生まれる。
前のめりになった機体に、後方からの援護射撃が突き刺さって、また一機撃墜。
その反撃に、第三船団のレイヴンも一機数を減らした。
しばし躊躇って、仁もシップ1に向けて通信を飛ばす。
軍用回線ではない。彼の私用携帯電話だ。
繋がるかどうかは賭けだった。
その賭けには――勝った。
『もしもし?』
「力を貸してくれ」
手身近に、現状を伝える。
◆ ◆ ◆
非常に簡素な現状を伝えて途中で切れた電話を見つめる。
全く、嫁が里帰りしていてよかったなとジェイクは苦笑する。
居たら絶対危険な事だと止められている。
「ジェイクさん。どうしたんだ?」
あのASIDの件以来、訓練校が休校となり、しかしどこかに姿を消した澪を思うとジッともしていられなかった守。
もしかしたら、と思って彼はジェイクの店に来ていた。
今日は、澪の誕生日だ。
もしかしたら彼女がここにいるかもしれないと。
そう考えたのだ。
同様にメイも息子はコウの実家に預けてここにいる。
「まずは良いニュースだ。仁の奴と連絡が取れたぞ」
「おや、教官は無事でしたか……ちなみに、うちのは?」
「……わりい、そこまでは聞けなかった。が、どうも俺達の頭の上では相当に面倒な事になっているらしい」
ジェイクは簡潔に要件を伝える。
第二船団の裏切り。
第三船団の司令部と連絡を付けて、他の残存艦隊の終結と、残留艦隊の出動を要請するという内容。
流石の仁も、短時間で要件を伝えなければいけない場でタイムリープがどうのこうのという話は省略した。
それを言い出せばどうしたってそちらに意識が取られるし、最悪その説明をしている間に通信を切断される恐れがあった。
「俺はちょっと今から軍本部に行って今の内容を伝えてくる」
「電話の一本でも入れればいいのでは?」
「見て見ろよ。今は全部圏外だ」
ジェイクの携帯電話の電波状態が圏外。
左手甲のそれを見せられてメイも自分の携帯を見て目を見開いた。
「……本当ですね。つまり、シップ内での通信が全て遮断されている?」
「それってあれか。ジェイクさんのどこに東郷の親父さんから連絡があったからって事か?」
守が首を捻ってそう尋ねる。
他に理由が思いつかなかった。
「多分な。通信が繋がってるのを検知して切断したんだろうよ。そして、自由に通信が出来ない様にシップ内の通信を全て切断した」
こうなってくればシップ内でも異常に気付く。
だと言うのに今は警報の一つもなっていない。
その事が却って異常事態を際立たせていた。
「それじゃあ行って来るぜ」
見ればハイパーループも停止している。
通信も物流も寸断するつもりのようだ。
ジェイクに残ったのは己の足だけ。
それを見かねて、メイは引き留めた。
「……ジェイクさん、守。訓練校へ行きましょう」
「姉貴まで。何しに……」
「そうか。訓練校なら司令部への専用回線がある。流石にそっちまで連中も手が回っていない可能性が高いか」
「それに訓練用のレオパードがありますからね。何が起こるか分かりませんから。念の為です」
念の為と言いながらメイは一騒動を予測している様だった。
「あいつら、そこまですると思うか?」
「第二船団からすれば情報封鎖は命綱ですから。なりふり構わないと思います」
「俺も行く! レオパードなら俺だって操縦できる!」
「何言ってるんですか未熟者が」
「今の一回生の中じゃ俺の腕が一番だって姉貴も知ってるだろ! それに、姉貴たちだって今くらいの時に実戦経験したって聞いたぜ」
「……着いてくるだけですよ」
ここで強く拒否してもどうせいう事聞かないだろうと思ったメイは、同行だけは許可する。
三人で訓練校目掛けて走り出し――。
見る見るうちにメイが遅れて結局守が背負って走る事になった。
「姉貴体力落ちてねえか!?」
「守は立派になりましたね……ちなみに澪ちゃんと私の体重は大体一緒なので私が背負えるなら澪ちゃんも背負えますよ」
「その情報今は要らねえ! でもありがとう!」
この非常事態に聞かされるような内容ではなかったが、ちょっと知っておくと得をしそうな情報だった。
礼を叫びながら守は走り続ける。
汗だくになりながら、訓練校へと駆け込んだメイは僅かに残っている教員を集めて先ほどジェイクから受けた説明を繰り返す。
その内容に懐疑的な意見は多かったが、最終的には最年長――になってしまった――教官にして仁達の恩師が周囲を説き伏せた。
「もしもこれがガセだったら私が全て責任を取る。本当だった場合は第三船団が第二船団に征服される瀬戸際だ。動くよ」




