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13 デッドライン

「前に進むぞ」


 しばしの逡巡の後、仁はそう決断した。

 

「しかしこの状況で作戦の継続は困難です」

「そうだな。同時に組織立った撤退も無理だ」


 何しろ通信が不可能なのだ。

 古来宜しく、伝令兵でも走らせるしかない。

 そんな状態で突入部隊全員に撤退を知らせる事は不可能だ。

 

「一部が退けば取り残される部隊が出てくるだろう」

「しかし、我々がその取り残される部隊になる可能性も有ります」

「かもしれない。だが、この作戦に選ばれる様な連中だ。どいつもこいつも退くより前に進むことを選ぶだろうよ」


 他の部隊が同じように考えてくれなければ、仁の決断も意味がない。

 首尾よくプロセッサーに辿り着いたとしても、他の全てを同時に破壊しないと無駄骨だ。

 

 どちらが正解かなんて終わってみなければ分からない。

 ならば仁は前に出る方が好みだ。

 

「プロセッサーの同時破壊はどうするつもりですか」

「同時に破壊する必要はない。破壊して、再生する度に破壊し続ければいい。他の部隊が残りを破壊してくれるまでな」


 要は、他の部隊を信じるか否かだ。

 

「それに外も通信が途切れた事を把握しているはずだ。多分、あいつが何とかしてくれる」

「アイツ?」

「こういう不測の状況の時にちゃちゃっと便利な物作れる奴がいるんだよ」


 長い付き合いの整備士を思い浮かべながら仁はそう言う。

 本人が聞いたら信頼が重い! と悲鳴をあげるだろうが、仁は信じている。

 

 背に背負ってるものもちゃっちゃと作ってしまったような在り物を組み合わせるのが得意な奴だから。

 通信が途絶えたと聞いて彼女が無策で居る筈が無いと。

 

「兎に角前に進むぞ。プロセッサーに辿り着かなければ話にならない」


 今の今までも移動し攻撃をしながらであったが、その速度が一段と上がる。

 オービットパッケージの追加スラスターに溜め込まれたエーテルを全て使い切り、切り離す。

 加速したままのスラスターユニットはそれ自体が一つの質量兵器だ。

 妨害の格子を力尽くで突破して、更に仁の中隊は奥へ進む。

 

「妨害は格子に砲塔だけ……妙だな」


 余りに手緩い歓迎に仁は訝しむ。

 突入直後に来た対応の速さに反して、それ以後の動きが鈍い。

 もっと色々とやらかしてくるのだと思っていたのだが、今の仁達にとっては大した妨害にもならない二つだけだ。

 

「全体としてはこれで十分すぎる程妨害できている、という事ですかね」

「かもしれん。だとしたら厄介だ」


 自分たちだけが突出しても意味が無いのだ。

 最低でも六部隊。それだけが生き残らないと作戦は破綻する。

 

 分岐を戻り、他の部隊への救援――いや、無意味だ。迷子になってしまうのがオチである。

 

 信じて進むしかない。

 そうして進んでいくと仁は己の中に疑心が芽生えるのを感じる。

 

 本当にこれで良いのかと。

 前に進んでいるのは自分たちだけで、他の部隊は皆撤退してしまっているのではないか。

 

 考え出せばキリがない。

 

 幾つかの分岐を通り過ぎ。

 何個目かの合流地点に達したところで――。

 

「三時警戒!」


 目ざとい一人が通路の先の動きに気が付いた。

 敵かと警戒し、だが直ぐにリアクターの反応を検知してそれが違うと分かる。

 

 そこから現れたのはレイヴンの一群。即ち友軍だ。

 

『おお、我々以外にも前に進んでいる部隊が居たか!』


 相手も同じ疑念を抱きながら前に進んでいたのだろう。

 互いを認めた時の歓喜度合いは似たような物だった。

 

「ええ! 撤退して取り残すよりはと!」

『こちらも同じ考えだ! マップデータを共有しよう。プロセッサーは?』

「今だ未発見です」


 両部隊のマップを統合すると結構な範囲が明らかになる。

 とは言え一方向だけだ。

 

「……すみません隊長。一つ気付いたのですが」

「何だ?」

「マップのこの方角。未踏破の領域ですが、外部から見た際にこの辺りが頭部になる筈です」


 共有されたデータリンク上の地図の色が変わる。

 なるほど確かに。現在仁達が進む先にあるのは頭部だ。

 

 そしてASIDのプロセッサーは改めて言うまでもなく頭部に多い。

 目指す方向としては悪く無いだろう。

 

「我々の部隊はこちらに向かいます。そちらは?」

『同行させていただきたい。恥ずかしい話だが、先程から砲塔に追い立てられているような状態で……』


 言われてみれば、合流したレイヴンは少々損傷が目立つ。回避しきれずに被弾しているのだろう。

 数も中隊の充足数である12から減じている。


『単独ではその内全滅しそうなのです。ならばせめて友軍の盾となった方が良い』


 その言葉は無事の帰還を諦めているような物だった。

 先ほどの妨害の件を思い出す。

 やはり、あの二つだけでも厳しめの状況に陥っている部隊は居るのだ。

 

「分かりました。共に向かいましょう」


 そうして数を増したレイヴンの編隊が更に奥へと進む。

 頭部に近い辺りまで来たところで、超大型種側にも動きがあった。

 

「何だ?」


 ふよふよと浮いている円盤状の何か。

 強いて近い物を挙げるのならば移民船団でも使用されているドローンだろうか。

 

 ただそれは移民船団製の物では無い。

 砲塔からの砲撃も受けず、ただ無造作にこちらへと接近してきていた。

 

「……何だこれは」

「リアクター反応はありません。脅威度は低い……筈ですが」


 不気味だ。

 そして人類の物でなければASID。

 むざむざと近寄らせる必要もない。

 

 無造作にエーテルライフルから放たれた弾丸が、弾かれた。

 

「何!?」


 その行動が引き金となったのか。

 急に機敏な動きを取りながらやはりエーテルの弾丸で攻撃してくる。

 それと同じ姿をした物体が更に十、二十と数を増して通路の奥から迫ってきた。

 

「くそっ! どうなってるんだこれ!」


 あの強度はエーテルコーティングで間違いない。

 そして今の攻撃もエーテル。

 中にはエーテルの刃を展開しながら突っ込んできているものもある。

 

「リアクター反応も無いのにどうしてエーテルを使ってくるんだよ!」


 その矛盾に隊員の一人が悪態を吐く。


「……っ! そうか! そういう事か!」


 一つのひらめきが仁に答えを与えてくれる。

 もしもこの考えが当たっているとしたらふざけた話だ。

 

「ここは奴のエーテル循環系。まだ未加工のエーテルが流れている場所だ」


 それはリアクターから巡り巡って、各所に届けられて加工されて攻撃防御機動に使われる。


「だったら奴の一部は、リアクターが無くともここのエーテルを使えるはずだ」


 言ってしまえば無線充電の様な物だ。

 離れていてもエーテルの供給が受けられる。

 

「……こいつは面倒だぞ」


 そこそこに硬い。

 エーテルライフルを二、三発も叩き込めば破壊できるのだがちょこちょこ動くので砲塔よりも当てにくい。

 

 そして機動力が意外とある。

 現に、こうして駆け抜けようとしているレイヴンの後を追ってきている。

 

 先ほどまでの様に邪魔な砲塔は破壊して、残りは無視するという様な事が出来なくなっている。

 下手に無視すると対処不能な数となる恐れがあるのだ。

 

 撃ち落すしかない。

 だがその撃ち落す間僅かだが足は止まり砲塔が狙って来る。

 

「人間でいうところの白血球の様な物でしょうか」

「だったら赤血球も用意して置けって話だな……片っ端から撃ち落してエーテルの供給妨害してやるのに」


 ぼやきながらも仁は考える。

 突破は可能だ。

 

 丸のこの様に回転しながら突っ込んでくる円盤型に、一機のレイヴンが胴体から真っ二つにされた。

 あの位置ならばコックピットは無事だろうが、リアクターが完全に破壊されている。

 敵中で機体を失った以上、死んだも同然だ。

 

 せめてもの仇とばかりに、収束したエーテルダガーの一撃で切り捨てる。

 倒せることは倒せるのだ。

 だがこれを何度繰り返せばプロセッサーに辿り着けるのか。

 

 今仁が一機落とす間に、また奥から二機が追加された。

 逐次投入など各個撃破の的のハズなのだが、こうして延々と追加されると終わらないおかわりをしている気分だった。

 

 補給の当てもない。

 こんな戦闘が繰り返され、そして時間が経てばたつほどに相手は更に対応してくる。

 今でこそこちらも対応可能だが、これ以上時間をかければ仁達でも対処困難な何かを繰り出してくる可能性もあった。

 

「これは、不味いかもな……」


 状況の好転。その兆しが見えなかった。

 少なくとも内部からでは無理だ。

 外部――艦隊側からの働きが無いと状況の打破が出来そうにない。

 

「……頼むぞ」


 外の彼らが現状を放置しないと信じているからこそ、前に進むという選択肢を取れたのだから。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、退けばどうにかなる相手じゃないしなぁ 破壊し続ければ良いとか脳筋思考にも程があるけどw にしても、予想通りに対応が早い件 まだ雑魚だけど……
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