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30 澪の誕生日1

「澪の誕生日なんだが……誕生日って何をすればいいんだ」

「中尉中尉。私先月誕生日だったんですけど」

「飯奢ってやっただろ!」

「なあ、仁。俺も9月誕生日だったんだぜ」

「おめでとう」

「それだけかよ!」


 訓練校の食堂。

 講義を一通り終えて、澪が来る前の僅かな時間。

 年も明けて数日。

 イベントも一段落着いた頃だ。

 

 1月16日。澪と仁が出会った日であり、法的な澪の誕生日である。

 

「正直、子供の誕生日何て祝ったこと無いから何をすればいいのかわからん」

「つっても俺もそんな派手な事やってたわけじゃないしな……」

「うちはパーティーしてましたね……関連企業の人呼んで」


 普段は澪のことで散々相談に乗って貰っているシャーリーだったが、今回は戦力外になりそうだった。

 根本的にお嬢様である彼女の常識に合わせると仁の財布でも流石に厳しい。

 

「誕生日ケーキとプレゼントは鉄板だろ」

「確かに」

「蝋燭立てたりしましたね。年齢の数だけ」

「なるほど」


 プレゼントに何を用意するかはまた考えるとして、ケーキと言うのは仁の中にも記憶はある。

 

「……子供だからって特別な事はしないんだな」


 令に祝ってもらった時の事を思い出し、令を祝った時の事を思い出す。

 今のところ、蝋燭の数以外は記憶にある物と同じと言える。

 

「家によると思います」

「んだな。うちなんか肉食わせてもらったくらいだ」


 そんな物かと仁は肩の力を抜く。ちょっと過剰に身構え過ぎていたかもしれない。

 ただ。

 

「でもなんかこう。パーッと気分の晴れる様な事はしてやりたい」

「あ? 澪の嬢ちゃんは何か落ち込んでんのか?」

「そんな様子は見えませんでしたが……」

「うちに居る時だけか? 何か元気ないように見えるんだよな」


 うーんと、年長者三人で首を傾げる。

 今のところ気付いているのは仁だけのようだった。

 

「まあ良い。とりあえず準備するか」

「プレゼント、手伝いましょうか?」

「いや。ここは俺が選びたい。最初の誕生日だしな」


 失敗はしたくない。

 だけど、他人に頼るのもここは違うと思う。

 

「夏みたいに皆を呼んでパーティーでもすんのか?」

「今年はやめておく。家でこじんまりとケーキ食べるさ。来年は澪と相談だな」

「ならプレゼントは前日に会ったら渡しておきますね」

「俺も気合を入れて選んでおくぜ」

「二人とも悪いな」


 何も言わずとも娘の誕生日を祝うつもりの二人に仁は素直に礼を言う。

 正直、仁が一人で選んだ物よりも喜びそうなのが怖いが。

 

「で、さっきから気になってたんだが……ひよっこたちは何があったんだ?」

「ああ……あれな」


 陸地に打ち上げられた魚。

 そんな単語が仁の頭を過る。

 

 メイが今にも死にそうになっていた。

 ユーリアが甲斐甲斐しく世話を焼いて、コウも心配なのかチラチラと視線を向けている。

 何時もは三人揃って突っ伏しているかなので珍しい状態と言える。

 

「ベルワール訓練生が大分疲れたみたいでな」


 その理由も仁も察せられる。

 寿命を縮める一因だったナノマシンによる肉体強化。それを取りやめたのだろう。

 寿命と言う不確かな物はこれからどうなるかは分からないが、強化の有無と言うのはこの上なく明瞭だった。

 

 メイの高速機動。それを支えていた対G耐性。

 それが失われた結果だ。

 何時もと同じ調子で動こうとして、体力をごっそりと持っていかれたらしい。

 

(と言っても、動き自体はそれほど悪くは無かった)


 短時間ならば問題ないのだろう。

 ただ、戦闘が短時間で終わる保証もない。

 長引いた時にまともに動けなくなるのでは軍人として戦うのは危険だ。

 

 後はこの後も訓練を継続してどれだけ体力を、戦闘時間を伸ばせるかだが……。

 

 メイの矮躯で実戦に出るのは厳しいだろうと仁は言わざるを得ない。

 ただ、それについては一つ仁に考えがあった。


「あ、澪ちゃん来ましたね」

「おとーさんただいま!」

「おう、おかえり」

「来たな嬢ちゃん。今日は何食べてく?」

「んとね、このほいるやきって奴!」


 何時も通り、果敢に初めて見る料理に挑んでいく澪。

 妹分の到着に、メイはどうにか身体を起こそうとしてユーリアに止められていた。

 無茶すんな。

 

「とーやくんのお兄さん。こんばんは!」

「ん。何時も通り元気だな澪助は。守も元気にしてるか?」

「うん。とーやくん、今日もかけっこでみおに負けた!」

「……そうか」


 それは元気なのか? とコウは疑問に思ったみたいだった。

 一応肯定だったので元気なのだろうと自分を納得させた様だが。

 

「澪ちゃん、今日はご機嫌ですね。何か良いことありましたか?」

「うん! えっとね、あのね。ホントは内緒なんだけどね」


 自然に笑顔を浮かべながら、澪はメイの耳元で囁く。

 

「実はとーやくんの家に今度遊びに行くの」

「おお、それは良いですね。楽しんできてください……ん? それってつまりコウの家では?」

「ん? 澪助うちに来るのか。しかし守の奴……やるな」


 そんな会話を三人で眺めながら。

 

「いつも通りに見えますね」

「いつも通りに見えるな」

「二人とも離せ! 今澪が重大なこと言ってた! 確認しないと!」


 暴れる仁が落ち着いた辺りで、やっぱり気のせいでは? という視線が二人から突き刺さる。

 

「まあちょっと気を付けて見てて貰えると助かる」

「分かった分かった」


 全く、心配性な親めと言う視線を向けられているが仁はそれには気付かない。

 

「そうそう中尉。今晩ちょっとお邪魔しますね」

「何か用か?」

「用が無ければ行っちゃいけませんか?」


 即座にそう切り返されて仁は言葉に詰まる。

 いや、これがシャーリーの駆け引きの一つだというのは分かっているのだが、ちょっとドキッとする。

 

 二人きりだとむしろ軍人としての空気が強く出てしまうのだが、間に澪が居るとお互いに素が出る。

 それは六年前には無かったお互いの隙で。

 その隙間から見え隠れする物は、仁が令に感じていた物とちょっと近くて。

 

 言い換えると、澪が居ないと軍人としての関係以上にはならないのだが。

 

「別に、いけないって事は無いが」

「まあ今日は用事があるんですけどね」

「なら何で聞いたんだよお前……」


 そんな二人の会話をジェイクはにやにやと眺めていた。

 そしてその日の夜。

 

「別にこれ、何か急ぎの情報と言う訳ではないんですが中尉は多分知りたいと思いまして」


 その呼び方が真面目な話だという事を示していた。

 

「何だよ、第二船団絡みか?」

「まあ遠からずですね。一個目はハロルド兄さんが帰船します。兄さんが第三船団で何かやろうとしてたことが終わったのかまでは分かりませんが」

「何しに来たんだろうな、結局」

「分からないです。表向きは兎も角。裏では正直何もしていなかった……と言うか何も出来なかったんじゃないかと」

「まあ正直、あいつらが何を企んでいようと第三船団に害が無いなら正直どうでもいいんだよな」

「それは同感です。ハロルド兄さんも悪人ではないので、トータルで見れば人類に被害が出る様な事はしない筈ですし。まあ善人とも言い切れないんですけど」

「妹からその評価ってのはどうなんだろうな」


 まあ、仲が良いのだろうと仁は思う。

 

「もう一つは……中尉が見たという超大型種ですが」

「ああ。アイツか……」

「船団は存在を認識しています」


 仁の目が大きく見開かれる。

 

「確定情報か」

「はい。ハロルド兄さんの表の理由はそれです。超大型種と船団戦力の比較。大分先になりますが移民船団はあれと一戦交えるつもりみたいですよ」

「……そうか」


 仁はしばし目を閉じて、何かを考えている様だった。

 

「正直、俺はパイロットは引退するつもりだった。澪のこともあるからこのまま教官職を続けようと思っていた」

「はい。そんな気はしてました」

「だが、奴を倒す計画があるなら話は別だ」


 指輪を固く握りしめる。

 仁の表情はフラットだ。だがそれは何も感じていないからではない。

 爆発寸前にまで高まった感情が、嵐の前の静けさを齎しているだけだ。

 

「アイツだけは俺が殺す」


 令を奪ったASID。

 一人では絶対に勝てない。

 船団の総力を挙げても勝てるか分からない。

 復讐の機会は訪れないと思っていた。

 

 だが――その有り得ない筈の機会が来ると分かったのならば。

 

「教えてくれてありがとう。軍曹。俺は……」

「現役復帰する、ってのは澪ちゃんが悲しみますよ。何時も留守じゃかわいそうです」


 少し、澪と出会う前の顔に戻っていた仁にシャーリーは釘を刺す。

 誕生日プレゼントがそれでは余りに可哀そうだ。

 

「勿論、分かってるさ」

「本当ですか?」

「ああ。流石に前線配置は希望しないさ。出すのは教導隊への転属希望だ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 分かっていない澪ちゃん&親バカ仁ww メイは以外といける?体力次第とはいえ…… さて、仁は教導隊に行って何をする気なのやら。バグエース量産?w
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