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22 メイの悩み

 結論から言うと、今回の出来事で第二船団は多大なペナルティを受けた。


 惑星メルセに対する調査不足。

 派遣部隊の独断専行による対クイーン戦の開始。


 そうした諸々から第三船団に対して多額の賠償金を支払うことになった。

 加えて、通常撃破した船団の物となるクイーンタイプの残骸も、第三船団が獲得することになった。


「扱い小さいな……」


 当事者であった仁としては大事件だったのだが、船団からするとそれほどの大きな出来事ではない。


 確かに結果だけを見れば死傷者の数は規模の割に小さい。

 通常の対クイーン戦闘でももっと大勢出ていることを考えれば、二十人程度というのは少ないほうだ。


 だからといってその数が遺族の悲しみを癒やしてくれるかといえば……そんなことはないのだが。


 余りに不可解なことが多い出来事だった。

 惑星メルセの調査不足。

 異様に早い、第二船団の介入。


 そこだけ見ればやはり、第二船団が何かの謀を巡らせているのだろうと思えるのだが……やはり目的が分からない。

 最終的な結論だけを見れば。


 第二船団は丸損だ。

 第三船団に賠償金を払い、クイーンの残骸も奪われた。


 今回の出来事で何も得た物がない。


「それとも何か得てるのか?」


 単にクイーンを撃破したという名声が欲しかった。とは考えにくい。

 それを加味したとしてもやはりマイナスの方が大きいのだから。

 何かしらの実利があると考えるのは当然。


「……軍曹に聞いてみるか」


 少々、外で話すには障りの有る内容だ。

 そうなると、これまで通り東郷宅で話し合うべきなのだろう。が、呼んでも大丈夫だろうかという懸念が有る。

 また押し倒されたらどうしよう、などという乙女な事を考えているわけではない。多分。


 もう一つの奇妙な出来事。

 黒騎士の唐突な出現。


「……」


 その事を考えようとするのは仁も努めて避けていた。

 黒騎士の出現パターン。

 そこに何かしらの理由を見つけようとすること。

 それを深く掘り下げることを忌避する。


 煮詰めて行けば。

 いずれ結論が出ることが分かっていた。


 そしてその結論に対して有る予感があった。


 だから目をそらす。

 偶然だと声を張る。


 そこに必然なんて無いと何度でも言う。考えすぎだと。

 

 どれだけ己の直感が訴えかけて来ても仁は今を維持することを選んだ。


「おとーさん! お見舞い行く!」


 仁が考え込んでいると、着替え終えた澪が手を引いて急かしてくる。


「待て待て。慌てなくても東谷くんは逃げない」


 惑星メルセでの事件から今日で五日。

 ASIDに襲われて重傷だった守が一般病棟に移されたので、早速お見舞いに行こうとしていた。


 遠征訓練は言うまでもなく中止だ。

 訓練校も今はカリキュラムの見直しも含めて休校中だった。

 

 お陰で仁にも時間が出来る。

 こうして色々と考える時間が。


「はやく、はやく」

「今行くから少し待ちなさい」


 お見舞いを楽しみ……というと障りが有るが、心待ちにしていた澪に急かされて仁も支度を整えて家を出る。

 ここしばらく、落ち込んだ様子を見せていたのでこうして元気な姿を見れると安心できる。


 仁もよく世話になる病院。

 そこに守ともう一人が入院していた。


「失礼します」

「お邪魔しまーす」


 東谷守と名札の付けられた病室を尋ねると、案の定そこには三人居た。


「お。東郷と、東郷のお父さん」

「とーやくんお見舞いに来たよ!」

「これ、お見舞いの品。フルーツ盛り合わせ」

「ありがとうございます! あとで味わって食べます!」


 病院のキューブフードは特に不味い。

 味なしではないかという程に味が薄いのだ。

 その分、栄養素は豊富らしいが……罰ゲームでもない限り、仁でさえ食べたくはない。

 まともな味のする果実に守はお見舞いに来てくれたと気付いたときより嬉しそうな顔をした。


「教官。それにチビ助も」

「む、みおチビじゃないよ。一センチ伸びたんだから」

「そうか。悪かったな澪助」


 守の兄であるコウは聞けば毎日通っているらしい。

 訓練校が休校でちょうど良かったというべきだろうか。

 まあ通っている理由は弟だけではないようだが。


「おや、教官に澪ちゃんもお見舞いですか? モテモテですね、守は」


 そして3人目はメイだ。

 私服姿のコウと違い、パジャマ姿。彼女が見舞い客ではなく入院患者であることを示している。


 先日から保留になっていた件。

 メイの身体についての検査をこの機会にまとめて行ってしまおうとしていた。


「東谷くん、身体の調子はどうだ?」

「大分良くなりました。ありがとうございます」


 その受け答えを見てふと思う。


「なあ笹森訓練生。彼、お前より言葉遣いちゃんとしてないか?」

「……どうでしょうね」


 偶にお前、崩れるよな? と視線を向けたらどうとも取れる答えと共に視線がそらされた。

 どうやら少し気にしていたらしい。


「しかし……本当に良かったな。大した事にならなくて」

「全くですね。偶々ASIDの注入したナノマシンが傷口を塞ぐ結果になっていた何ていうのは奇跡です。それがなければ今頃は……」


 死んでいたかASIDか。

 どちらにしても碌でもない。


「ベルワールの姉ちゃん、怖いこと言わないでくれよ……」

「メイ。お前守を怖がらせに来たのか?」

「いえいえ。でもこの子コウよりも素直で反応が面白くて……」

「めいおねーちゃん、とーやくんいじめちゃダメ!」


 からかいに熱が入りそうになったメイを澪がメッと叱る。

 バッと手を広げて、守を背にかばう。


「おや、澪ちゃんが代わりに相手ですか。良いでしょう……捻り潰してあげますよ」

「ま、負けないもん!」

「なあ兄貴。これどういう状況なんだ?」

「気にするな。メイの悪ふざけだ」


 澪の脇腹をくすぐって笑わせようとするメイだったが、澪はノーリアクション。

 くすぐり耐性が強すぎた。


「ベルワール訓練生。余り病院でふざけるな。他の人の迷惑になる」

「はーい。また訓練校で遊びましょう。澪ちゃん」

「分かった!」

「いや、訓練校でも遊ぶな……」


 仮にも教育機関を遊び場として捉えているのはどうなのか。


「そういえばナスティン訓練生はいないのだな」

「ユーリアですか? そういえば今日はまだ来てませんね」

「何か今日は家族で食事するとか言ってなかったか」

「ああ、そうでしたそうでした。訓練校も休みだからとか何とか」


 訓練校では何時もこの三人セットだったが、流石に訓練校の外まで常に一緒というわけではないらしい。

 まあ当然か。と仁は思う。

 自分たちの代の問題児トリオ……つまり仁とシャーリーとジェイクだって四六時中一緒だったわけじゃない。


「あ、そうだ教官。ちょっと良いですか?」

「うん? 何だ」


 澪と守がベッドの上で学校の話をしだして、澪をベッドから下ろすか今のままにするか悩んでいた仁はメイの言葉にその思考を打ち切った。


「ちょっと検査結果で相談したいことがありまして」

「ああ……構わないが……」


 何故自分に? という疑問を抱きながら仁は頷く。


「じゃあ私の病室行きましょう」


 ちらりとメイはコウに目配せする。

 心得たとばかりに頷くコウの姿を見て、随分と仲良くなったものだと仁は感慨深くなる。


 引っ掻き回す……もとい教官として手を出した甲斐があった。


「こちらの病院で検査してわかったことがありまして……どうも、肉体改造されていたっぽいんですよね私」

「待て。そんな世間話のノリで重要な事を言うな」


 いきなり打ち込まれた豪速球に仁は手のひらを突き出して遮る。


「あー念の為聞くが、ベルワールはそれを知っていたのか?」

「まさか。あの医者の言うことをすっかり信じてましたよ。高額な治療で寿命を伸ばすって」


 元より違法クローンを作っていたような医者だ。

 まっとうな倫理観など期待はしていなかったが……想像以上だ。


「で、どうやら私の寿命問題ってその処置に合ったみたいで」

「つまりその施術をやめれば」

「人並みとまでは言いませんが、それなりには生きられるみたいですね」

「そうか……良かったな」


 全てが元通り……というわけには行かないようだが、それでも今よりも状況が改善される。

 そう聞いて仁は素直に良かったと思ったのだが、メイの表情は浮かない。


「ただ、施術をやめれば私の肉体強化は途切れるみたいです」

「そうなのか……? いや、ちょっと俺の思ったものと違って驚いているのだが……」

「ナノマシンを使った一時的な肉体強化みたいですね。定期的に処置しないと効果が途切れる上に処置するたびに肉体寿命が縮んでいきますけど」


 それは多分、まだ実験段階の代物だろう。ナノマシンを使った肉体強化はまだ認可が降りていないはずだ。

 違法な実験なのだから合法化されたもののはずがないとは分かっていたが。


「それで、ですね。私の強化されていた内容っていうのがG耐性だったみたいで」


 そこで漸く、仁はメイの躊躇いの理由に気付いた。


「一般人並になってしまった私でもパイロットを続けられるでしょうか?」


 強化がなくなれば、メイは操縦士としての素質を失う。

 それが躊躇いの理由だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] あー、なんかバランス悪いと思ってたら強化措置か 違法クローンを作るような医者ならやるよなぁ…… で、強化措置を止めてパイロットは……これからの頑張り次第かも?
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