21 ただの前哨戦6
それは援護のタイミングであったり、敵の攻撃を誘導するタイミング。
一歩早く仁が動く。
連携の不協和音になりかねない行動を、仁は己のソロパートに変えてしまう。
「そこっ!」
他の機体を狙った砲口を狙い撃つ。
ぴったりと誂えたかのように吸い込まれていったエーテルの弾丸がクイーンの防御を内側から食い破る。
対空砲火の一部が薄くなった。
データリンクで受信した敵のプロセッサー位置。
そして最も厄介な敵主砲とも言えるエーテルカノン。
どちらをまず潰すかと言えば――後者だ。
あれがある限り、このクイーンは常に一発逆転の鍵を握っていることになる。
サイボーグ戦隊も同じことを考えていたのか。
火力が集中されていく。
だがまだ足りない。
それに可動範囲の多いエーテルカノンは狙いを絞るのが難しい。
となると。
「智。手伝え」
『他の連中に噂されたくないんだけど』
「中等学校の生徒みたいなこと言ってるんじゃないよ。あの鼻切り落とすぞ」
『鼻?』
象を知らんのかとぼやきながら仁は駆けだす。
アサルトフレームよりも太いエーテルカノン。
それを斬り落とすとなると流石に一機では手に余る。
他の協力してくれそうなサイボーグ戦隊が思いつかない以上、仁は智に頼むしかない。
「ああ。それとも……俺にはあの射撃を掻い潜れるけどお前らには無理だったか?」
『その大言。後悔させてやる』
大いにプライドが傷つけられたのだろう。
口早に上官にも許可を取り、即席コンビが誕生する。
「やる事は簡単だ。根元から叩き斬る」
『なるほど。タイミングを合わせて両側面からのエーテルダガーによる斬撃。頭おかしい作戦だな』
だが――効率的だ。
少なくともこのままグリフォンが射撃を続けるよりも。
「行くぞ。着いてこい」
『冗談言うな。そっちが着いてこい』
二機が駆け出す。
友軍の援護射撃――と言うには仁のレイヴンに射線が偏っていたが――を背にしながらの突貫。
息が合わなければ。
少しでもミスがあったら。
撃ち落されるのは自分だ。
その恐怖を微塵も感じさせずに前へ前へ進んでいく。
(やっぱやるな……)
無論、掻い潜るべきは味方の攻撃だけではない。
敵の砲火も近寄れば寄るほどに激しくなっていく。
踊る様に、滑る様に。
地上の滑走だけでそれを回避する仁のレイヴン。
空中で宇宙空間とそん色ない機動力を発揮し、回避する智のグリフォン。
重力がある中で時に空中で急制動を掛けながら飛ぶ。
それだけでも卓越した技量が必要だ。
こうして仁の後に着いてくるだけでも相当な腕前と言えた。
そうして掻い潜った先。
真正面に立ちふさがるクイーンのエーテルカノンの砲口。
今にも弾けそうなその輝きを前に仁は――。
「突っ込め!」
叫びながら己も退かない。
抜刀したエーテルダガー。
それを相手の鼻先下半分へと沿わせていく。
丁度半分まで食い込んだ刃を進ませていく、がそれだけでは足りないだろう。
砲口は破壊されつつあるが、上半分が残っている。
このままでは仁は死ぬ。
エーテルの輝きに焼き尽くされる。
だというのに突っ込んでいった。
それが智には少し悔しい。
「何でそんなあっさり信じるんだ」
ここで智が臆したら。そう考えなかったのだろうか。
きっと考えもしなかったのだろう。
仁に寸分遅れることなく、智のグリフォンが砲口の上半分を切り裂いていく。
真っ二つにされていくエーテルカノン。
行き場を失ったエーテルが爆発し、エーテルカノンを基部から吹き飛ばした。
その一連の行動もやはり無意識なのだろう。
外様でありながら、自分こそが主であると言わんばかりの行動。
気がつけば240機が仁の援護に回っているような形だ。
そしてそれがクイーンへの攻撃効率を跳ね上げている。
エーテルカノンを潰したことで、巡洋艦が狙撃される恐れも低くなった。
回避よりも火力の投射を優先させることが出来る。
「『アル』! 支援砲撃要請だ。座標を送信する! 29秒後に頼む!」
更には防衛対象からの援護射撃。
回避しながらでは突破できなかったクイーンの防御を、一点集中させた火力で突破させる。
クイーンの意識を偏らせて、守りの薄い部分を作り出す。
それは言葉にするのは簡単。
だがそれを実現するためにサイボーグ戦隊がどれだけ苦労していたか。
巡洋艦クラスの攻撃で弱らせた後、戦艦クラスの火力が叩きつけられる。
堪らず、クイーンの足が膝をつき動きが停まった。
目に見えてダメージを蓄積し始めたクイーンの姿。
「……恐ろしいものだな」
それを見てサイボーグ戦隊の指揮官が小さく呟く。
仁は何かを指示しているわけではない。
ただ己の行動で語っているのだ。
俺はこうする。
お前たちはどうする? と。
それに乗せられるとこれほど上手く回るというのが指揮している本人にも信じられない。
「天賦の才か……なるほど。ハロルド殿が警戒されるのも分かる」
個人の戦闘力としても恐ろしいが、こうして連携を取れるだけの戦力があればその驚異度は跳ね上がる。
第三船団にとっての不幸は、仁のその行動に追随出来る者が居なかったことだろう。
もしも彼の生まれが第二船団であったのなら。その仮定に意味はないが、もしかしたら仁の撃墜数は桁が一つ増えていたかも知れない。
そんな可能性を感じさせる戦いだった。
それが何の強化処置も施されていないのだというのだから世の中の不公平さを感じる。
そして遂に。
クイーンの装甲が弾け飛ぶ。
露出した2つのプロセッサー。
同時に破壊すべき目標。
『タイミング同期よし……斉射!』
一斉に240機のグリフォンがそれぞれの目標めがけて射撃を開始する。
許された全火力をそこへ叩き込む。
嵐のような攻撃。
その中で――鞭の様にしなるクイーンのアームがいくつかのエーテル弾を弾き返した。
「再生した!」
つい先ほど破壊したエーテルカノン。
その内部構造はまだ修復中の様だったが、致命傷を凌ぐ盾くらいの役には立つ。
脚を止めた時点で、己の最大火力の再生を優先したらしい。見れば背中の砲口の幾つかは破壊されたまま放置されている。
二個のプロセッサー。そのうちの一つが未だ健在だった。
半壊しながらも再生を開始している。
それを完全に破壊するためには240機のグリフォンでは再チャージが間に合わず。
だから備えていた仁の砲撃が終わりを告げた。
「リアクターのリミッター解除。エーテルカノン最大出力。発射!」
エーテルリアクターを使い潰す。
三倍に跳ね上がった出力を全てエーテルカノンに注ぎ、その暴れ馬のような照準を機体全て押さえ込みながら半壊したプロセッサーを狙う。
サイボーグ戦隊が取りこぼした目標を今度こそ撃ち抜かれて。
機能を停止したクイーンタイプは地面へと崩れ落ちていく。
それを見ながら。
サイボーグ戦隊の指揮官、グレイスは低く呟いた。
「やはりライテラ計画において貴様が最大の障害となりそうだ」
引き込めればそれが一番良かった。
だが第一の策は随分と前に頓挫し。
次善の策も恐らくは無為に終わるだろうと言う報告を受けている。
「残念だよ東郷仁」
接触するのが遅すぎた。
本人の整理がついて心が安定してからと思っていたらその時には勧誘できる見込みはなくなっていた。
これならば、まだ不安定な状態に勧誘すればよかっただろうか。
だがあの頃の自暴自棄な仁を取り込んでは内憂となり得た可能性は否定できず。
結局のところ、一番最初の策が裏切り――と言うにはささやかな物だったが――で失敗した時点でその道は無かったのだろう。
「君と肩を並べて戦う……それも悪く無いと思えたのだがね」
仮定である。
そうはならないと分かっているからこその仮定だ。
「今回の戦闘参加機の全データをアーカイブ保存。解析チームに回せ。貴重な資料だ」
東郷仁が移民船団の守護者である限り。
彼がライテラ計画を――その前段階を認める事は無いだろう。
誰もがハロルド・バイロンの様に、結果が良ければ全て帳尻が合うなどと考えられるわけではない。
確実に生じる過程での負債を仁は看過できない。
ライテラ計画の参加者は全てそれを認めた。
結果の為ならば仕方ないと。
故に。
何れ戦う事は必然だ。
ふと、グレイスはある人物に言われた言葉を思い出した。
裏切り――と呼ぶには余りに穏やかな別れだった相手の遺していった言葉。
「『どれだけ素晴らしい大義であろうと、万人が納得できる大義が有り得ない事は歴史が証明している。結局争いの火種になるのならそんな物に価値はない』か。全くだ」
ハロルドの言う通り。
計画が達成された暁には――きっと恒久的な平和が訪れる。
だがその前には間違いなく反発と抵抗があり。
その後も今まで以上の、人類同士による血みどろの争いが消え去っていくのだろう。
だとしてもやはり。
「だがその争いも全て結果が上書きしてくれる」
眼下で沈黙するクイーンを見下ろしながらグレイスは呟く。
その瞳に躊躇いの色は無かった。




