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06 ちびっこ探検隊

「なあ、本当に入って大丈夫なのかよ」

「みおにはこれがあるから大丈夫!」

「本当かよ……」


 意気揚々といつも通り訓練校に行こうとする澪。

 そこに常とは違う同行者の姿があった。

 

 半ば強引に腕を引かれているのは守。

 すっかりこのところ澪に振り回されてばかりの少年であった。

 

「この前助けてくれたお礼するの」

「バーベキューで十分だって……」


 というやり取りをしながら訓練校のゲートへと澪は近付く。

 スキャナーに手のひらを触れさせる。認証音と緑のランプが通行可能を知らせる。

 そうして澪が通り。

 

「とーやくんも早く!」

「えー」


 絶対無理だろとぼやきながら守もゲートを潜ろうとし――。

 

 警報音と共にバーが上がって行く手を阻む。

 ここで強引に突破しようとすれば警備兵が飛んでくるだろう。

 

「あれー」

「なあ、東郷ってやっぱり実は馬鹿なのか?」


 何故澪のIDで守も通れると思ったのか。言外にそうにじませるが、澪は聞いていない。

 

「むー何で」


 ぱしぱしと、軽い音を立てながらスキャナーに何度も何度も手のひらを触れさせる。

 

「いや、東郷無理だって。諦めろよ」

「もー通して!」


 全く無駄な澪の粘り。

 それが、なぜか実を結んだ。

 

 認証音と共に、緑のランプが灯ってバーが下がった。

 

「通れるようになった!」

「ええ……絶対これ故障だろ」

「とーやくん行くよ!」

「いや、待てって! 絶対これやばいって!」


 抗弁する守だったが、ずるずると引きずられて行く。

 

「いい、とーやくん。見つかったら怒られるから隠れていくよ」

「やっぱお前怒られるような事してんじゃねえか! 俺は関係ないからな!」


 完全に巻き込まれた側である守であったが、その怒りは澪には届かなかったらしい。


「こっち」


 こそこそと壁際を隠れながら澪は進む。

 一日置きで夕食を食べにくる訓練校では澪の存在はそこまで疑問視されない。

 良くも悪くも慣れてしまった。

 そこに見慣れない少年が一人くっついていてもそれほど気にしない程度には。

 堂々としていれば意外と気にされないものである。

 

 平和ボケと言われても仕方ないだろう。

 何しろ彼らの敵はASID。人類ではないのだから。

 

 かくれんぼしながら進んでいるような二人を見て微笑まし気に笑う訓練生さえいた。

 

「なあ、東郷。普通に行こうぜ。もうバレバレだからさ……」

「しっ」


 澪が守の口元で指を立てる。

 唇が指に触れて強引に口を閉ざされる。

 

「よし、しゃろんはいない」

「やっぱお前……」

「こっちこっち」


 正直これ以上奥に進めばますます怒られる気がしていた。

 だがここで澪と別れる方が不味いというのも守は察していた。

 何しろここで別れたら澪と一緒に来た少年から勝手に忍び込んだ少年になる。

 それは避けたい。

 

「せめてどこに行こうとしてるかだけでも教えてくれよ」

「んとね、格納庫!」

「格納庫?」


 何で、という問いは辿り着けば明確だった。

 直ぐにそれが守を出迎える。

 

「とーやくんアサルトフレーム好きだって言ってたから本物見せてあげようと思って!」

「すげえ」


 今の状況も忘れて守は澪の見せてくれた光景に感嘆の息を漏らす。

 こんなにも間近でアサルトフレームを見たのは初めてだった。

 

「すごいでしょ」

「ほんとすげえよ。ありがとうな東郷!」


 守が素直に澪に礼を言った瞬間。

 

「とーやくん隠れて! しゃろんだ!」

「え。ええ?」


 澪も察していた。

 流石に勝手に他の人を連れてくるのは悪い事だと。

 でもその悪いことをしているというドキドキが楽しかったのもまた事実。

 

 それはそれとして怒られたくないのである。

 

 シャーリーは他の接点の無い人間と違い、澪が許可されている理由もそれが澪だけであることも知っている。

 他の人みたいに、正常性バイアスが働かない。

 

 つまり怒られる。

 

「は、早く隠れなきゃ」

「やっぱ悪い事なんじゃんこれ……そこの荷台に隠れようぜ」


 丁度他の人の死角になっているトラックの荷台に、二人は潜り込む。

 かけられたシートの中に入れば外からは見えない。

 

「助かった……」

「なあ東郷が見せたいものは見れたし、早く帰っておこうぜ。怒られる前に」

「うん……」


 これ以上はリスクが大きい。

 澪もそれを素直に認めて頷く。

 シャーリーが立ち去ったらここから飛び降りて早く帰ろうと。

 澪もそう決意した瞬間。

 

「こらお前たち。何をしている」


 という叱責に声に見つかった! と二人して身体を震わせる。

 

「このトラックはどうした」

「え。これは持ち込まないのでは……」

「C17。これは搬入予定だ! 何をしている!」


 どうやら自分たちの事では無いらしい。ホッと胸を撫で下ろした二人。

 

「しゃろん、こわい……」


 いつもの優しいおば――お姉さん姿とは違い、訓練生達を指導する時のシャーリーは厳しい口調だった。

 澪からするとちょっと怖い。

 ちなみに今のシャーリーは気を抜くと表情が緩んでしまうので殊更厳めしい顔つきとなっているので澪は余計にそう感じた。

 

「荷下ろしの時間は無いな……連絡はこちらからしておく。トラックも一緒に搬入して置け」

「わ、分かりました!」


 慌ただしい気配。

 ばたばたと前の方で――つまり、運転席の方で動きがある。

 

「なあ澪、俺嫌な予感がするんだけど」

「そうなの?」


 ちょっと嫌な汗をかき始めた守に対して、澪の方はいつも通りだった。

 

 守の嫌な予感に対して正解というように。

 二人の乗るトラックが走り出す。

 

「とーやくんが変なこと言うから動いちゃった……」

「んな訳ねえだろ」


 二人にとって不運だったのは、今日は遠征訓練に出立する日だったという事。

 だから、澪も仁から離れた事でちょっと悪いことをしたくなったのだ。

 

 そして遠征訓練は機材の搬入から訓練生達が行う。

 故に、トラブルも多い。

 例えば載せる予定だった機材が載せられていなかったりとかである。

 

 無論最後には正規の軍人によるチェックが入る。

 故にこうして忘れ物も届けられるのだが――二人が乗っていたのはその忘れ物だった。

 

「止まった……」

「だな」


 妙に静かな。そのくせ音が反響する空間にトラックが止められた。

 どこだろうここ、と澪は心細くなる。

 もしかしてこのまま帰れないのではないかと不安になってきた。

 

 まだ未熟な訓練生主体という時点で穴は多い。

 本来ならばトラックから降ろされて点検が入るのだが、出港時間が迫っていた。

 なので出港後にその作業は回された。

 

 トラックが止められた場所――巡洋艦の資材置き場。

 そこの床から動かない様に固定されて。

 作業をした訓練生は固定具合を確認して満足げに帰っていった。

 

 それを見てから二人は荷台から這い出てくる。


「どこだここ」

「とーやくんごめんね……」

「東郷」

「みおのせいで変な所来ちゃった」

「こうなったらもう素直に怒られようぜ。俺も一生懸命謝るから……」

「うん……」


 もう誰でも良いから来ないかなという二人の願いは虚しくも届かない。

 

 兎に角時間厳守。

 予定通りの時間に訓練生達を載せた――というよりも訓練生達が中心となって運航する巡洋艦は出港する。

 

「わわ、揺れてる!」

「なんだなんだ!」


 離陸の衝撃で慌てて。

 お互い怯えながら抱きしめあって。

 

 移民船団から離れた事で人工重力の範囲外となって、無重力空間となった資材置き場。

 殆どの物は固定されているので大きく動いたりはしないが――この二人は別だ。

 

「わー浮いてる」

「お前落ち着いてるな……」


 無重力になった事で慌てだす守と、逆に落ち着く澪。泳ぐように澪は資材置き場をうろうろする。

 中々器用に動き回って資材置き場の中をぐるっと回り。

 

「あ。ピッてするやつあった」

「お、扉あるじゃんか。早く誰か見つけてごめんなさいしようぜ」

「うん」


 ぷかぷかと浮いたまま碌に身動きできない守を置いて、澪は扉の前まで進んでスキャナーに自分の掌を翳す。

 だが残念なことに反応はしない。

 当然だ。澪のIDはあくまで訓練校内のゲートを通るための物。

 全く無関係の巡洋艦の扉のロックは解除できるはずがない。

 

 ただ澪が何となく、それはフリーパスの様に錯覚してしまっていただけで。

 

「開かない」

「……どうしようか」


 万策尽きた二人は、これからの方策を思いつくこともなく途方に暮れた。

 

 その胎の内に、二人の民間人を乗せたまま。

 巡洋艦は遠征訓練へと向かっていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ああああ、澪の能力の片鱗が見えてしまった(´д`|||)
[一言] いやいやいや、平和ボケとかそんなレベルじゃなくて、普通に子どもが迷い込んだら危険だろ 貨物室が与圧されてて助かったけど……
[一言] 運がいいのか悪いのか。 下手すりゃ与圧無しの飛行機の貨物室に忍びこんだ密航者みたいになってたんじゃ…。
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