もふもふ怪盗ラニアンは『カッコイイ』と言われたい
カッコイイ。その言葉に憧れて半年経つが一年という生の中で一人にも言われたことはない。
もふもふの毛を撫でて可愛いという人間はたくさんいるが、カッコイイとは言ってくれない。
散歩の時に見かけるゴールデンレトリバーやドーベルマンに憧れたのは何回目だったか覚えていない。
しかし、そんな悩みとはおさらばだ。
なぜなら……。
「ココアちゃ……いえ、ラニアン様。まもなく指輪のあるエリアでございます」
ココアちゃん様とかいう溺愛漏れ漏れの名前をギリギリ隠してしゃべる真顔の女は助手らしくナビする。
特製の怪盗服と帽子が通気口に擦れるが気にしない。指定の時間ぴったりにお宝を奪う事の方が大切だ。
怪盗はカッコいい、それはニュースに流れていた女が言った言葉だ。テレビに写された宝石を俺を膝に乗せているご主人が指で摘まんで見せてくれる。
宝石の輝きよりも、ご主人が輝いて見えたのは今回が初めてだった。
そう、ご主人みたいになればかっこよくなれる!
首輪の通訳機能で必要な物を助手に頼み、散歩コースにある博物館を下調べし、ラニアンという名前と俺の手形を付けた手紙を昨日送った。
宝を華麗に盗めれば、ふわふわもこもこのココアちゃんから、クールで紳士なラニアンというカッコいい犬になれる。
出口にたどり着くとハットからマジックハンドが伸びフィルターを外す。そのタイミングで指輪のあるガラスの箱に飛び移った。プリティーでございますとか聞こえたが無視しよう。
室内カメラに目線を配るとハットからガラスカッターが登場。助手に感謝しつつ、穴の空いたところから顔を突っ込み指輪を口にした。
変な味がしたが妙に嬉しい気持ちであった。可愛いとか助手が騒ぐのは無視して通気口から脱出ルートへと向かう。指輪はハットの収納スペースにしまっているので落とす心配はない。
ついにやり遂げた! 盗んだ指輪の価値など興味ないが、この怪盗というものが成功したのは確かだった。翌日からカッコいいと言われること間違いなし!
警備員に捕まる事もなく尻尾を振りながら帰った。
翌日、世間は騒ぐ事もなく指輪も何故か博物館に戻されていた。一体なぜ……。
「指輪は返したぞ……」
ご主人はそういって背を撫でた。どうやらバレていたらしい。
「それと、カッコ良かったぞ」
……ご主人!