神様へ転職?
あれ? ここはどこでしょう。
明るい場所です。雲の上……でしょうか?
空にはお日さまがあって、青空……じゃなくて、うすい金色ですね。
雲がどこまでも続いてますけど、ここには、わたし一人しかいないみたいです。うっすらと霞んでますので、見えないだけかもしれませんけど……。
でも、なんでこんな場所に……。
少し記憶をたどりましょう。今日は高校の入学式でした。けっこう無理をしましたけど、無事に合格できた第一志望校です。
わたしのクラスは三組。入学式のあとのホームルームで自己紹介をして、今日は解散でした。
クラスメートに同じ中学から来てた子がいました。中学時代はお互いに顔を知ってる程度でしたけど、さっそくなので声をかけてみました。帰る方向も同じでした。それで途中まで一緒に下校することになって、校門を……出たの……ですか?
ここで記憶が途切れてます……。
「遅くなったね。ウズナくん。お迎えに来たよ」
誰かに声をかけられました。わたしの右隣に、いつの間にか男の人が立ってます。けっこう美形な方です。髪が長めで、メガネを掛けた袴姿。大正ロマンの書生さんって感じですね。
それはそうと、
「人違いじゃありませんか? わたしはウズナという人じゃありません」
「いや、ウズナくんで間違いないよ。今回の急なお務め、ご苦労だったね。無事に終了だ」
「ですから、わたしはウズナって人じゃありません。わたしは……」
あれ? わたしの名前……なんでしたっけ?
一五年間使ってきた名前なのに、なぜか思い出せません。
「おやおや、どうやら事故のショックで、自分に何が起きたのか覚えてないみたいだね」
男の人が、そう言って右手を大きく払いました。
足下の雲がフワッと動いて、そこに大きな切れ間ができました。そこから見えたのは、空から見下ろすような地上です。その中にいくつか、見覚えのあるものがあります。わたしの暮らしている街ですね。
街の外を通るバイパス道路。そこに接してるのが、わたしの通うことになった高校です。隣には大きな運動公園があって、授業や部活で、そこを使うことが多いそうです。
雲の切れ間から見える映像が、急に拡大されました。そこに映されたのはバイパス沿いにある校門の前です。わたしの通うことになった高校です。
校門の中と外の広場に、赤色灯を回した車が何台も停まってます。パトカーが三台に、救急車と……赤いのは消防車じゃなくてレスキュー車ですか?
「ウズナくん。きみはさっき事故死したんだよ」
「…………は?」
雲の切れ間に映された校門に、大きなトラックが突っ込んでました。運転席が校門横の壁に当たって、助手席側がグシャグシャに潰れてます。
その横で泣きじゃくってるのは、一緒に下校する予定だったクラスメートです。彼女にケガはないみたいですね。
わたしは……。うわ、イヤなものが見えてしまいました。
潰れたトラックの前に、右腕だけが見えてます。あれ、わたしですか?
レスキューの人が機械で車体を切って助け出そうとしてますけど、地面に広がってる血が……。
あれじゃ、もう助かりそうもありません。……って、男の人の話じゃ、もう死んでるんですよね? わたし……。
実感がないのは、この映像に音がないから……でしょうか?
「ご当地アイドルグループのサブリーダー神坂三幸。人気が出てきて全国を目指せたけど、学業を優先するために休業して名門進学校に入学したその日に交通事故死。マスコミにとっては、これほど話題性のある事故はないね」
映像を見てるわたしに、男の人がそんなことを言ってきました。
「ご当地……アイドル?」
「この事故の被害者になるために、よく使命を務め上げてくれた。こうでもしないとメーカーが事故原因を隠して、いつまでも原因が正されないからね」
「はあ……」
男の人が何を言ってるのかわかりません。
というわたしは、自分のことも思い出せないのですから、もう何がなんだか……。
そもそも死んだと言われたのに、なんでわたしはこんなに落ち着いてるのでしょうか?
肝心の死んだ直前の記憶がないから?
「あ、死んだのなら、このあと三途の川を渡るんですよね? そういえば、まだ走馬灯を見てませんし、トンネルも通って……」
「きみはこれで輪廻からハズれるから、そういうものは通らないよ」
男の人が訂正してきました。
「ん? わたし、何からハズれるんですか?」
「輪廻だよ。輪廻転生。きみは最後の務めを終えたから、これから神様の見習いになるんだ」
そう答えた男の人が、ジッとわたしの顔を見てます。
「まだ死んだばかりだから、いろいろと記憶が戻ってないみたいだね。ぼくはきみの指導役の神、カンナだ。きみは今日、あの事故で死ぬ使命で最後の人生に向かってたんだよ。それを無事に務め上げたから、これからは神様の見習いとしての働いてもらうよ。ぼくの部下としてね」
「はあ……。わたしが神様の見習い……ですか?」
「その顔、みごとに疑ってるね。まあ、記憶が戻るまでは仕方ないかな」
男の人──カンナ様……と言うべきですね。わたしの顔を見てニヤニヤしてます。
この方がわたしの指導役で、これからの上司?
「しかし、最後の務めはキチンと終えたけど、危なっかしいねえ。きみは輪廻からハズれても良いレベルだから、入試ぐらい余裕で一組になれるぐらい努力できたはずだ。それなのに、もう少し成績が悪かったら、不合格でお役目を果たせなかったところだぞ」
「はあ、それは……」
たしかクラスは入試の成績順で決まると聞いてます。学年は六クラスありますので、三組なら真ん中より上のはずです。でも、成績というものはピラミッド型、下へ行くほどドングリの背比べですからねぇ。わずかの差で六組だったかもしれませんし、もしかしたら不合格だった可能性も……。
記憶がないので言い訳すら出てきません。
というか何ですか? 不合格だったら、わたしは死ななかったのですか?
「まあ、いい。さっそくだがウズナくんには神様見習いとしての仕事を始めてもらおうか。今は記憶が混乱してるみたいだが、動いてるうちに少しずつ戻るだろうね」
「さっそく仕事……ですか。ええぇ〜?」
なんか、わたしに選択権はないみたいです。
気持ちが落ち着くまで、少し休ませてもらえないでしょうか……。




