逃走するしかねぇ!
今、俺とテルは馬車に揺られている。
牢屋は森の中にあったらしく、声を掛けられてからすぐに馬車に押し込まれ、今は森を出てから数分が経っていた。今いるところは踏み固められた道で、後ろは森、前方は草原が広がっている。
腕と胴が縄で括られており、ご丁寧に馬車とつながっている。
「さて、どう逃げようか…」
前に居る御者に聞こえないよう小さな声でつぶやいた。
幸い、肘から先は動かせる。しかし、結び目が後ろにあり、縄を解くことはできなさそうだ。テルとお互いの縄を解くということも体が馬車に繋がっていて出来そうにない。ということは自力で抜けださなければいけない。
「テルさん、なにかいい案はあります?」
「えっ私ですか!?…例えば魔法を使うとか?」
「ああ!」
そういえば魔法を使えたんだ!使えた魔法は、火を出す魔法と水を出す魔法、傷を治す魔法、まあ、ありきたりに火魔法、水魔法、回復魔法と呼ぼう。この中で今使えそうなのは火魔法かな?…火魔法ってなんかしっくりこないな…
とりあえず縄を火で切ってみるか…
小さな火を思い浮かべ、指を縄に当てて切るように…
「あ、あの、何を…?」
「いや、火魔法で縄切れないかと試してて…」
幾分後
パサッ
「おっ」
「あっ」
縄が一本切れた。もがけば抜け出せるかも…
「ぐぬぬ…」
「が、頑張ってくださいっ」
パササッ
「脱出成功!」
「わあ!」
よしっ抜け出せた!あとはテルの縄を切って逃げれば…
「おい!ガタガタうるせえ!静かにして、ろ…?」
あ、見つかった。
「おいっテメエら!なにしてんだ!」
「ちっ!」
急いでテルと馬車を繋いでいる縄を燃やす。
大体さっきのでコツは掴んだ。少し威力を上げる。
「ちょっと熱いかもです!気をつけてください!」
「ふぇっ!?」
「おいこら!何してやがる!」
「どうした!何があった!」
よし、ある程度燃やせた。後は引っ張れば切れるだろう。
こっちに向かってくる奴は魔法で脅そう。
手のひらを男に向けて拳より少し小さめの火の塊を出す。
「待て!こっちに来るな!」
「なっ!?魔法が使えるだと!?」
よし、相手の足を止められた。火の玉を一回り大きくする。
「そのまま動くな」
「わっ」
そう言って牽制しつつテルをわきに抱える。その拍子でテルと馬車を繋いでいた縄が切れた。
体を男に向けたまま、急いで馬車から降りる。前方には馬車と隠れるところがない草原、後方には数十歩歩いたところに森が広がっている。どっちに逃げるかは明白だ。
「ヴィートさん!荷物が逃げた!早く捕まえてくれ!魔法が使える!」
「ああ!リッタ!魔障壁を使え!」
「応!」
どうやら馬車の前には護衛がいたらしい。2人こちらに向かってくる。早く森に隠れなければ。
テルをいわゆるお姫様抱っこし、森に駆ける。しかし、この年頃の体重とは思えないほど軽い。ちゃんと食べてるのだろうか。
「待てやおらぁ!!」
「ほらほらぁ!逃げねぇと捕まっちまうぜぇ!?」
くそっ!好き勝手言いやがって!俺らは玩具じゃねえんだよ!
一つ、魔法でも使って足止めをしてみるか。
「テルさん、すみません!」
「えっわわ!」
そう言ってテルを降ろす。
「へへ、怖気ついたか?まあ、そうだよなぁ、俺たちヴィート兄弟に追いかけられちゃあなぁ!」
「この名前を知らないやつはこの世でいないんだぜ?」
若い。見たところ中学生ぐらいだろうか。なかなかイキってるねぇ。鼻が伸び切ってるねぇ。そういうやつらは鼻をなくさないとねぇ。手のひらをその兄弟に突き出す。
「お前、魔法が使えるんだってなぁ。お前みたいなやつが、それもその年で使えるとは大したものだ」
「だが、まさか俺たちに勝てると思ってるわけじゃねぇよな?お前ができそうなのはせいぜい火種を出すくらいだろう」
「まあ、逃げ出してもらって助かったぜ!あのオヤジに追加報酬を要求できっからな!」
「そこの女の味見でも要求すっか!汚らわしい亜人でも女には変わりはねぇからなぁ!」
ブチッと堪忍袋の緒が切れる音が聞こえた気がする。気づいたら目の前に巨大な火の玉が出現していた。
「なっなんだありゃあ!!」
「そんなバカなっ!!」
俺は人の尊厳を踏み潰すような奴らが嫌いなんだ。あとケモミミは至高である。
「お前らは存在するに値しない」
「まっ待て!み、見逃す!だから「おい!早く魔障壁を出せ!死にたいのか!」
「死ね」
ドゴオオオォォォッッッッッッ!!!!
時間が、無い...
余裕が、無い...
金も無い!!!
世の中世知辛い!!!