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召喚されました

 神と呼ばれる者たちが宇宙に存在する惑星(ほし)を管理する時代。人々は神の管理下の元、平和に生活していた。しかしいつの時代も争いはつきものだ。

 そしてここに、アキバを歩いたら、ヲタというヲタたちに写真を撮られるであろう悩ましいボディの持ち主が、悩ましい顔をしていた


「困ったわねー…」


「あ、女神様。難しい顔してますけど、どうされたんですか?」


「あー、ちょっとねー…ほら最近なんちゃら軍が宇宙をいい感じに支配しちゃってるじゃん?」


「あぁ…あの惑星荒らしの、ゼムキュート軍ですか。確かに最近その話しか聞きませんね。女神様の担当してるレラカルト星も結構危ないらしいですよ?」


「そーなんだよー…私もわかってるのよ?でもさ?私女神だし?神は人間界に降りれないってルールがあるからレラカルト星を救いに行けないじゃん?かといって、あなたたちも他の惑星のことで忙しいじゃん?じゃあどーするの?って感じなのよねー…」


「………あ。では、他の惑星の人に助けてもらってはどうでしょう?」


「他の星?」


「はい。ちょっと待ってください……あ、ありました。ここの惑星の人に頼んでみましょう」


「えー?どこどこ?」


「地球です」


「ちきゅー?」


「はい。以前、同期が読んでいるラノベとかいうモノをチラッと読んでみたのですが、どうやら地球人は特殊な力を持っており、いろいろな星の危機を救っているらしいです」


「おおー!それだわ!今すぐその地球人をレラカルト星に送り込むわ!」


「え?じっくり選んだりしないんですか?」


「時間もったいないし、女神にランダムで選ばれるっていうことはつまり、その人は強運なわけじゃん?」


「しかし…」


「細かいことは気にしないの。いくわよー…えいっ!」


 部屋に悩ましい女神様の鈍い指パッチンの音が響く。






 ―――女神様が指パッチンをする10分くらい前の地球での出来事






「あーあ、毎日毎日いいことねぇなぁ〜。テストは赤点だし、部活キツいし、アイスの当り棒なくすし!家に帰ってチャムギと遊んでストレス発散しよーっと!はっはー!早くかーえろー!」


 この男の名前は田中凶介。彼はその名前のせいか、生まれつき運が悪い。外で遊ぼうとすれば、降水確率が0%でも雨が降り、彼の所属しているサッカー部では先輩にパシられ、1日限定100個のパンを買いに行くと必ず自分の前の人で売り切れるという、ものすごくかわいそうな才能の持ち主なのである


「たっだいまー!チャムギー?帰ってきたぞー?」


 チャムギとは、この男の飼っているペットの名前で、いつもは彼が帰ってくると二階からトテトテとやってくるのだが、何故か今日はくる気配がない。家の中に彼の声だけが響く


「あっれ〜?おかしいな?家に誰もいないのか?今日は母さん家にいるはずなんだけど……ってかチャムギの声もしないし、どーなってるだ?」


 とりあえず疲れたのでベッドにダイブするべく2階にある自分の部屋に行くことにした。階段を上り自分の部屋に入ろうとすると扉の隙間から青白い光が漏れていた。その光はとても目に悪いモノだと一瞬でわかるほど眩しかった


「……」


 無言でドアノブに手をかける。中を覗き込むとアニメとかでよく見る魔方陣のようなモノがあった。近所に迷惑がかかりそうなほど発光していた。そしてその魔方陣の上ではチャムギが居心地良さそうに寝ている


「……」


 絶句。今の彼の気持ちを一言で言い表わすならこの言葉がぴったりだろう。彼はこの非現実的な光景をただ眺めているのだった


「はぁ!!?」


 ふと我にかえる。無理もないだろう。散々不幸な目に遭い、疲れ果て、家でゆっくり休もうと部屋の扉を開ければ魔方陣。こんな条件が揃っていて放心状態にならない人間なんて、ラノベ主人公以外存在しないだろう


「え?いや、ちょっと待って。いくら俺が凶運の持ち主だからといっても、流石にこれはないだろ!?ってか、チャムギ!そこ絶対危ないから!今すぐ離れて!」


「にゃぁ…」


「いや、『にゃぁ…』じゃないよ!本当になんなんだよこの状況!?」


 大切な飼い猫を謎の発光物からどかすために部屋に入ったその時だった。昨日買った好きなアニメのタペストリーに足を引っかけ、魔法陣に頭から突っ込んでしまった。瞬間、どこからともなく声が聞こえてきた


『──転送開始』


「え?」


 突然、魔法陣が回りだした。凶介は色々な事が起きすぎて脳みそから血が噴き出そうだったので、一旦考えることを止めた




 ......................................................




 目が覚めると土の上にいた。凶介は一瞬真顔になった後冷静になる。土を触ってみる。その冷たさは妙にリアルだった。凶介は胸騒ぎがした


「もうダメだ。日々のストレスのせいで俺の頭がぶっ壊れたのかな?幻覚が起きてるわ。壊滅的な村が見えるわ」


「いや、これは幻覚ではないな。オレの野生の勘がそう言っている。そしてオレも今お前と同じ光景を見ている」


 目の前には戦争跡のような光景が広がっていた。生臭いニオイ。崩れた家。争った形跡。なんか原型を留められていない謎の肉。赤黒い液体。おそらく血だろう。そして猫耳のおじさん。控えめに言って地獄だった。だが、不思議なほど気分は落ち着いていた。それは凶介はこれが夢だと自分に言い聞かせているからだ


「って、猫耳のおじさん!!?」


 明らかにこの情景と合ってないモノに思わずツッコミを入れてしまう


「ん?どうした?主」


「あ、主て……え?主?」


「そうだ。毎日出迎えてる猫の顔を忘れるなんて、気でも狂ったか。オレだよ。チャムギだよ」


 目の前に猫耳のおじさんがいる。凶介が気をおかしくするには十分な出来事だった。突然何を言い出すんだこの猫ジジイは。チャムギはもっとカワイイから。という目でおじさんを見つめる


「おいおい、あまりジロジロ見るな」


 確かに毛の色がチャムギと同じ茶色だ。毎日見てるからわかる。確かに昔ノラ猫との喧嘩で左目に負った傷の位置も同じだ。毎日見てるからわかる。だが、こんな渋い猫耳のおじさんは見たことない。俺にそんな特殊性癖もない。じゃあ、いったいコイツはなんなんだ?あ、でも猫の年齢って人間に換算すると……

 凶介の考察は止まらない。と思われたが、止めざるをえない事が起こった。人の気配の無かった村の方からズシンズシンと地響きが聞こえてきた。凶介はすぐに察した。良くない事が起こる、と


「もうやめて。これ以上何も起こらないで。早く夢から覚めて。少し休ませて」


 思わず本音が飛び出る。が、無常にもその願いはボロボロの家と共に崩れ去った


「ンアァ?ニンゲンノニオイガスル?チャントゼンブタベタハズ?」


 森の中から自分の体の2倍以上の大きさのゴブリンと思しき生物が出てきた。その時凶介は気づいた。これは夢じゃないということに。止まらない足の震えと悪寒がそれを証明している。


「あ、あぁ……」


「お。なんだいありゃあ?主の連れてきた友達にそっくりなヤツはいたけどよ、あんなに顔色悪かったっけか?」


 そして隣では、自称我が愛しの家族チャムギを名乗るおじさんが、おそらく相撲部の鷹林の悪口を言っている。やめたげて。アイツああ見えても根はいいヤツなんだよ。この前学校で『俺、陰でピザポテトデブクソ野郎って呼ばれてるらしいんだよね…』って相談してきたんだよ。めっちゃ深刻そうな顔してたんだよ。ごめんな。あれ言い始めたの俺なんだよ…


「マァイイヤ。アイツラモグチャグチャ二シテタベチャォー」


 ゴブリンが恍惚の表情を浮かべる。クッ!その顔はやめてくれ!マジで鷹林にしか見えない!


「主!こっちに向かってきてるぞ!このままではマズいから二手に分かれるぞ!」


「え!?そんなことしたら!」


 自称チャムギがものすごいジャンプ力で木の上へ登る。凶介はあのおじさんがチャムギであることを認めざるを得ない光景を見てしまった。いつも見ているからわかる。ジャンプ、そして着地、更には着地後に尻尾を2回振るという動作の一つ一つ。それは間違いなくチャムギだった。飼い猫と喋れてるという感動に浸っているとゴブリンが凶介の方へ走ってきていることに気づいた


「ほらやっぱりね!自分の運の悪さがイヤになってくるよ!」


 そう。絶望的に運が悪いので、凶介の方に走ってくるのは必然なのだ。感動に浸っている余裕など今の凶介には無いのだ


「主!足だ!足を狙え!転ばせれば逃げる時間は稼げる!」


「いや、無理!絶対無理!当たらないよ!?」


「じゃあ、なんでもいいからしゃがめ!」


「えぇ!?」


 とりあえず言われた通りにしゃがむ。するとものすごい勢いで凶介に突っ込んできたゴブリンは、彼に足を引っかけ盛大にこけた


「成功だ」


「うぅ……アイツの足の親指が腹にめり込んだ……」


「よし、今のうちに森に身を潜めるぞ」


 チャムギにおぶられて森の中へと進んで行くのだった





 ......................................................





「そういえば、ここってどこなの?」


 凶介がチャムギにたずねる


「さぁな。オレもこんなところに来るのは初めてだからわからん」


「めっちゃ眩しい魔法陣。知らない土地。人間離れした体を持つ生物。これらのことから推測すると、俺たちは179%の確率で異世界に召喚されている」


「まぁ、わからねぇけど、いつもの場所じゃねぇってことか」


「ざっくり言うとそうなるね」


 しばらく歩くいていると、1軒の家を見つけた。


「ちょうどいい。ここで匿ってもらおう」


「そうだね。でも俺が交渉するとダメそうな気がするからチャムギが行ってきてよ」


「やっとオレがチャムギだって信じてくれたのか」


 熱い眼差しでこちらを見つめてきた。その後チャムギは家の戸を叩きに行こうとすると、こちらに気づいたのか、家の中から傷だらけの青年が出てきた


「何者だ…?まさか追手か!?」


 青年が武器を構える


「いや、オレたちは君の敵ではないし、君に危害を加える気もない。オレたちは隠れる場所を探していたんだ。すまないが少しオレたちを匿ってくれないか?さっきまでゴブリンに追われていて疲れているんだ」


「!?ダガバヤシュから逃げ切ったのか!?」


 青年が年末の宝くじで2等を当てた並の驚きを見せた。あのゴブリンダガバヤシュっていうのか。名前までそっくりだな


「アイツを知ってるのか?」


「アイツは俺たちの故郷を、家族を壊したのさ」


 一瞬にして空気が重くなる


「必死に抵抗したがこのザマだよ。立ち話もなんだ、歓迎するよ。入ってくれ」


「…なんか悪いな」


「いや、いいんだ」


 中に入ると、青年の他にも人がいるのが見えた


「自己紹介がまだだったな。俺の名前はホムラ・ムキュールだ。ホムラで構わない」


「オレはチャムギ。そして今オレの隣にいるのが我が主、凶介だ。よろしくなホムラ」


「あ、どうも。凶介です。主とかそういうのは気にしなくて大丈夫ですから、普通に仲良くしてください」


 凶介はこういう些細なことで知らない土地の知らない人からの信用を失うことが一番怖いのだ。言ってしまえば、鷹林似のゴブリンより怖いのだ


「そうか。よろしくな。ほらお前らも挨拶しろ」


「ぁ…ユウカ・ムキュールです…どうぞよろしく」


 可愛い。以上。凶介はもう可愛い以外の言葉が思いつかなかった。姿、声、動作の全てが凶介のド直球だった。左目が前髪で隠れているのが今回凶介のハートを掴んださいだいの要因だった


「すごくすごい…」


 その可愛さは凶介の語彙力を殺した


「ところで、チャムギとキョースケは魔法って使えるのか?」


「「魔法?」」


「なんだ。使えねーのか?」


 凶介は思い出した。そういえば、今俺たちはいわゆる異世界に召喚されちゃった系男子だったということを。だが、それらしきものを使えそうな感じは全くしない


「そうだな。魔法なんて使うどころか見たことすらないな」


「ほぉ~。今どきそんなヤツがいるなんて驚きだぜ?ユウ。コイツらに見せてやってくれ」


「わ、わかりました。えと…失礼します」


「!!!!??!!?」


 ユウカが凶介の体に触れる

 可愛い女の子と接触に凶介は不覚にもときめいてしまう


「俺、ユウカちゃんがすk」


「えいっ」


「ごふぇファッ!!」


 体に衝撃が走る。その痛みに耐えきれず凶介は床に倒れ込む。それを見たチャムギは顔を真っ青にして凶介にかけよる


「主!クソッ…何をしたクソガキ!?」


「ひぇ…す、すいません!でもこういう魔法なんですぅ!」


 ユウカはこのままでは殺されると思い、ホムラの後ろに隠れる。ホムラも


「コイツ…」


 チャムギが爪を立て、臨戦態勢に入る


「落ち着け。俺は大丈夫だ」


 とりあえず起き上がり、2人の間に割って入る


「本当に大丈夫なのか?」


 チャムギが心配そうな目で見てくる。たまに家でもこんな目をしてたなと、凶介は思った


「あぁ。なんともない」


「え…?」


 ユウカが驚いた表情で凶介を見つめる。凶介は気づく。さっきのアレはなんともないはずがない魔法だったのだと

 ユウカがゆっくりと口を開く


「えと、さっきの魔法は対象の肉体を一時的にパワーアップさせるものなんです」


「なるほど」


「例えば、2mくらいジャンプできるようになったり、岩を片手で潰せたりとか…」


「おぉ!すげぇ!」


 つまり今の俺はスーパーマンってわけか!凶介は喜びを抑え切れず、口元が緩み、キモイ顔になった


「するんですけど…」


「…はぁ」


 凶介は思わずため息をつく。やっぱりな。出ました出ました。さて、どんなリスクがあるのかな?凶介の目からハイライトが消える


「2%の確率で爆発します」


「んなっ…!?2%だと!!?この数字が主にとってどれだけ大きいのかわかってるのか!?」


「え、でも、2%ですよ?」


 ユウカは知らないのだ。この男の運の悪さは海より深く、空より高いということを…


「ま、まぁまぁ一旦落ち着こう」


 これ以上状況を悪化させたくないのか、ホムラも止めに入る


「そうだよ!ほら、力が湧くような感じはしないけど、爆発するような気配もしないんだしさ!」


「つまり、不発ということか?」


「多分そうだと思います…」


「ふぃ〜」


 ひとまず一件落着といった感じか。凶介は胸をなでおろし、大きく息を吐く


「ユウカちゃんって他にも何か魔法使えないの?」


 この場の空気を変えるために凶介が話題を切り出す


「ほ、他ですか…?えぇ、でしたらこれはいかがでしょう」


 ユウカが手をパンッと叩く。するとどこからともなく光の玉が現れる


「おぉ…」


「触ってみます?」


「え?触れるの?」


「はい」


「じ、じゃあ…」


 嫌な予感しかしないが、とりあえず触ってみる。


「わぁ…」


 思ったより暖かく、寝るとき抱き枕にしてもいいと思った


「あ、因みに衝撃を受けると2秒後くらいに爆発します」


 光の玉から離れる。そして先に言えという顔でユウカを見つめる


「し、衝撃を与えなければ大丈夫ですので」


「とりあえず、この世界には魔法使いがたくさんいるってことか」


「いや、みんながみんな使えるわけではない。生まれ持った才能みたいなものなんだ。魔力がないヤツは魔法が使えない。まぁ、この惑星には魔法を使えるヤツが人口の4割はいるから少なくはねぇわな」


 ホムラが説明してくれた。つまり産まれた時点で魔力を持っていなかった人は魔法が使えないってことか


「ま、今じゃその魔法使いたちの人数も1割以下だろうけどな」


「なんかあったの?」


「お前も見たんだろ?あのゴブリンを。理由はわからんが、アイツみたいな魔物がこの惑星の人間を殺してまわっているんだ…」


 再度空気が重くなる


「ゼムキュート軍……ヤツらを放ってはおけないこれ以上死人は増やさせない!」


 凶介は思った。絶対巻き込まれるヤツだと。そしてそれは案外早くおとずれた


「ミイツケタァ〜」


 外からねっとりとした声が聞こえてくる

 凶介は大きくため息をついた

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