「奴」が来た
BATTLE
六年三組
ようこそ、六年三組カジノステージへ。
設定情報を入力してください。
ゲーム内容→電脳世界での戦闘(通称バトル)
参加者→中川恒輝、佐藤良介
BET→地球の存亡
それでは、ゲームを開始します。
〜プロローグ〜
「中川―、一緒にサッカーやらねえ?」
「ごめん、僕は、えっと、やめておくよ。」
「ふーん。つまんねえの。」
その言葉は、元々人と直接話すことが苦手な中川の心に、深く突き刺さった。
何処かに自分の強さを見いだそうとした中川は、オンラインゲームで、心の底から「強くありたい」と思っている者のみが持てる絶対的な(鬼畜とも言う)強さを誇り、レートをどんどん上げていった。
話は変わってもう一人の参加者、佐藤良介のプロローグを書く(打つ?)。
「この局面において最も有効な攻撃は090、374、275地点の零式艦上戦闘機による二十ミリ弾の機銃掃射で出撃直前の戦闘機を一気に叩くという戦法だ。」
「ごめん佐藤。お前の話、全然理解できねえ。そんな話、中学生レベルで理解できるような天才そうそういねーって。」
やっぱ、俺の話分かるようなやついねえのに、学校行くのってアホらしいなあ。
そうやって佐藤は、中学生にして引きこもりゲーマーとなった。
そんな感じで過ぎていく実に下らない日常の中、必然といってもいいような偶然が、中川と佐藤をオンラインゲーム(バトル)で対戦させた。
その時はまだ互いの事を知らなかったため、「ちゃちゃっと倒して少しでもレート上げよう」ぐらいにしか考えていなかった。
しかし、その試合は案外ヒートアップした。
中川が大技で決めようとすれば、それを耐えた佐藤が狙いすました一撃を放つ。
結局、試合結果はタイムアップによる引き分けとなった。
この試合の後、二人はチャットで会話し、中川は自分を軽く扱わない知り合いを、佐藤は自分と対等に話せる知り合いを得た。
そして二人はチーム「南北タッグ」を結成した(なぜ「南北タッグ」という名前なのかは自分で考えて!そう難しくはないと思う。)
「南北タッグ」は元々半端じゃない強さを持っていた中川と佐藤で構成されているため、二人は世界ランキングを二段飛ばしぐらいのスピードで駆け上がっていき、ついに世界ランキング一位にまで上り詰めた。
〜本編〜
「さーて、今日はどのクエストをクリアしようか。」
「クリアする前提って…全く、どんだけ強気なのだか。」
「いーじゃん、どうせ俺たちにクリアできないクエストなんてありゃしねーよ。」
「まあ、それはそうだけど…」
普段は弱気の中川がそこまで言う程、「南北タッグ」の実力は高かった。
その時、中川と佐藤のバトルフォン(電脳世界での戦闘「バトル」を起動するアイテム。「アイテム」という設定だがリアルの世界で市販されている。携帯電話としても使える。)
の着信音が鳴った。
「あれ、佐藤、友達からのメールかい?」
「さらっと酷い皮肉ぶち込むのやめてくんない?それはそうと、中身は何なんだ?」
「確かに、メールを開かないことには何も分からないね。」
そのメールは、このような内容の物だった。
「地球の諸君、御機嫌よう。
今日は伝えたいことがあってこのメールを送った。それは、世界標準時の八月十五日の午後九時から、我の暇つぶしに付き合ってもらう、ということだ。
君たちに本気になってもらわないと暇つぶしにならないから、君たちが住んでいる地球の存亡を賭けようと思う。
君たちが勝てば、この暇つぶしによる地球の滅亡はない、ということを保証しよう。
ただし、我が勝てば、君たちは地球もろとも消し飛ぶこととなる。
そういえば、名乗るのを忘れていた。
とりあえず、「奴」とでも呼んでくれ。」
「佐藤、このメールについて、どうおもう?」
「『バトル』というゲームの性質上、送り主は人間だろう。目的は、恐らく単なるイタズラか、相当な威力の兵器を保有しているヤバいやつ、もしくは世界市場の混乱に乗じて空売りをしようとしてる奴かな。」
*空売り…ある会社から株を借りて即座に売り、その株価が下がったときに株を買ってその会社に返し、差額分の利益を得る方法。
「そのうちのどれかが目的だとすれば、二つ目のヤバいやつじゃない限り、いや、そうじゃなくても僕たちの勝ちは見えてる。」
「だよな。」
「じゃ、明日に備えて寝よう。」
「また明日。」
そう言って(打って?)、二人はチャットの回線を切った。
――――――――翌日―――――――――
〜午後六時〜
「ふぁぁぁ。四時に起きたくせして、まだ眠い。」
「午後に起きることが日常してるって、僕たち世間一般の生活とはかけ離れた生活してるよね。」
「世界最強のプロゲーマーの生活が世間一般の生活と同じようなものであってたまるかよ。」
「ま、まあそうだけど…」
「じゃ、準備するか。」
「うん。武器の属性は無属性でいい?」
「ああ。俺はなるべくたくさんの属性の弾丸を持って行く。」
「僕は攻撃力とクリティカル率を重視した武器を装備するね。」
「分かった。さーて、終わったし、寝よう!」
「ちゃんと八時五十分には起きてね。」
「わかってるって。」
この時中川は思った。恐らく佐藤は寝坊すると。そう思った上で、中川は佐藤に何の警告、あるいは注意もしなかった。
〜「バトル」のシステムの説明〜
覚醒…色々な戦い方のデータが入っている「メモリ」というアイテムを腕の装置に差し込むと、その戦い方のデータに応じてプレイヤーの能力値が上昇するシステム。
メモリの中には時間制限が設けられているものもあり、その時間を過ぎてもなお覚醒していると目がかすむ、頭が痛くなる、力が入りづらくなるといった限界症状が発症する。
ブースト…プレイヤーの能力値には「ブーストゲージ」といった項目があり、その数値に応じた時間、1.3倍の速度で動くことができる。
もっとも、その時間を増やすスキルも存在するのだが…
・八月十五日の午後八時五十分
意外にも、佐藤は時間のちょっと前に起きていた。しかし、バトルフォンを起動するのに手間取ってしまったため、中川と出会ったのは八時五十分ピッタリだった。
そして、驚いた顔で中川が言う。
「あれ、佐藤、遅れなかったね。」
と。
それに対して佐藤は
「「佐藤は必ず時間に遅れる」みたいなイメージ持つのやめてくんない?」
と反論する。
そう。佐藤は遅刻の常習犯で、まだ学校に通っていた時ですら、「遅刻が多すぎる」という理由で停学をくらいかけた事もあったのだ。
だから、中川は「どうせ注意しても無駄だろう」と、何も言わなかったのだ。
「ま、いいや。で、なんかクエスト配信されたりした?」
「うん。「BET=地球」っていうクエストが配信されたよ。」
「よし。じゃあ、受注しようぜ。」
・八月十五日午後九時
「時間です。クエストが開始されました。」
というインフォメーションと共に、佐藤と中川は、明らかに過疎化が進んでいる廃墟の様な商店街に移動した。
「一本道か。ちょっと不利っぽいな。」
「うん。佐藤が隠れる場所が無い。」
スナイパーは高い建物の内側に隠れるのが基本だ。しかし、商店街ではそのような高い建物はあるものの、扉のないその建物に入るにはどこかを壊さなければいけないため、その壊した跡から相手がどこにいるかが絞り込めてしまう。これが、中川達が自分たちに不利な状況だと判断した理由である。
しかし、「南北タッグ」はこれくらいの逆境で勝ちを諦める様なヤワな精神はしていない。
まず、中川が意気揚々と「切り刻め強者どもを」を発動し、両手に太刀を構えて「奴」に切りかかっていく。
武器攻撃力の二百%のダメージを与える斬撃をブースト状態で計十発繰り出すその技は、「奴」に全て命中した。しかし「奴」は意に介していないかの様に中川に打撃を放つ。間一髪でかわした中川は、その威力、速度に少なからずビビり、距離を置いた。
「ちくしょう、硬すぎる。それに、何なんだあの威力とスピードは!?」
「まさか…あいつ、AIか!?」
ご存知の読者も多いと思うが、AIとは、「人工知能」の事だ。「BATTLE」というゲームの性質上AIをそのまま使うことは出来ない。
しかし、それは「正常な状態であれば」の話である。何らかの方法でサーバーの内部に入り込めたなら、AIをゲームに使うことは充分可能である。
しかも、この件は長く続くものではないため、ハッキングの方法はすぐ運営にBAN(読み→バン)されるような方法でも目的は達成出来る。
AIの説明はこれくらいにして、佐藤と中川の戦闘に話を戻そうと思う。
「しょうがない、ちょっと早いけど、奥の手を使うぜ!」
そして中川はその両手に構えた太刀を鞘に納め、何やら呪文の様なものを唱え始めた。
「天よ、地よ、森羅万象の全てを司る全知全能の神よ、我に力を!そして、勝利を!」
中川が呪文を唱え終わると、中川が自身の周りに紅い、オーラの様な、いや、オーラをまとった。
中川が唱えた呪文は中川の装備品である「全知全能の(ンド)神々(ゴ)の(ッ)宿る(ド・)両太刀」
の固有スキルの詠唱だったのだ。
そのスキルの効果は、「三分間だけ攻撃力・防御力・移動速度を三百%上昇させる」というものだ。
その上で、佐藤は中川に「ブレイクブースト」という、「対象の攻撃はその攻撃対象の防御力を五十%無視してダメージを与える」効果を与える支援呪文を掛けた。
さらに攻撃力アップの「デストロイ」、移動速度アップの「ブラスト」、防御力ダウン効果を武器に付与する「ガードクラッシュ」を重ね掛けした。
これで中川のステータスは、世界ランキング二桁のプレイヤー五人程度なら手玉にとれるほど上昇した。
しかし、それは対人戦の場合であり、AI相手となると流石の「南北タッグ」の二人にも、敗北のイメージは少なからずあった。
だが、先程も述べたように多少の敗北のイメージで勝ちを諦めるような二人ではない。
その精神力はいつもなら功を奏すのだが、この時はその自信がピンチを招くことになってしまった。
まず、中川が勝ちを確信して一気に飛び出す。元々短い「切り刻め強者どもを」の再使用時間(五分)を中川の職業である「斬撃士」のスキルで一度だけゼロにし、再び使用する。
四百五十%の移動速度(「バトル」のパーセント計算は掛け算ではなく割合を足していく方法)、「奴」の防御力ダウンと合わせて六百五十%の攻撃力、防御力ダウン効果が付与された武器で「奴」に向かっていく。
十回の斬撃。普段なら「十回」の後に「の」ではなくも「も」がつくのだが、今回は「も」ではなく「しかない」がついた。
それほどまでに「奴」の動体視力と回避速度はすさまじかったのだ。
防御力をダウンさせてもそもそも攻撃自体が当たらない。
移動速度をダウンさせても焼け石に水だった。
それでもまだ食い下がろうとする二人に、「ステータスの差」という感情論ではどうにもならない現実が重くのしかかる。
「切り刻め強者どもを」の硬直時間の間に、中川の腹に計三発のパンチがめり込む。
「ぐっ…がはっ!」
そして中川に九十五%の移動阻害が掛かる。
「奴」の視線が中川に向いている間に佐藤が狙撃する。
当たりはするものの、大したダメージを与えることはできない。
そして「奴」は佐藤に視線を移した。
「次はお前だ。」
その場に不気味な声が響く。
「奴」が佐藤との距離を詰めた瞬間、佐藤が中川に何かを投げる。
それは、日本サーバーに所属しているプレイヤーの内、上位一%のプレイヤーでも持っているかどうか怪しいほどレアな、「フルドライブ」メモリだった。
「中川、コレ使え!」
「このメモリ、使った後体中痛くなるから嫌なんだよなあ…ま、「南北タッグ」の名に傷がつくよりマシか。じゃ、覚醒っと。」
そして中川が腕の装置に差し込む。
中川がその身に光を纏う。その光は佐藤がそれについて何かを呟く暇もなく、消えていった。
佐藤が中川のステータスを確認する。それは、「奴」と遜色ない程上昇していた。
「はぁ?(喜びに少し呆れたという感情が混ざった笑)なんだよ、この上昇率…」
中川が放っている凄まじいオーラに抗うように、「奴」が中川に殴りかかってきた。
この戦いの中で一度も自分から攻撃してこなかった「奴」が自分から攻撃して来たということは、「奴」が動揺している事を表している。
その攻撃を、中川は笑い飛ばすかのように弾いた。
今、中川と「奴」の間にはステータスでは測れない差が存在する。
それは「実戦経験」という、戦闘においてかなり重要なリソースの一つだ。
「奴」を動かしているAIの実戦投入はこの戦闘が初めてらしく、「奴」の使い手は、ハッキングの方法は知っていても、AIの学習機能についてはよく知らなかったようだ。
中川は自らの経験をフルに活用し、常に最善の選択をする「奴」の行動を読み切ったのだ。
こうなってしまえば最早「奴」に勝ち目などない。
中川は「フルドライブ」メモリの時間制限も考慮して一気に勝負をかけようと「奴」に攻撃を仕掛ける。
「奴」は当然のことながら防御するが、その防御がどこに重点を置いたものかを完全に読み切っている中川はその防御をいとも容易くぶち破る。
決着をつける為に中川は「フルドライブ」メモリの固有スキルである「フルスロットルスマッシュ」を発動した。
中川の拳に焔が宿る。その焔は、中川と「奴」との距離が縮まれば縮まるほどに勢いを増した。
中川はその拳で「奴」を思いっ切り斬りつけた。それはいままでの苦戦に対する鬱憤を晴らしているようだった。
徐々に「奴」のヒットポイントは減っていき、そしてゼロになった。
そして空中に「ミッションクリア」の字幕が現れた。
こうして、地球の平和は守られたのであった(←このナレーションカッコつけすぎ(笑)。
しかし、「南北タッグ」の物語はまだまだ続く。
本来ならもっと書いていたのだが、生憎、端末の電源がもうそろそろ切れてしまいそうだ。
なので、一旦充電させてもらうことにする。