第0話「説明しよう!」
初のなろう投稿になります。
仕事と遊びの合間を縫って週一ペースで更新出来たらと考えて発泡酒を呷ってます。
週一ペースで……
筆が乗ったらもっと早いペースで書きたい……、いや、大風呂敷を広げると畳めなくなるから……
失礼しました。
お楽しみいただければ幸いです。
朝の光を受ける。
昨日とは違う自分。
生まれ変わった自分。
次は上手くやれるはず。
さあ、重い身体を熾して。
―――新しい朝がきた、希望の朝だ。
× × ×
元水翔は改造人間である。
その血肉は人工物に置き換わり、父と母から受け継いだものは、タングステン合金の頭蓋に守られた脳のみ。身体能力はもはや人のそれを超越している。その肉体は老化という概念を彼方へと追いやり、それはもう人外と言っても過言ではないかも知れない。
「で? 身体の調子はどうだ」
千堂千鶴は白衣を、室内にも関わらずはためかせて言い放った。
手術室のようにも見えるこの小部屋と、彼女の風体から考えると、病院にも思えるがそれは違う。
「問題ないよ。すこぶる良好」
ミナトは確かめるように腕を動かしながら答える。ほとんど聞こえないが、内部からは駆動音が微かに聞こえている。歯車が回り、人工筋肉が収縮する音だ。
「しかし、自分で造っておいてなんだな。こういうオイル交換の状況を見ると、透析患者のようだな」
「否定しづらい上に、倫理的に難があるボケはやめてくれよ……」
千堂千鶴は天才である。
と言っても、一般に知られている情報は少ない。
10歳の時に、既に日本の最高学府ですら手を焼く才能を発露していた彼女は、単身で渡米し道場破りの如く名だたる大学へ挑戦していった。天才であるが故に、課程を修了する前に全てを悟ってしまう彼女は、義務教育以外の学歴を持っていない。一部、証書のみ送りつけてくる大学もあったようだが、郵便受けにあったピザのメニューと同じ扱いをしていたそうだ。
しかし、片手間でとった特許の数々や、企業・大学・政府・非合法組織からの依頼をこなすことで莫大な財産と知識を得た。
両親はいるようだが、いまどこで何をしているか、千鶴も把握していないそうだ。彼女としては、把握するつもりすらないようだが。
「千鶴さんには感謝してるよ。助けてくれて」
「なに。特段、善行を働いたつもりはない。何度も言うが、お礼など要らないぞ。私のやりたいことと君が望むことが僅かな部分で重なっただけだ」
そんな数奇な人生を辿った千鶴が、人の道を違えずここまで生きてこられたのは、一重に彼女の性根がまっすぐであったことが理由だろう。
「しかし……、もしお礼というなら……」
千鶴がガラクタの中から、円筒形の物体を取り出す。
「これを付けてみてはくれないだろうか! そして、ぜひ私をここで押し倒して欲しい!!」
目をキラキラさせながら千鶴が握っているのは……、陰茎である。
「だーッ! それはダメ! ナシ! というか、なにソレ!」
「知らんはずはないだろう。陰茎だ」
「いやいや……」
「男根と称した方がいいか? それともペニス……、いや、健全なる男子高校生的言語を使うなら『ち◯こ』と!」
「だー! から、女の人がそういう言葉を軽々しく口にするもんじゃないって」
「おかしいか? 君の肉体についていたものを模しているから違和感はないはずだ。それにこれは今までのものと違うぞ! オイルの循環作用と毛細管現象を利用して勃起を完璧に再現! 神経系も新たに組み直し、手動で快感の調整が可能! そして極めつけは!」
千鶴が握っている陰茎が……、
「回転するのだ! 秋葉原で見かけたジョークグッズをモデルにしていてな……」
「もうそれ人間じゃないし!」
「……ダメか?」
「ダメ」
もう一度言おう。
彼女がここまで人の道を違えず生きてこられたのは、一重に性根がまっすぐであったからだろう。
「もう残された研究は人間の性的分野しかないというのに……」
「自分で研究してください」
千鶴は美少女だ。年齢不詳だが、18〜20といった頃合い。
街を歩けば、通行人の視線は釘付けになるほどには容姿が整っている。ミナトだって、こんな誘いを受けて理性を保っていられるのが不思議なくらいなのだ。まあ、興奮したとしてもそれを発露するべき器官がないのだから、保っていられなかったとして、どうすることもできないのだが。
が、しかしその視線が容姿だけではなく、常に白衣を着用し、ボサボサヘアーという異様な風体にも釘付けになっているのが問題だ。
以前、それでも、という猛者がナンパをしかけたことがあったが、
『私と性行為がしたいのか? ならばメシの前にラブホテルへ行こう』
と、天下の往来でのたまったことで、男の方が耐えきれず逃げ出してしまった。
また、それでも下半身に突き動かされた男がホテルまで行くことに成功したのだが、行為に及ぶ前の2時間に及ぶ千鶴のヒアリング調査に耐えきれず、これもまた逃げ出してしまった。
良くも悪くも、彼女はまっすぐなのだ。
「まあ、ちん◯はまたの機会にしようか」
「だから、ち◯ことか言っちゃダメだってば……」
「ところで、学校の方はどうだ?」
「……まあ、順調だよ。千鶴さんこそ、どうなの」
「ん。まあ、順調だ」
× × ×
「おっはよぉぉぉぉぉ!」
登校中のミナトに上空から声がかけられた。上空からだ。
「おはよう。奏女」
「んっ。おっはよー」
元気の良い少女は、中空に浮きながらにっこりと笑顔を返してくる。
彼女は丸井奏女、16歳。神代学園高等科1年生。ミナトの後輩にあたる。
そして彼女は―――、魔法少女である。
にわかには信じられないだろうが、魔法少女なのだから仕方がない。
本人曰く、ウニモグと呼んでいる妖精に力を与えられ、魔法少女をやっているらしい。全く信じられない話だが、ミナトは改造人間であるし、多少のファンタジーも容認せねばなるまい。
何より、こうして道具も使わずに空を飛んだり、わけのわからないエネルギー弾を放ったりされてしまったら認めるしかないだろう。それが、他人には見えないという妖精に語りかける、傍目から見れば痛々しい女子だったとしても、だ。
「ミナト先輩? なんかいま失礼なこと思いませんでした?」
「いえ。特には」
「なら良いです。あと、私を見上げててもスカートの中は見えないですよ」
「ふぁ!?」
「魔法のチカラです☆」
見た目とは裏腹に毒舌な奏女は気持ちよさそうに空を飛び学校へ向かっていった。
「―――ッ!?」
背後から近づく異様な気配にミナトが飛び退いた。
地面が爆ぜる。
「避ける、な」
「うるさいッ! 避けなかったら死ぬだろ!」
「死な、ない。あなた、なら」
背後からの襲撃者は攻撃をやめない。
その攻撃は一撃でアスファルトが爆ぜ、ブロック塀は砕ける。そんな一撃を受けてしまえば、普通の人間は堪ったものではない。それどころではない。確実に息の根が止まる。
「セリカ。やめろ! ほら、地面がッ!」
「関係、ない」
セリカと呼ばれた少女の攻撃は止むことがない。
フルネームはセリカ・ハーカー。年齢不詳。見た目は中学生くらいの美少女だが、その正確な年齢がわからない。学年は高等科2年。
彼女は―――、吸血鬼である。
「ほら、俺は血流れてないし。吸っても美味しくないぞ!」
「別に、血、は吸わ、ない。倒す、だけ。ムカつ、くから」
吸血鬼として円熟しているセリカにとって、ミナトとの喧嘩に一勝も出来ていないという事実が苛立たせている。まあ、これを喧嘩と呼ぶか戦闘と呼ぶかは人によって違うと思う。
少女の姿をしていても、その身体能力は人外と呼ぶにふさわしいものであるし、何より悠久の時を過ごすセリカの暇つぶしであった古今の武術修得が要因となるプライドが、このミナトとの喧嘩を呼んでいる。
その吸血鬼としての力を存分に奮うなら、ミナトも苦戦するのだろうが、こと肉弾戦において世界最高峰のサイボーグに敵うことはなかった。
「……きょう、は、……このへん、にして、おいてやる」
ぜはー、ぜはー、と距離のあるミナトまで聞こえるほどに息が荒いセリカ。
黒い翼を背中から出し、優雅とは程遠い有様で学校へ向かっていった。
「今後もこのへんにしておいて欲しいんだけどな……」
走破するにはキャタピラが必要になりそうな有様の周囲を見渡してため息が漏れる。
「よう。元くん。今日も派手にやったね」
「気配を消して近づくのはやめてくれ……」
背後を取られたミナトが嘆息する。このため息は、何度も背後を取られている自分に対してのものだろう。
ミナトの背後に現れたのは、五郎丸三郎、17歳、高等科2年。
現代を生きる―――、忍者である。
「ドーモ、ハジメ=サン」
「キャラが薄いからって、そういうのはやめたほうがいいと思うぞ」
「ワザマエ!」
「ニンジャ! 殺すべし!」
× × ×
「実際のところ、どうなの。元くん」
「え?何が」
高等科の教室で机を並べるミナトと三郎。
和気あいあいとしたクラスだが、一点だけ、セリカが鋭い眼光でミナトを睨めつけているという事を除けば平和な日常だ。
「ハーカーさんのことだよ。好きなの?」
「ふぁ!?」
「違うの?」
「違うわ!」
ラブコメ展開は望んでいない。そんなご都合恋愛は、アニメにでも任せておけばいいのだ。
「じゃあ、負けてあげればいいのに」
「そうは言っても、手加減したらバレるだろうし、何よりこの身体で負けたとあっちゃあ……」
「ああ、千堂先生が哀しむもんね」
「いやいやいや。そんなことはない」
「え?」
「千鶴のことだから、負けたらもっと魔改造するに決まってる」
何とも言えない苦笑いを貼り付けた三郎。
次の改造のときには、きっと股間に一物が付いているに違いない。そんなことになってしまったら、4年間溜まりに溜まった情動がどう暴発していくか、自分で想像しても恐ろしい。
身を震わせたミナトは、弾みでペンケースを……、落とさなかった。
正確には、落下が途中で止まったのだ。
「はい。ミナトくん」
「ああ。樫村、ありがとう」
宙に浮いたペンケースは、優しく机の上に着地する。
ペンケースを自在に操った彼女は樫村未里、17歳、高等科2年生。
彼女は―――、超能力者である。
ペンケースを操った能力はサイコキネシス。その他にもテレパシーやクレアボヤンスなど、超感覚的知覚と呼ばれる能力を持っている。神代学園には、他にも超能力者がいるが、未里はその最強の一角だ。
「ああ。あと、ミナトくん、千鶴先生が呼んでたよ?」
「え? なんで」
「なんか、今朝のメンテナンスでやり忘れたことがーとか言ってたかな」
「やり忘れた? ち◯こを付けるのは断固拒否したはずだけど……」
「みっ、ミナトくん? な、なな、なななななんて?」
顔を真っ赤にしている未里。
「あ、いや……、いやいやいやいや、そうじゃなくてだな。いや、そうじゃなくないんだが、俺じゃなくてだな。いや、俺なんだけど、俺じゃなくてだな」
「不潔!」
「不潔って……」
今にも湯気が吹き出そうな未里は、急ぎ足で自分の席へ戻っていった。
「元くん」
三郎は、親指を立てて無言の賞賛を送っていた。
周りを見回すと、クラスメイト(男)たちも、ニヤケ面でミナトに賞賛を送っている。
未里は、可愛らしい容姿とキャラクターから、クラスのみならず学校中で人気がある。女性としての人気もさることながら、どちらかと言うとマスコット的な扱いの方が強い。そんな彼女だからこそ、男女問わず人望を集めているのだろう。
そんな彼女を赤面させたミナトには、男性陣からは賞賛が、女性陣からは侮蔑の瞳が送られたのである。
× × ×
昼休み。
高等科とは別エリアにある大学棟へ向かうミナト。
初等科、中等科は同じエリア内に併設されており、高等科はその隣接エリア、その隣が大学なのだが、そのエリアは広大。
しかし、東京ドーム3つ分にもなろうかと言う広さも、音速を超えるスピードが出せるミナトにとっては散歩のようなものだ。もちろん、不用意にスピードを出せばソニックブームやらで周囲への影響が看過できないため、100キロほどに抑えている。
「千鶴さん」
「来たか」
息を切らすことなく、大学棟機械工学科の研究室。千堂千鶴の待つ研究室へと辿り着いた。
白衣の似合う少女は、椅子に腰掛けて珈琲を啜っていた。
「君は……、たしか千堂さんの実験体だな」
千鶴の隣に立っていたのは、上総壮介。
「おい。うるさいぞ。ここはおまえの研究室じゃないだろ」
「なん……だと?」
「聞こえなかった? ここはおまえの研究室じゃないんだから、さっさと出てけって言ってるんだ」
千鶴はオールジャンルジーニアスだが、現在は機械工学科に籍を置いている。もちろん、学生などではなく客員教授として。
「ミナト。やめたまえ」
「あ?」
「上総くんも。何度も来てもらって悪いが、研究室に学生は要らない。中富先生のところはどうだ? 彼は若いが見どころがある」
若い、と言った千鶴よりも10以上離れている中富教授が可哀想だ。まだ見ぬ中富よりも若く、それでいて才能も技術もある千鶴に言われたは何も言えない。
「……、また来ます」
上総は悔しそうに下唇を噛みながら研究室を去っていった。
千鶴の研究室入りを望む上総は、何度も足を運んでいるようだった。無下に断られたとしても挑戦するほどに、千鶴の才能が輝かしいのだろう。
ろくな学歴も持っていない。学会として公式な成果があるわけでもない。だが、その才能は無類にして無比。そんな千鶴の姿に憧れる学生の気持ちはわからないでもない。
「まったく。君には目上への尊敬はないのか」
「いや、それを千鶴さんには言われたくないな」
「まあいいか」
まあいいかで一蹴されてしまう上総が少し可哀想になる。
「ところで何の用?」
「ああ。今朝聞き忘れたんだが、これとこれならどっちがいい?」
引き出しから陰茎を取り出した千鶴が振り向く頃には、ミナトは遥か彼方へと走り去っていた。
いかがだったでしょうか。
いろんな方の投稿をおもしろおかしく読ませてもらいつつ勉強しましたが、読みやすかったでしょうかね……
なろう投稿なんて当初は考えてなかったんですが、仕事中にめっちゃ調べてるふりしてずっとなろう読むぐらいハマってしまいまして、こんなことを始めてしましました。
今後共、読んでもらえれば幸いです。
よろしくお願いします!